59 / 103
59. アルファント殿下と婚約
しおりを挟む「リーナ、リーナ」
アルファント殿下の声が甘い。どうしよう。恥ずかしい。ちょっと低めのいい声……。
そう言えば「好きだ、愛してる」って言われたんだった。
どうしよう。
と悩んでいたら朝だった。夢の中でも殿下の声が聞こえてくるなんてどうかしている。
春休みに入って直ぐ、本神殿でアルファント殿下と私の婚約の儀が行われることになった。
本神殿はとても立派で大きな建物だった。
そして、立ち合いは神殿長とノヴァ神官に大勢の神官たち。国王陛下にこの国の宰相、主な大臣までいらっしゃるし、私のステータスがうまくごまかせるのかすごく心配。お兄様も神妙な顔をして端っこに並んでいるけど、距離が遠い。
事前にステータスやレベルの事を知っているノヴァ神官から
「誤魔化したステータスで大丈夫です。大元のクリスタルは神殿の奥に安置されていて、普段は簡易のクリスタルを使いますから。どのみち、大元のクリスタルでも出てくるステータスは変わらないんです。レベルが分かるのはリーナ様ぐらいですよ。安心して『隠蔽の加護』を使ってください」
と言われてしまった。
誤魔化しているのは違いないけど、私の加護は『液体の加護』なんです。とは、今更言えない。この秘密はどこまで持っていけばいいのだろう。
一応今は
リーナ・アプリコット
14歳
加護『水魔法』
が表向きのステータス。
『隠蔽の加護』で本当のステータスを隠しているのはもう、アルファント殿下を始め、国王陛下やノヴァ神官も知っているけどアプリコット家の領主であるお父様と奥様方はご存じないのでそのまま加護は隠しておくことになった。
もちろん、聖女の杖を持っていることもまだ内緒。
本当は『水魔法の加護』ではなく『液体の加護』である事もお父様には絶対にばれたくない。
今回の婚約破棄はラクアート様がフレグランス・タチワルーイ嬢に入れあげて、彼女を正妻にするために一旦、私との婚約を破棄してフレグランス嬢と婚約してから、また、改めて私を側妃として迎えるつもりだったとの事で、ウオーター公爵家としてはラクアート様の勝手な暴走として片付けたかったみたいだけど、高位貴族の大勢いるところで宣言してしまったのと、ノヴァ神官が立ち会ってしまった事でなかったことにはできなかった。
しかも、ラクアート様はしっかりと婚約破棄の書類にサインしているし。
それでも、「もし、アルファント殿下の婚約の話がなければそのまま婚約を続けるつもりだった」とお父様は言いながら呆れた顔で私を見た。
「学生会で会長補佐の仕事ができるなんて、なかなかやるもんだと思っていたが、まさかアルファント殿下を捕まえるなんて驚いた。よくやったとしか言えないが、『水魔法の加護』は聖女の加護でもあるから王家としても確保しておきたかったのだろう」
「はい」
「今の時点では桜は咲いていないし、聖女は必要とされていないがダンジョンの活性化には『水魔法の加護』の使い手が必要とされるからな。お前の魔力がかなり多いのは知っていたがまさか、学園生の内に第一人者になるとは思わなかった。おかげで王家に嫁げることになったのは何とも、めでたい事だ」
いいえ、お父様、桜は咲いているんです。3輪だけだけど。
高位貴族は流石に桜の花が咲くと聖女が現れる、という事を知っている。そして、ラクアート様がピンクさんの事を聖女だと言っているのを戯言だと思っている。
婚約式が始まった。
神殿長からおめでとうございますと挨拶があり、その後、神殿長とノヴァ神官がご神体の女神像に祈りを捧げた。
そして、神官が丸い水晶玉をご神体の前に置いたので、加護の確認のためにまずはアルファント殿下がご神体に深く拝礼をして水晶玉に触れると物凄く眩い光が輝いた。
明るい金色の光だ。そして、半透明で大きなステータスカードが現れた。
アルファント・ド・レクシャエンヤ・パール
15歳
加護『光の加護』レベル12
加護『治癒の加護』レベル3
ああ、しまった。
殿下のステータスのレベルを消すのを忘れていた。私のバカ。自分のステータスで頭が一杯だったから。
「おおっ!」
「凄い光だ、それになんだ、レベルだと!?」
「加護が二つ! 確か『光の加護』だけだったはずなのに」
「さすがアルファント殿下! 『治癒の加護』までお持ちになるとは」
外野から色々な声が聞こえてくる。
殿下もノヴァ神官も一瞬、アッ! という顔をした。二人とも完全にレベルの事を忘れていたらしい。
「静粛に!」
神殿長の声にどよめきは収まったが、目線で促されて仕方なく前に進み出た。殿下の後はすごくやりにくい。
深く拝礼をして水晶玉に触れるとまた、物凄く眩い光があふれ出た。
殿下に比べると白く、白銀色といった感じの色の光が溢れてきた。殿下の光はピカッと光る感じだが私の光はフンワリと広がる感じ。
リーナ・アプリコット
14歳
加護『水魔法』
殿下に比べると普通だ。けれど
「なんと凄い光だ」
「柔らかい色だが物凄い魔力量だ」
「この魔力量だと殿下とお似合いだ」
「王家も安泰だ」
「金と銀でバランスも良い」
また、どよめきが聞こえてきた。魔力量が多いので驚かれたらしい。
婚約式は殿下のレベルがばれてしまうというアクシデントはあったが無事におわり、どうやら王家や重鎮の方々にも受け入れられというか、歓迎されているようだ。
でも、外堀が埋められたような気はするけど、私の覚悟はまだグラグラしている。
どうしよう、とまだ思っている。
それにしても、ピンクさんが行方不明なのが怖い。
王家の影がピンクさんが寮に入ったのを確認しているのに、出ていったのはわからなかったというのが不安材料だし、その後も全く行方が分からないのもおかしいと思う。
ピンクさんの『隠蔽の加護』では一応、灰色の靄をバックの中に忍ばせる事によってアイテムボックスの機能を持つことはできるし、ひょっとして灰色の靄の中に自分自身を隠すことができるのではないだろうか。
それでも、ラクアート様が謹慎していてもピンクさんなら平然と私の前に出てくるような気がする。
私に冤罪をかぶせて謝罪を強要してきても、悪いなんて欠片にも思ってないだろうし。
ひょっとして、ひょっとしてだけど、ピンクさんは拉致された? かもしれない。
何事も起きなければいいけど。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
その聖女は身分を捨てた
喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる