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51. 14歳のクリスマス
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もうすぐクリスマス。
4年生の先輩たちはこのクリスマスが終わると引退になる。
なので、新たに学生会のメンバーとして今の2年生から会計として、伯爵家の令嬢が参加してくださる事になった。今は引き継ぎの真っ最中である。
ラシーヌ様とおっしゃって何と、女性ですよ。
これまで学生会は私一人だけが女性だったのでちょっと肩身が狭い思いをしていた。彼女は2学期になってから騎士学校から転入してきた変わり種で淑やかなのにできる人。
ランディ様の従妹で騎士学校に行っていたのは武芸の腕を磨きたかったからだそう。今回、魔法学園に転入してきたのは、実は私の護衛を兼ねているそうだ。
「初めまして。ラシーヌとお呼びください。女神様にお会いできて光栄です。これからよろしくお願いいたします」
「はじめまして、私こそリーナとお呼びください。私、女神ではありませんのよ。ただのお菓子が好きな女の子です」
「ランディからお菓子の女神様と伺っていますわ。他にお料理もとても美味しいと。殿下の侍従になって得をしたと申しておりました。私も楽しみにしております」
ランディ様はすました顔でそばにいたけど、どうも私の料理やお菓子をアチコチで自慢していたらしい。
ラシーヌ様ともう一人、1年生からも侯爵家の方が庶務として参加されることになった。
お二人は私が作ったお茶菓子を喜んで食べていた。最近は学生会のオヤツは私の作ったものを持ち込んで皆さまに振る舞っている。
今日のおやつはドラ焼きとマドレーヌ、それに卵とハムのサンドイッチ。サンドイッチのパンはお兄様のパンの木から出した食パンなので、この世界のパンと比べてほのかに甘味があってとても美味しい。
「本当にリーナとアークは素晴らしい人材だよ。二人に会えたのは私にとってとてもラッキーな事だった」
「お二人が学生会に入ってくださって本当に良かったです」
「美味しいです」
殿下とランディ様だけでなく他の学生会のメンバーも嬉しそうに頷きながらお菓子とサンドイッチに手を伸ばしていた。それはピンクさんに好意的なガーヤ・ジートリス様とリンドン・マジーク様もそうなので、この二人は他のピンク教の人に比べると真面なのかもしれないと思う。
お兄様は私の侍従だけど、どうしても女性だけの所へはいけないし、アルファント殿下からの呼び出しとかダンジョンの打ち合わせに学生会の仕事と私と離れていることが増えてきてしまった。
お兄様が一緒だとそこまで酷い事は言われないけど、フルール様たちと女性だけで動いていると聞こえるように悪口を言ってくるピンク教の人がいて、このまま何か危害を加えられたらイヤだなと思っていた。
だので、ラシーヌ様が来てくださったのは本当に心強い。
私自身の防御としてはすごく薄い水の粒子をバリヤーのように張れるようになったので、物理的な攻撃を受け止めてはじき返すのは楽にできるようになった。
お兄様には「攻撃も防御も向かうところ敵なしのチート。リーナの側にいれば安心」なんて言われるけど女の子としてそれはどうかなって思う。
ピンク教の人が何かしてきても私に危害を加える事は出来ないと思う。時折、足を差し出してくる人もいるけど、割と運動神経は良いほうなので黙って踏みつけていく事にしている。
階段でぶつかって来た時は私を囲むバリヤーにはじかれて尻もちをついていた。
か弱い女の子に向かって物理的に危害を加えようとしてくるなんてあの人たちの頭はおかしいと思う。しかも、私はあの人たちより高位の貴族なのに。
「ガーヤとリンドンはフレグランス嬢と仲良くしているのか」
オヤツを皆で摘まんでいる時にアルファント殿下が直球で二人にピンクさんの事を聞いた。聞きたいけど聞けないことだったので、思わず二人を見てしまった。それは皆も同じでその場はシーンとしてしまった。なんか、気まずい。
