上 下
17 / 103

17. 魔法学園と不審なメモ

しおりを挟む
「ひどいな。殴り込みだ」
「もう、お兄様ったら。殲滅じゃないのね」
「殲滅だと一瞬だからね。むしろボコボコにしてやりたい。それにしても、既に好きな奴がいるなんて、いや、居てもいいけどリーナに対する態度は許せないな」
「そうよね。まさか、キープ要員にされるとは思わなかったわ。でも、おかげで申し訳ないとか、後ろめたいとか、そういった気持ちを持たずに逃げ出せる。顔はいいけど態度がでかくて感じ悪かった」

「貴族的尊大な態度ってやつか。でも、一目惚れがなくて良かったじゃないか」
「あんなのに一目惚れするわけない! 顔はイケメンだったけど、系統的に腹黒貴公子って感じだったし、趣味じゃないわ」
「うーん。それにしても、黙って逃げるのは業腹だな。逃亡まえに仕返しは必要だ。よし、ギャフンといわせてから、脱出しよう」
「お兄様って結構好戦的よね」
「まぁ、リーナのチート頼りだけどね」

 バウムクーヘンに生クリームを添えてパクパクと食べながらお兄様が怒ってくれた。私の代わりに怒ってくれるから何だか救われる気がする。それにしても、バームクーヘンは素朴ながらも味わいがあって美味しい。
 このバウムクーヘンはお兄様と森の焚火の上でクルクルと何度も枝を回しながら作ったものだが森で色々作って食べていたのが懐かしい。あの平穏な日々が続けば良かったのに。

 むかつく婚約者との顔合わせがあってしばらくして、3月の終わりに魔法学園の寮に入寮した。寮といっても高位貴族のためには各自にタウンハウスが用意され、1階は社交ができる小さめの広間と厨房と控室に客間、侍女の為の部屋も2室ある。

 2階はプライベートな居間に身内に当たる従僕や侍女の為の部屋、小さなキッチンもここにある。そして3階は完全にプライベートな個室になっていて、私の部屋がある。

 それぞれの階ごとに個人認証ができて認められた者以外は出入りできないようになっていた。
 なので、侍女のシオは1階しか出入りできないようにした。
 どうせ侍女としての仕事はしないし、魔石を使えばほとんど事足りる。

 シオも私の世話はしたくないそうで、度々、街に出ては遊んでいる。乳母からかなりのお小遣いをもらっているみたいで楽しそうに過ごしているとお兄様が苦々し気に語ってくれた。

 そんなシオは解雇できればいいのにどういうわけか居座っている。どうせ、私やお兄様の言葉は大人たちには通じないのだ。
 シオは辺境伯家から侍女が監督に来る日だけ神妙な態度で侍女の振りをする。私も仕方がないので、その時だけ2階にシオの出入りを許可するけど、貴重品や大事なものは私室に移しておく。

 だけど、本宅から届けられる貴重な茶葉やお菓子類はいつの間にか無くなっているから、シオが持っていってるのだろう。
 最も、私とお兄様は飲み物やお菓子は自作できるから問題はない。

 さて、魔法学園に入学試験はなかった。
 基本的に貴族の子女が対象で『加護の儀』で加護が判明するので、そこで大まかな進路が決まってしまうらしい。

『魔法の加護』があれば文句なしに魔法学園に入学できる。
 微妙な加護の場合は過去に魔法関係に進化した例がある場合は補欠入学、過去に記録がなくても魔法に関連ありそうなら、補欠合格。

 お兄様のように魔法以外でも有用な加護に進化する可能性がある場合は従僕か侍女として身内か知り合いに付けて学園に行かせる。

 従僕と侍女は希望すれば主と一緒の教室で授業を受ける事ができるのだ。正式な生徒ではないので試験や課題はないが、加護が進化して家に認められたら魔法学園に編入する事ができる。
 加護が進化する事は割と普通にあるので、魔法学園のなかで彼らが特に差別される事はない。

 なので、お兄様は私のクラスで授業を受けて、ほぼ一緒にいることになる。男女の差はあるけれど異母兄であっても兄弟の場合は領主の加護でお互いに害する事はないから問題はないらしい。未成年に限るそうだけど。

 明日は入学式という日、学園の中を見て来ると言ったお兄様が慌てた様子で帰ってきた。

「リーナ。変なモノを拾った」
「変なモノ?」
「これを見てみて」

 そう言いながらお兄様が差し出してきたのは四つ折りになったノートの切れ端だった。
 そこには一番上に第一王子であるアルファント・ド・レクシャエンヤ・パールの名前が書いてあり、その下に私の婚約者のラクアート・ウオーター、宰相を務める侯爵家の次男、ガーヤ・ジートリス、騎士団長の三男、トーリスト・ガーター、魔法庁長官の三男、リンドン・マジーク。

 そして最後に、アーク・アプリコット すなわちお兄様の名前が書いてあった。

 その下にリーナ・アプリコット 私の名前もある。
 次にはフルール・フォスキーア、彼女は公爵令嬢で確か第一王子の婚約者候補の筆頭だったと思う。

「これって、何かしら? あら、ラクアート・ウオーターの名前に花丸が付いている」
「本当だ。なんだ、これ?! あっ、これ、高位貴族で16歳以下の子供のリストじゃないか」
「玉の輿狙いって事?」
「多分。で、リーナの婚約者が一番好みなんじゃないか」
「あんな婚約者、熨斗つけて差し上げたいわ。でも、どうして、私の名前があるの?」
「婚約者だからじゃないか。公爵令嬢も多分、第一王子の婚約者確定らしいから。他の連中は次男とか三男だから婚約者はいない」

「お兄様の名前もあるわよ」
「それはどうしてだろう?」
「バナナの加護を手に入れたら後を継げるかもしれないから?」
「まさか冗談じゃない! 俺は庶子だからそのまま飼い殺しだよ。でも、怖いな。どうやって俺らの情報を手に入れたんだろう」
「一人、心当たりがあるけど」
「ああ、シオか」
「まあね」

 それにしても、貴族社会って怖い。

 学園は婚活の場所と言えるから、これから色々とありそうな気がする。
 嫌な婚約者だけど、居たほうが人避けになるのかもしれない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:155

流刑地公爵妻の魔法改革~ハズレ光属性だけど前世知識でお役立ち~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:4,361

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:2,625

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:1,643

この結婚、ケリつけさせて頂きます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:2,912

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,219pt お気に入り:93

処理中です...