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3章 紛争編

33話 王国会議‐前‐

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 白い街並み、広大な青い海、新緑な森、ここグラストルは立地に大変恵まれた都市だ。
 領内でもオラクトリアに引けを取らない美しい街並みと川を下った先に雄大な海がある。
 都内には、灰色をしたフォルメス城がそびえ立つことで有名だ。
 その立地からぺトラ侯爵領内にある各都市からの中継地点になっている。
 そんなグラストルにあるフォルメス城のとある一室にて報告が行われていた。


 街の様子が一望できる窓からは暖かな光が部屋を照らす。
 部屋の中には執務机に置かれた資料を見る老人と、書類を片手で捲りながら説明をする女、隣には腰に剣を差し腕を組む女騎士の三人がいる。

 「続いてオラクトリアに関してですが、国境線沿いにカナリッジ共和国軍と思われる兵を多数目撃したという報告が入っておりいます」

 肩口に切り揃えられた紺色の髪、神経質そうな顔立ちの目元には眼鏡が掛けられキリッっとした瞳が覗く。

「ふむ、オラクトリアの警備はどうなっておる?」

 執務机の資料から視線を向け顎に白い髭を蓄えた老人が髭を扱きながら問いかけると、もう一人の女騎士が口を開く。

「それに関しては私から話そう。現在オラクトリアには私の騎士団を向かわせ警備を強化したところだ。これから敵が国境線沿いに集結してくると思われるので随時派遣する予定になっている」

 さらりとした長いブロンドの髪が背中まで伸び、端正な顔立ちからは威厳な雰囲気を漂わせる。

「ふむ……警備の方はロマーリアに任せるとして今回のカナリッジの動きをどうみる?」

 男が視線をロマーリアへ向けると目を閉じ考えること暫し、目を開けると語り出す。

「そうだな、今回は規模は違えど何かしら仕掛けてくると予想している」

「その根拠を聞いてもよいか?」

「……勘だ」

 ロマーリアの返答に部屋が沈黙するが、隣の女が眼鏡を持ち上げ口を開いた。

「はぁぁ、ロマーリア将軍その返答は如何なものかと思います」

「ははは、よいよい。マリベルも神経質だな。お主が話すとこっちまで緊張するわい」

 男がロマーリアの返答に笑い出すと辺りが弛緩した。

「ぺトラ様まで……こっちは真面目にしているのに」

「なに、少々お主は硬過ぎよの。緩くはできんのか?」

 ぺトラ侯爵の問い掛けにムスッとした表情を見せるマリベルだが、その問いに答えたのはロマーリアだった。

「マリベルはこれでこそマリベルなのだ。変えようもあるまい?」

「確かにな……神経質なところがお主の取り柄だったな」

 散々な言われようのマリベルだが反撃とばかりに口を開く。

「そう言われますが、お二人が気を抜き過ぎるんです。私は普通です」

「ふふふ」

「くっくっくっ面白い事を言うなマリベルよ」

 マリベルの発言にぺトラ侯爵とロマーリアが一緒になって笑い、マリベルを揶揄う。

「もうしりません」

 手元の資料を勢いよく閉じるマリべルへ慰めるように声を掛けたのはロマーリアだ。

「へそを曲げんでもよかろうマリベル。侯爵様も少し揶揄い過ぎだ、マリベルがいなかったら領地が回らなくなると思うがこのままでいいのか?」

 ロマーリアが慰めるかと思いきや、マリベルを援護しぺトラ侯爵へ矛を向ける。

「そうだな、儂も少し揶揄い過ぎたなマリベルよ許してくれ」

 ぺトラ侯爵が謝ると手元の資料を広げ直したマリベルはムスッとした表情から神経質そうな顔へ戻った。

「はぁぁ、それで話を続けますがオラクトリアの警備はロマーリア将軍に任せるとして、将軍もオラクトリアへ向かわせるのですか?」

 マリベルの問いに髭を触りながらぺトラ侯爵が答える。

「いや実はな急な話なのだが明日、首都に向かう事になってのそれにお主ら二人には同伴して欲しいのだ」

「首都ですか……何か御用でも?」

 ぺトラ侯爵の言葉にすかさずマリベルが問いかけた。

「首都ヴィニオンで急な会議が開かれる予定が入ってな、儂にも招集がかかったというわけだ」

 ぺトラ侯爵の発言に驚きの表情を見せるのはマリベルでロマーリアは騎士然としている。

「ぺトラ様、そのような重要な事は早めに言って頂きたいです。明日以降の予定を調節しないといけませんので」

 マリベルは、手元の資料に胸ポケットに差してあったペンを取り出すと何やら書き込み始めた。

「すまんすまん。この場で言おうと思っていたのだがな……それで二人とも王国会議には秘書と護衛という名目で同伴してもらうがよいな?」

 ぺトラ侯爵侯爵の問い掛けに素早く答えたのはロマーリアだ。

「私は護衛として同伴だな了解した」

「分かりました。会議の間は他の者に指示を出しておきます」

 二人の了解を得たぺトラ侯爵は口を開きロマーリアへ向く。

「その会議には勿論ルネス卿も来るだろうな」

 ぺトラ侯爵の言葉にロマーリアの目が鋭くなった。

「ほほぉ、ならあの女も護衛に来るというわけだな?」

「恐らくルネス卿の護衛にはミリア将軍が同伴するだろう」

 少々雲行きが怪しくなった雰囲気を破ったのはマリベルだ。

「ルネス侯爵の事は置ておくとして、明日に向けての手配やら準備などをしますので私は戻ります」

「そうだな、明日が楽しみだ」

 二人はぺトラ侯爵にお辞儀をすると部屋から出て行った。

「会議が楽しみだな」

 部屋にはぺトラ侯爵の呟きが響いた。
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