「いえ、学生会の中ではよく話すほうだったと思うのですが、最近はあまり」
「私もよく彼女から差し入れを貰っていたので可愛いし、良い子だなと思っていたのですが、最近はミス・リーナのお菓子が美味しいので彼女からのお菓子は食べてないのです。それにロケットペンダントに香水付きハンカチを入れたものを貰ったのですが、何故、それを寄こすのかわけが分からなくて……」
「リンドンもあのペンダントを貰ったのか? 私も貰ったが、女性が渡してくるものを返すのもどうかと思って受け取ったが、私の侍従が嫌な臭いがするからと神殿に持っていってしまった。お祓いして神殿に納めるそうだ」
「本当か。私もあのペンダントの扱いには困っていたんだ。フレグランス嬢はラクアートの彼女だし無碍にはできないと思っていたけど、最近は距離が近くて困っていたんだ。実はペンダントも侍従が密閉できる缶に入れてタウンハウスの外の物置に仕舞ってしまった。不吉な感じがすると言って」
どうやら、お二人はピンクさんに攻略されてはいなかったみたい。
良かった。学生会のメンバーに冷たくされると挫けてしまいそうだから。
とりあえず、来年の学生会は何とかなりそうな気がしてきた。
でも、アルファント殿下が4年生になると、ラクアート様とピンクさんも4年生になって本格的に乙女ゲームが始まるらしいから、それが怖い。
魔王が復活するかもしれないのも怖いけど、魔王は小太郎さんだから何とかしてあげたい、とも思う。
そして迎えたクリスマス。
学生会主催のクリスマス会はあっけないほど何事もなく無事に済んだ。
ピンクさんは桜の木に行くのだろうか。
桜の木が消失してから何度も見回りの人が確認に言っているが、そこには何もない、そうだ。
クリスマスにも見てもらったけど、やはり桜の木は消えたまま。
崖崩れを起こしていた洞窟はそこに何かがあったという痕跡すらなくなっていたそうだ。
希望的観測だけど、乙女ゲームはひょっとして始まらない?!
かもしれない。
4年生の先輩たちはこのクリスマスが終わると引退になる。
なので、新たに学生会のメンバーとして今の2年生から会計として、伯爵家の令嬢が参加してくださる事になった。今は引き継ぎの真っ最中である。
ラシーヌ様とおっしゃって何と、女性ですよ。
これまで学生会は私一人だけが女性だったのでちょっと肩身が狭い思いをしていた。彼女は2学期になってから騎士学校から転入してきた変わり種で淑やかなのにできる人。
ランディ様の従妹で騎士学校に行っていたのは武芸の腕を磨きたかったからだそう。今回、魔法学園に転入してきたのは、実は私の護衛を兼ねているそうだ。
「初めまして。ラシーヌとお呼びください。女神様にお会いできて光栄です。これからよろしくお願いいたします」
「はじめまして、私こそリーナとお呼びください。私、女神ではありませんのよ。ただのお菓子が好きな女の子です」
「ランディからお菓子の女神様と伺っていますわ。他にお料理もとても美味しいと。殿下の侍従になって得をしたと申しておりました。私も楽しみにしております」
ランディ様はすました顔でそばにいたけど、どうも私の料理やお菓子をアチコチで自慢していたらしい。
ラシーヌ様ともう一人、1年生からも侯爵家の方が庶務として参加されることになった。
お二人は私が作ったお茶菓子を喜んで食べていた。最近は学生会のオヤツは私の作ったものを持ち込んで皆さまに振る舞っている。
今日のおやつはドラ焼きとマドレーヌ、それに卵とハムのサンドイッチ。サンドイッチのパンはお兄様のパンの木から出した食パンなので、この世界のパンと比べてほのかに甘味があってとても美味しい。
「本当にリーナとアークは素晴らしい人材だよ。二人に会えたのは私にとってとてもラッキーな事だった」
「お二人が学生会に入ってくださって本当に良かったです」
「美味しいです」
