辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

文字の大きさ
52 / 103

52. 桜と魔女?

しおりを挟む
「桜が咲いたね」
「ええ、咲いているわ」
「3輪だけ」
「どういう事なんでしょう」
「まさか、ピンクさんが何かしたというわけではないですよね」
「お休み前にもう一度、イベントを起こしに行くって言っていましたけど、桜の木は無くなってしまったので何も起きないはずですし、エーアリア様が卒業されてからは「魔王は別にいいかな、汚れ仕事しなくても聖女にはなれたしやっぱ、人生は恋愛! 色んなタイプにチヤホヤされたい。私が4年になる前にしっかり穴塞ぎやっといて!」と私に言いに来られました」

「何様!」
「クサピンクのくせに」
「何故、リーナに上から目線であんなに威張れるのか訳がわからん」
「本当ですよ。俺だってアイツに文句言いたいのに、実際会うと臭くて思考回路が固まってしまうんです。この間なんて、あいつ、直接俺に香水、ぶっかけたんですよ」
「はっ、直接? アークにかけた?」
「香水のビンを持ってシューッって振りかけてきたんです。直ぐに、リーナが水球で綺麗にしてくれましたけど」
「信じられないな」
「無作法ですね」
「本当ですよ」

 私達は王宮の神殿にいた。
 学園は休みに入ったが学生会の仕事でまだ学園に残っていたところを王宮に呼び出されたのだ。

 桜の花がこれまでは1輪だけ咲いていたのに、胴吹き桜が3輪に増えていた。
 桜の幹を等間隔に囲むように3輪の桜の花が咲いている。
 今朝がた神官が見つけて慌てて知らせてきたそうだ。フルフルと風に揺れているのが可憐だけど、どういう事だろうか。

 ピンクさんの誕生日は12月29日だけど、本来のルートだとクリスマスが終わった後、14歳の時に聖女になって聖女になるのがゲームの始まり……、としたらこの小さな桜が咲いたのは何か関係があるのかしら。

「ピンクは今、母方の親戚の家にいるそうだ。アプリコット辺境伯領のすぐ隣だが」
「そういえば、ゲームだともうすぐ聖女に成るんでしたね。本人曰く既に聖女になっているそうですが」
「そう、そして、不思議なのがリーナの『水魔法の加護』がピンクの奴に譲渡できると言っているのが……」
「そのような事はあり得ません」

 ノヴァ神官がきっぱりと言い切った。

「女神様から与えられる加護が譲渡できるはずがないのです。できるとしたらそれこそ、女神様自身でないと」
「ピンクが女神ならこの世は終わる」
「ピンク頭がそれこそ、魔王、いや、魔女、魔女、……ピンク頭が予言の中の魔女で何かするんじゃないか、そして、それをリーナが何とかする、とか」
「お兄様、どうしてそこで私が出てくるの?」
「いや、だって、リーナ、チートだし」
「その、チートというのはよくわかりませんが、リーナ様が歴代の聖女の能力を軽く凌駕しているのは 間違いありません。もし、聖女になられたらそれこそ最強ですね。殿下とアーク様がリーナ様を補助されれば何があっても大丈夫な気がします」

 うわー。やめてほしい。殿下もお兄様もうん、うんと肯かないで。私は平凡な幸せを、平凡に幸せを目指したい。

「そういえば、ピンク教の中で改心した人がいるとか聞きましたが?」
「ああ、そうなんだ。1年生で学生会に入ったのがいるんだが、彼の友人がおかしくなってピンク教に入ったらしい」
「そうなんですよ。で、しつこくピンク教に勧誘されて、もう是非一度だけでも集会に出ると世界が変わるから、とかやる気に満ちて楽しく過ごせるようになる、とかピンク頭と一緒の時を過ごすと天にも昇る心地よい気持ちになれるとか言われたそうで」

「なんだか、それって麻薬の世界へと誘っているみたいですね」
「あの香水は麻薬の作用があるのか?」
「ハンカチを王宮と神殿の詳細鑑定に出しましたが、ただ『臭い香水の付いたハンカチ』と出たそうです」

「ゴホン、それで学生会の彼、ノームルというんですが、彼が煩く喋るピンク教の友人の口にリーナの作ったリンゴケーキを詰め込んでやったら、大人しくモグモグと食べてもっとくれと言うので2切れほど食べさせたら、憑き物が落ちたみたいになったそうなんです。何であれが良いと思ったんだろうって言って、ロケットペンダントを引きちぎってこんな臭いモノ付けてられるか! って」

「そのロケットペンダントはどうしたのですか?」
「リーナの水風船の中に入れていますよ。何故かノームルが俺に渡してきたので。俺にも星の王子様も持っててとピンク頭が寄こしてきたので、それもリーナが持っています」
「お兄様が受け取らないので、「もう恥ずかしがっちゃって。ツンツンなんだからしょうがないなぁ、リーナ、後で渡したげて」と言ってテーブルに置いたのを仕方ないので持っています」

「ロケットペンダントか。中に臭い香水つきのハンカチの切れ端が入っている奴だな。あの臭いを良い臭いだと言っていた信者がリーナのケーキを食べて……。リーナ、リンゴケーキに何か入れたか? あのリンゴケーキを食べたら元気が溢れてきた、まるでポーションを飲んだ時みたいに」
「あっ、リンゴケーキにはポーション効果のある牛乳を使ったって言ってました」
「お兄様!」
「ポーション効果のある牛乳、牛乳まで『水魔法の加護』で出せるのか、それもポーション効果、まさに規格外だな」
「素晴らしいですね。私は頂いておりませんが」

 ノヴァ神官が笑顔で私を見た。
 そのリンゴケーキはクリスマス会が終わった時に疲れている学生会の面々にホールで渡したものだ。お疲れかな、と思ってポーション効果を牛乳につけて焼いてみた。かなり美味しくできたのだけど、ポーション入りはやり過ぎたかもしれない。

 ノヴァ神官が笑顔を崩さない。
 視線に負けてリンゴケーキのホールを一つ出すと、

「催促したわけではございませんが、ありがとうございます」
「催促していたぞ。目つきが」
「いえ、いえ、いつもリーナ様から美味しいモノを頂いている殿下にはかないません」
「うわー、会話がオカシイ」

 とにかく、私の『液体の加護』は誤魔化せたし、ノヴァ神官も満足そうなのは良かった。殿下にも追加で一つ渡して喜ばれた。
 けど、お兄様の口の軽さは何とかしなくては。

 そして、私のポーションにはピンク教の洗脳を解く効果がありそう、という結論になった。

 ケーキのやり取りをしている時に王家の影からご連絡鳥が飛んできた。
 ピンクさんについている王家の影によると、ピンクさんは桜の木が無くなっているのに絶叫し、洞窟のあった場所でアチコチ聖女の杖を突きさしてはブツブツ言って悪態を喚いて、やがて諦めて帰ったそうだ。

「魔女の呪いを解く聖女」とお兄様がいうけど
 確かに、ピンクさん、魔女化しているかもしれない。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

その聖女は身分を捨てた

喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

処理中です...