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Ⅱ-156 再び神殿へ8

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■祭壇の最上部

 祭壇の上から見た景色は突っ込みどころ満載だった。祭壇周辺は密林だが、祭壇を中心に円を描くように1㎞ほど離れた場所は針葉樹林に変わっている。だが、その針葉樹林も少し先に行くと密林に戻っているのだが・・・、いずれにせよ自然界でこんな風に綺麗な円形の線が引かれることは無いだろう。しかし、それよりも・・・。

 -ここはどこだ?

 俺達が居るボルケーノ火山を囲むように険しい山がそびえている。密林地帯は窪地のようになっているのだが、火の国の北部で灰色のカーテンを船で通過した時にはそんな景色は無かった。ということは、カーテンの中でも外でもない? どうなったんだ? 

 -ドリーミアとは全然違う場所?・・・、それで魔法が・・・

「サトル、何か出てきたよ!・・・また亀!」

 考え込んでいた俺の後ろからサリナが声を掛け、シルバーが体をこすりつけて来た。どうやら乗って行けと言っているようだ。飛んだ方が速いかもしれないが、この世界では飛べ無いと判った。浮き上がることをイメージしても何も起こらない。振り返るとサリナの言う亀軍団はかなりの数が、山麓の神殿付近から飛び上がりこちらに来ようとしている。

「よし、サリナ。シルバーに乗ってここから降りるぞ!」
「うん!」

 腹這いになってくれたシルバーに二人でまたがると巨大な狼は登りの比じゃない跳躍を見せながら、祭壇を降り始めた。

 -落ちる!

「ウワァァ-!」

 乗ったことは無いがジェットコースターがこんな感じなのかもしれない。少しちびったかもしれないぐらいの恐怖で思わず大きな声が漏れてしまう。サリナも声は出さないが俺の背中にぴったりくっついて、腰に手を回してしがみついている。だが、恐怖の時間は3秒ぐらいだったかもしれない。シルバーは3回跳躍して祭壇から降りると密林の中に素早く駆け込んで行ったが、俺達を降ろすことも無く走り続けた。振り返ってみたが、木々の間から追ってくる亀は今のところ見えない。

「おい、どこまで行く・・・、そうか。ありがとう」

 シルバーは密林の中を走って来たミーシャの所へ俺達を連れて行ってくれたのだ。

「良かった!サトル、無事だったか?」
「うん、心配かけたみたいだな」
「・・・ああ。だが、元気なら良いのだ。それでシルバーはお前達を何処に連れて行ったのだ?」

 長い距離を走ったミーシャは少し息を切らせて頬が紅潮していたが、笑顔でシルバーの頭を撫でた。

「祭壇の上だよ。ネフロスの神官が居たんだけど、逃げられた。それよりも問題がいくつかある」
「どうした?」

 俺はここでは魔法が使えず、更に飛べないと言う事。それから、ここは元いた場所とは違う場所であることをミーシャとサリナに伝えた。

「そうか、やっぱりな」
「ミーシャには判っていたのか?」
「いや、魔法の件は知らなかったが。走っている最中に周りの気配が突然変わったんだ」
「ママさんたちが何処に居るかわかるか?」
「・・・こっちには来ていないんじゃないかな?」
「シルバー。ママさんたちの所へ連れて行ってくれるか?」

 ダメ元でシルバーに聞いてみたが、小首を傾げるようなしぐさをしたのでミーシャが言う通りこっちには来ていないのかもしれない。となると、この3人で何とかするしかないが・・・。

「とりあえず神殿から離れる方向に移動して、態勢を立て直して作戦を考えよう」
「うん、わかった」
「はーい!」

 何をするにしても、慎重に行かなければならない。ここでは大怪我でも安心の治療魔法が使えないのだ。この場所の事を把握して、距離を取って相手と戦う・・・、サリナも魔法が使えないし、なんだかこの世界に来た時に逆戻りした感じだ。

-慎重に怪我をしないように・・・。

■ネフロス神殿

 神官長は上神殿じょうしんでんに戻ると、神殿兵の兵長に指示を与えた。

「あいつらを祭壇とこの神殿に近づけないように空から監視しろ。地上からは猿人たちを放って捕らえるのだ。間違っても殺さないようにな」
「痛めつけても構わないのでしょうか? 猿人は加減が下手くそですので」
「構わん、死んでおらねば手足が千切れていても良い」
「かしこまりました」

 兵長は上神殿じょうしんでんの転移部屋から山麓にある兵の詰め所へと移動した。亀甲兵部隊がいる大部屋で5体の亀に弓兵を乗せて上空から毒矢を射かけるように指示をすると、一旦外に出て地下に続いている通路へと入って行った。

 下っている暗い通路の先には鋼鉄製の扉があり、その前に二人の剣士が立っていたが、兵長が頷くと閂を外して扉を開けた。中にはランプがいくつか灯されているが薄暗い部屋の壁際はほとんど見えない。兵長は入り口近くのランプを一つ外して、さらに奥へ進んだ。

「おい、“命令”だ。森の中にいる若い男と女の二人組を捕まえて来い。道具は好きなものを持って行って良いが、決して殺すな。判ったら今すぐ行け!」

 兵長は暗闇の中にいた毛むくじゃらの生き物たちに強い調子で命令した。棚のようになっている壁で寝転がっていたその生き物は、闇の契約で神殿に服従を誓わされている猿人だった。身長は2メートルぐらいあり、人よりも手が異様に長い。立っていても地面に手が届きそうだった。

 兵長の声を聞いて猿人たちは体を掻きながら起き上がり、近くにあるこん棒や短剣を持って兵長の横を通り抜けて外へと向かった。猿人たちはドリーミアで亜人と呼ばれる獣人とは異なり、人の言葉を話すことは出来ないが、人語を理解することは出来る。身体能力では圧倒的に人間よりも優れているが、生まれた時からネフロスの紋章を首筋に刻まれて、意思や自由はほとんど残されていなかった。

 暗い穴倉から出た猿人たちは密林に入ると木に登って素早く移動を始めた。地上には危険なラプトルがいるし、樹上の方が相手を探すのが容易になるからだ。これまでもこの密林で人狩りをしたことは何度かある。兵長の言う若い男女を探すのは容易たやすいはずだし、捕まえれば殺さない程度に痛めつけて良いという事だから、人間に対して多少の憂さ晴らしにはなる。

 -早い者勝ちだぞ!
 -久しぶりに目を抉ってやりたいな!
 -俺は骨を砕く音を聞きたい!

 猿人たちは鳴き声でコミュニケーションをとりながら、木から木に飛び移る速度を徐々に加速させていた。
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