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Ⅱ‐92 大人の女性?

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■チタへ向かう街道

 サリナは久しぶりに車の運転をさせてもらって嬉しかった。最近のサトルはお母さんやリンネと一緒の時が多いような気がしていた上に、あのメアリーという王女様が来て・・・、思いだすと腹立つので無理やり意識を運転に集中させた。目的地のチタへは車なら1時間もあれば着くはずだった。サトルは今回の火の国へは自分とミーシャ、お母さん、リンネ、そしてショーイの5人を連れて行くことにしてくれた。なんとなく今回ものけ者にされそうでイライラしていたが、ミーシャからも連れて行くようにお願いしてくれたみたいだった。

 ミーシャはいつも優しい。サリナにはお兄ちゃんしかいないが、実の姉がいるとこんな感じなのかもしれない。年齢は一つか二つしか変わらないが、ミーシャは自分よりずっと大人だった。

 ―私も大人に成らないと・・・。

 頭ではそんな風に思ってみるものの大人に成る方法はサリナには良くわからなかった。

 ―どうすれば、大人に・・・、大人の女性に成れるんだろ?

 運転しながらちらりとバックミラーで後部座席のお母さんとリンネを見ると、お母さんは熟睡中でリンネは外の景色を見ているようだった。今日はチタから船で火の国まで移動する予定だから、船の上でリンネに聞いてみることにしよう。

 ―私ももうすぐ16歳、頑張んなきゃ!

■チタの町

 チタの町では黒い死人達のアジトをのぞいてみたが、既にもぬけの殻だった。せっかくなので倉庫から繋がっている桟橋からプレジャーボートを浮かべて乗り込んだ。火の国までは川を上る方が2時間は早く着くはずだった。街道よりも川の方が距離が短い上に川幅もゆったりしているので、時速60kmぐらいは楽にだせるはずだ。久しぶりにボートを操縦すると、朝の乾いた空気が頬に当たって気持ちよかった。他のみんなもゆったりした椅子の上で寛いでいる。前回は火の国の兵に見つからないようにと言う緊張感があったが、今回は招かれているお客様だから、気分的にもリラックスしている。ボートに乗るのが初めてのママさんもご機嫌のようだ。

「うわー、サリナ、凄いですねこの船は・・・、こんなに早い船があるなんてね、それにほとんど揺れないのですね」

 マリアンヌとサリナは波の無い川面をすべるように進んで行くプレジャーボートの後部デッキにあるソファにミーシャと一緒に並んで座っていた。

「うん、サトルの船でこれが一番乗り心地が良いと思うよ。馬車の道よりも川の方が早く走れるんだって」
「そうなのですか、しかし、不思議ですね、帆も無いのにこんなに早いなんてね。あの自動車もですけど、サトルの魔法はどうやって神様にお願いしてるんでしょうね」
「うん、私も不思議だったけど、そういう魔法なんだって思うことにしたの。そうじゃないと不思議がいっぱいになっちゃうから」
「不思議がいっぱい・・・ね。その通りですね」

「ねえ、リンネ。教えて欲しいことがあるの」

 サリナはリンネに向き直って耳元で話しかけた。船の上は風が吹き抜けて、話し声は遠くには聞こえない。ミーシャとショーイは前にある運転席横のソファーに座っているから、内容は分からないはずだった。

「どうしたんだい? 改まって」
「うん、あのね。大人・・・ってどうやったらなれるんだろ?」
「大人? どういう意味なんだい? 年を取ればみんな大人になるだろ?」
「うん、そうだけど、おんなじ16歳でも大人の人とあんまり大人じゃない人っているよね?」
「大人じゃない・・・って、あんたの事かい?」
「えっ!? やっぱり、リンネもあたしのことを子供だと思ってる?」
「そうだねぇ・・・、あんたは素直で良いだからね、私たちからすると子供のように思ってしまうんだろうね。あんたぐらいの年だと周りにいる人間次第で、子供にも大人にもなるんだろうよ」
「周りの人たち?」

