辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

文字の大きさ
84 / 103

84. 王宮にて

しおりを挟む
「お兄様、どうしよう。お兄様」
「うーん。薄々、リーナがヒロインのほうがシックリくるなぁ、と思っていたから」
「それもお断りしたいけど、お兄様が卵かもしれないというのが、問題だわ」
「いや、俺の母親は間違いなく人間だったし、俺、薄っすらとだけど、何となく狭いところをくぐって出てきた、って覚えがあるんだ。卵の殻を破った覚えはない。それに、リーナ。卵じゃなくて卵から生まれたのか、って言わないと卵人間みたいじゃないか」

「お兄様は人間に見えるわ」
「そうだろう。それに、アプリコット辺境伯家の庶子として認められている、という事はちゃんと生まれた時とか産婆がいたはずだし、ステータスにもアーク・アプリコットって出ているし」
「でも、星の王子様だわ」
「それなんだよな~。結局、詳しい話は又、明日って解散しちゃったし」
「私達も混乱していたけど、ブラックさんとグリーンさんも頭が変、って言っていたもの」

「そりゃぁ、突然、前世に目覚めたらなぁ。特にブラックさんのゲームが元になって、じゃない、この世界を元にして乙女ゲームが作られたってとこがなぁ」
「ブラックさんの予知夢、異なる世界の予知夢を見るものかしら。しかも、転生して自分が冒険者になって関わるなんて。それに、でも、ピンクさんと茶ピンクさん、大丈夫かしら」
「大丈夫じゃないか。小太郎さんの代わりに魔王になるだけだし。でも、これは普段の行いの報いを受けたって言えるかも。えっ、あれ、じゃぁ小太郎さんはどこにいるんだ?」

「小太郎さんの精神だけがこの世界で転生を繰り返しているのだから、あっ、小太郎さん、どこかで倒れているって事?」
「小太郎さんもどこかの神殿に居るかもしれない。魔王の封印も直ぐにしなくても大丈夫みたいだし、うーん。まぁ、今日はゆっくり寝てまた、明日考えよう」
「そうね」
「じゃぁ、また明日迎えに来るから何も考えずに休むんだよ」
「ええ、お兄様もおやすみなさい」

 そうして、私は考える事を放棄して夢も見ずに寝てしまった。
 疲れていたのかもしれない。

 翌日は良い天気だった。
 王宮の奥、中庭の桜が見える応接間で国王陛下とアルファント殿下、ノヴァ神官にランディ様とトーリスト様、それに冒険者のブラックさんとグリーンさんに合わせてお兄様と私は話し合いをしていた。

 昨日の出来事、そして乙女ゲームとこの世界の予知について。
 昨日のうちにピンクさんの姿が離宮から掻き消えた事は確認されている。世話人の目の前でフッと消えたそうだ。それは数人の看護人も見ていたので直ぐに王宮に連絡がきた。
 ブラックさんが言うにはピンクさん達は二人で一体となり、魔王、すなわち時空の裂け目を塞ぐ栓の役目についているそうだ。ただ、今回は前回から60年ほどしか経っていない為、瘴気もそれほどではなく、かえって彼女たちの自我が強くて封印には手こずるかもしれない、との事。

「本当によく色んな事を御存じですね」

 ノヴァ神官が食い入るような目でブラックさんとグリーンさんを見ている。確かに二人はすごい美形だけど、どうしてそんなに見つめているのかしら。

「俺なんかは昨日から色んな食べ物が頭の中を占めていて、あれも食べたい、これも食べたいって、いや、これ、美味いですね」

 グリーンさんは嬉しそうにご飯を食べている。
 テーブルの上にはちらし寿司とお稲荷さん。お兄様、絶賛のお揚げの中には枝豆ご飯が入っている。それにお煮しめと卵焼き、貝のお澄ましに天ぷら各種が並んでいる。
 まだ朝なのに、国王陛下とグリーンさんのお腹がグーッと鳴ったのだ。
 陛下は忙しくて朝は飲み物しか取ってないとの事だったので、まだお昼にはかなり早いけどランチをしながらお話を聞く事になった。日本食を食べたいとお願いされたので私のアイテムボックスからランチを出した。

 グリーンさんは朝、食べたのに私の顔を見るとお腹が空いた、ですって。「パブロフの犬」って小さく呟いたお兄様、聞こえたらどうするのよ。
 ブラックさんは説明する人なのであまり食べられないのが不満、という顔をしていたので良かったらと、重箱に入ったモノを先に差し上げたら凄く機嫌がよくなって、丁寧に説明をしてくれた。でも、説明の合間、合間には色々摘まんでいたけれど。

 昨日、聞いた話に加えて今日の話では、結局は小太郎さんとあの二人、ピンクさんと茶ピンクさんが入れ替わったと考えて良さそう。でも神殿に小太郎さんは運び込まれていなかった。
 毎回、小太郎さんが運ばれると起きるまで厳重に警備をして、目覚めたら大切に持て成してその後の生活にも支障がないように見守るようになっていた。
 ただ、前回の魔王封印の時には、小太郎さんは見つからなかった。神殿総出で全国を探したが見つからなかったとの事。
 それまでは必ず神殿に運び込まれていたのに。
 そして、今回も小太郎さんは見つからない。神殿はまた、総出で倒れている人は居ないか探しているそうだ。

 魔王のダンジョンは魔王の封印が解ける事で時空の隙間から魔物がはい出てくるそうで、それを魔王がコントロールして、ダンジョンの階層ごとに魔物を配置する。でも、今回は慣れない二人が魔物をコントロールできるとは思えないので、これまでの魔王のダンジョンと同じように考えないほうが良いと言われた。
 これまでは小太郎さんが魔物を倒しやすいように管理していたのかもしれない。だから、歴代の魔王封印はそれほど大変じゃなかった? でも今回はあの二人がこの世界のために何かをしようとしてくれるだろうか。
 むしろ思惑が外れて、怒っているような気がする。

「美味しい食事でした」
「ああ、美味しかった」
「リーナの作るご飯はいつでも美味しい」
「美味かった」

 皆が口々に褒めてくれる。そして、期待に満ちた顔でこちらを見ている。はい。デザートですね。

「リーナ様。今日のデザートは何でしょうか?」
「あっ、はい。オハギとプリンを用意しています」
「おう、オハギ! 久しぶり」
「俺、前はアンコはそんなに好きじゃなかったけど、リーナの作るアンコ入りお菓子は皆、美味しいと思う」
「美味しいアンコは格別です」
「美味い」

 そうして、デザートも食べ終わると、ノヴァ神官が陛下に向かって

「陛下。このお二人を王宮神殿の地下にお招きしたいのですか、よろしいでしょうか」

 と尋ねた。
 えーと、あの勇者の拠点になっていた小部屋に……、どうして?

「ノヴァ神官がそう、判断するのならいいだろう」
「はい。ではブラックさんとグリーンさん、お話したい事がありますので付いて来ていただけますか」
「えっ、はぁ、良いですけど」
「わかった」

 という事でノヴァ神官に連れられて冒険者の二人は王宮神殿の地下の階段を下りて行った。陛下とアルファント殿下、私とお兄様も一緒に。
 ノヴァ神官、何を言うつもりなんだろう。

 それに、まだお兄様の卵の話をきいてない。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...