殿下とランディ様だけでなく他の学生会のメンバーも嬉しそうに頷きながらお菓子とサンドイッチに手を伸ばしていた。それはピンクさんに好意的なガーヤ・ジートリス様とリンドン・マジーク様もそうなので、この二人は他のピンク教の人に比べると真面なのかもしれないと思う。
お兄様は私の侍従だけど、どうしても女性だけの所へはいけないし、アルファント殿下からの呼び出しとかダンジョンの打ち合わせに学生会の仕事と私と離れていることが増えてきてしまった。
お兄様が一緒だとそこまで酷い事は言われないけど、フルール様たちと女性だけで動いていると聞こえるように悪口を言ってくるピンク教の人がいて、このまま何か危害を加えられたらイヤだなと思っていた。
だので、ラシーヌ様が来てくださったのは本当に心強い。
私自身の防御としてはすごく薄い水の粒子をバリヤーのように張れるようになったので、物理的な攻撃を受け止めてはじき返すのは楽にできるようになった。
お兄様には「攻撃も防御も向かうところ敵なしのチート。リーナの側にいれば安心」なんて言われるけど女の子としてそれはどうかなって思う。
ピンク教の人が何かしてきても私に危害を加える事は出来ないと思う。時折、足を差し出してくる人もいるけど、割と運動神経は良いほうなので黙って踏みつけていく事にしている。
階段でぶつかって来た時は私を囲むバリヤーにはじかれて尻もちをついていた。
か弱い女の子に向かって物理的に危害を加えようとしてくるなんてあの人たちの頭はおかしいと思う。しかも、私はあの人たちより高位の貴族なのに。
「ガーヤとリンドンはフレグランス嬢と仲良くしているのか」
オヤツを皆で摘まんでいる時にアルファント殿下が直球で二人にピンクさんの事を聞いた。聞きたいけど聞けないことだったので、思わず二人を見てしまった。それは皆も同じでその場はシーンとしてしまった。なんか、気まずい。
「いえ、学生会の中ではよく話すほうだったと思うのですが、最近はあまり」
「私もよく彼女から差し入れを貰っていたので可愛いし、良い子だなと思っていたのですが、最近はミス・リーナのお菓子が美味しいので彼女からのお菓子は食べてないのです。それにロケットペンダントに香水付きハンカチを入れたものを貰ったのですが、何故、それを寄こすのかわけが分からなくて……」
「リンドンもあのペンダントを貰ったのか? 私も貰ったが、女性が渡してくるものを返すのもどうかと思って受け取ったが、私の侍従が嫌な臭いがするからと神殿に持っていってしまった。お祓いして神殿に納めるそうだ」
「本当か。私もあのペンダントの扱いには困っていたんだ。フレグランス嬢はラクアートの彼女だし無碍にはできないと思っていたけど、最近は距離が近くて困っていたんだ。実はペンダントも侍従が密閉できる缶に入れてタウンハウスの外の物置に仕舞ってしまった。不吉な感じがすると言って」
どうやら、お二人はピンクさんに攻略されてはいなかったみたい。
良かった。学生会のメンバーに冷たくされると挫けてしまいそうだから。
とりあえず、来年の学生会は何とかなりそうな気がしてきた。
でも、アルファント殿下が4年生になると、ラクアート様とピンクさんも4年生になって本格的に乙女ゲームが始まるらしいから、それが怖い。
魔王が復活するかもしれないのも怖いけど、魔王は小太郎さんだから何とかしてあげたい、とも思う。
そして迎えたクリスマス。
学生会主催のクリスマス会はあっけないほど何事もなく無事に済んだ。
ピンクさんは桜の木に行くのだろうか。
桜の木が消失してから何度も見回りの人が確認に言っているが、そこには何もない、そうだ。
クリスマスにも見てもらったけど、やはり桜の木は消えたまま。
崖崩れを起こしていた洞窟はそこに何かがあったという痕跡すらなくなっていたそうだ。
希望的観測だけど、乙女ゲームはひょっとして始まらない?!
かもしれない。
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