 サリナは風にたなびく髪を手で抑えて首を傾げた。

「ああ、自分より年上の人といるとどうしても甘えたり頼ったりして、子供っぽくなるのさ。逆にあんただって、エルやアナと一緒に居れば大人っぽく振舞っているだろ?」

 なんとなくリンネの言うことが分かってきた。確かにエル達の面倒を見ているときは自分がしっかりしないといけないと思っている。そういう部分が大人っぽくと言う事なんだろう。だけど、サトルに大人っぽいと思ってもらうためには、サトルと一緒の時に・・・。

「うん、そうかも。私は隠れて暮らしていた時間が長かったから、お兄ちゃん以外の人とはあんまり一緒に居ないし、ほとんど年上の人だったから・・・なおさらかな?」
「そうだよ。今だって、あんたが一番年下だろ?どうしたって、振舞いが子供っぽくなるんじゃないかい? だけど、あんたはそのままで良いと思うけどね。可愛らしくて」
「ありがと・・・、でもね、でも・・・、いつかは・・・、ううん、できれば早く大人の女になりたいの」
「大人の女・・・、はーん、サトルの気を引きたいんだね?」
「気を引く?うーんと、それはサトルに好きになって欲しいって意味?だったら、・・・そう・・・」

 サリナは少し俯いて恥ずかしそうにしたが、ミーシャの言うことを認めた。

「なるほどねぇ、だけど、あっちも子供だからね。あんたが頑張っても難しいかもねぇ」
「あっちも子供? でも、サトルはしっかりしているでしょ?」
「そう言うところもあるけど、男と女って意味ではあんたと変わらないさ。いや、あんたより子供かもしれないね」
「私より子供? どうして?」
「それは・・・、大人の男ならこんなにきれいな女がたくさんいれば、普通は部屋に連れ込んだりするもんさ」
「部屋に連れ込む・・・、どうしてサトルはそうしないのかな?」
「さあね、子供だからじゃないかい? だから、焦る必要ないさ。あんたもサトルもすぐに大人になるよ」
「そうかなぁ・・・」

 すぐに大人に成れる気は全然しなかった。だけど、リンネが言う通りサトルも子供なのだろうか? サトルはミーシャの事が好きなのは間違いない、それにミーシャも・・・、でも二人が恋人と言う訳ではない、ミーシャには婚約者がいるから? ううん、それだけじゃない、サトルはミーシャに好きだって伝えていないからか・・・、その辺が子供ってことかな? だったら私は・・・、そうだ! 私もちゃんと伝えないといけないんだ!

「リンネ! ありがとう、私、頑張る!」
「そ、そうかい。役に立ったなら良かったね。頑張りなよ」

 リンネは何を頑張るのかあえて聞かなかった。間違った方向だとしても、それも大人に成るためには必要なことだろう。自分の若いころ、といっても数百年前のことを思い出してリンネはサリナに笑顔を向けた。

■セントレア 王家別邸

 王女メアリーと魔法士アイリスはサロンでお茶を飲みながら、サトル達の行動を振り返っていた。

「昨日はセントレアの大教会に朝から行って、夕方まで出てこなかったようです。その前の日も夜になって教会からも戻って来たようです。いつ入ったのかは分からないのですが・・・」
「昨日は教会で丸一日何をしていたのかしら?」
「それは分かりません。教会の中に入ると目立ってしまいますので」
「そうね、やっぱり何とかして一緒に行動できるようにしないといけないわね。そのためには、何としても勇者の気を引かないと」
「では、メアリー様主催で食事会を開かれてはいかがでしょうか?ここの食事も十分ですが、もっと良い食材を国から送らせましょう」
「そうね、それも一つの手ね。それと・・・、あの獣人はここに残っているのでしょ?」
「ええ、メイド達に面倒を見るように頼んでいました」
「だったら、サトルが戻ってくるまでにあの2匹と仲良くなっておきましょう。それに、仕掛けも仕込んでおきましょうか」
「判りました、昼から茶菓子を振舞うと言って、あの二人を連れてきましょう」
「お願いするわ」

 メアリーは昨日までは獣人を排除するつもりでいたが、今は少し考えを変えていた。サトルの行動を把握するためには、あの獣人たちを取り込む方が手っ取り早い気がしていた。所詮は獣の子供だ。食べたことも無いような甘い菓子を出してやれば、何でも言うことを聞くだろう。

 ―まずはこちらに取り込みましょう。もてあそぶのは、必要な情報を得てからね。
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