辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

文字の大きさ
89 / 103

89. 囚われの魔女

しおりを挟む
「ウワッー、凄え!」
「まさに氷の世界、規格外の魔力だ」
「素晴らしいよ、リーナ。さすがの水魔法の加護」
「うん。凄い」
「素晴らしいです」
「凄いです」

 皆が驚いているけど、私も驚いている。自分でもびっくりのこの威力。本当に魔物を殲滅してしまった。

「よーし、この氷のおかげで魔物たちはしばらくすれば消えてしまう。いや、本当にあっちの世界の魔物は氷に弱いな」
「異次元では氷魔法は最強だった」
「ほんと、水魔法は貴重だ」

 いえ、ですから私の加護は『液体』なんです……。今更、言えないけど。

「それで、これからどうしますか?」
 お兄様が話の流れを変えてくれようとしてくれた。

「この氷の上を歩いて行きますか?」
「滑って行こう」
「こう、火魔法で斜めに溶かして氷の滑り台」
「いや、これお湯で溶かせばいいんじゃねぇ。ザザッーと」

 はい。皆さん、私を見ています。ので、手のひらからもう一つの攻撃魔法を出してみました。『液体の加護』レベル11で出来るようになった、熱線みたいになる赤マーク付き扱い注意になっている攻撃、攻撃なのかしら。
 初めて発動するのでちょっと怖いけど、どんな攻撃になるのか試してみたほうが良いような気がする。どうせ、氷雨も披露してしまったし。お兄様が横から「開きなおっちゃえ」と囁いてくるのが聞こえた。

「熱線、発動」

 と小さく唱えると両手の間からビュルルンと赤い熱線? が飛び出て来た。『液体の加護』のレベルが上がっているし、両手をちょっと広げて大き目サイズにしてみたら、ドロドロしたのが凄い勢いで出て来た。
 これ、熱線じゃなくて、えーと、線じゃなくて丸太の太いサイズ。着氷すると中に閉じ込められている溶けかけの魔物も含めて下まで穴が開いてしまった。
 ダンジョンの床がえぐれているのが見える。熱線というよりはお湯なのに衝撃波、みたいな? 熱線の太いの? とはちょっと違うような。

「いや、なんだ、これ」
「すげぇ、溶岩が飛んで行った」
「溶岩攻撃……」
「いえ、違います。あれはお湯です」
「「いや、まさか」」
「リーナ、あんなお湯があったら、」
「あれは地獄の池から出て来たような、熱湯地獄? 熱湯なのか?」
「氷は溶けたけど、地面がグラグラしているんですけど」
「あの道、歩いたら俺らも溶けちゃうんじゃないか」
「あっ、リーナ。あの道に普通の氷魔法をかけてみたらいいんじゃないか。あれ、氷雨じゃなくて」
「ええ、そうね。氷魔法ね」

 お兄様、何故ワクワクと楽しそうなのかしら。他の人はかなりビックリしていると思うけど。
 ササッと氷魔法を道にかけるとブクブクと泡立っていた道が落ち着いて歩けそうになった。

「よし、俺は浮遊魔法が使えるから、下の様子を見てくる」

 そういうと、グリーンさんが止める間もなく扉から下に降りて行った。そして、何度か足をダンダンと踏みしめるとまた、上に上がってきた。

「大丈夫。ホンワカ暖かい道に変わっている。ちょっと、でこぼこしてるけど。でも、リーナさん、本当に凄いな。『水魔法の加護』を極めるとこんなになるんだ。知らなかった」
「リーナは生まれてすぐ、からずっと『水魔法の加護』を使い続けているんです。『隠蔽の加護』も5歳から常時発動していますし、水魔法も常時発動しているはずです。極めると本当に凄い威力になるというのが良く分かります」

 アルファント殿下が得意げに自慢してくれた。有難いけど、ちょっと違うんです、とは言えない。お兄様が笑いをこらえているのがわかる。もう、如何してくれよう。

「いや、人間、極めれば凄いんだという事が実感できたよ」
「これまでの聖女は短期間だけの加護だったし、今のこの世界でも、そんなに加護を極めようとしている人はいないから、まさにリーナさんは先駆者だ」
「本当だ。俺も今の加護を極めてみよう」
「俺も精進します」
「頑張ります」

「あっー、俺もパンの木の加護を極めてみよう。そうしたらどんなパンでも自由自在に出せるようになるかも」
「アーク、それはとても良い心がけだ」
「そうだ。食べ物関係の加護は特に極める事を推奨したいな」
「よし、では最終ボス、魔王じゃないけど、魔女の元に行こう。これまでと勝手が違うから油断はしないように」
「まずは、様子を見て話しかけてみる」
「「はい」」

 私達は下におりて、氷の壁に挟まれたデコボコの通路を歩いて、そして、最終の扉に着いた。

「あれ、扉が赤い」
「本当だ」
「前と違うんですか?」
「前は普通の茶色で割と重厚な感じの扉だった」
「そういえば、これまでは茶色の普通の扉でしたね。扉も怒って赤くなっているとか」
「まさか」
「あの二人だったらピンク色でしょう」
「そうですね。これはピンクじゃなくて真っ赤です」

 魔女とのご対面は怖いけど、グリーンさんがバァーンと扉を開けた。
 すると、其処は大きく広がった円形のホールになっていて一段高くなった王座? に茶ピンクさんが偉そうに足を組んで座っていた。
 王座の近くにはスライムのようなプヨプヨしたゼリー状のモノが散らばっている。

「来るのが遅いわよ。一体、これ、どうなってるの! ここから離れられないんだけど」
「いや、君。勝手な行動をするから、そこに縛られてしまったんだよ」
「なによ! なんでそんな遠くから話しているのよ! ここに縫い付けられたように動けないのよ。おまけに何か、変なのが憑りついたみたいで」
(変なのじゃない。あたしはフレグランス!)
「なんで、勝手に私の中にいるのよ! 出ていって!」
(あたしだって出ていきたい!)

 どうやらピンクさんと茶ピンクさんが争っているみたい。でもその王座の下には穴が開いていてそこから魔物が顔を出しているんですけど。結構、大きいせいで身体が引っ掛かっているみたい。

「ああ、又魔物が来てるわ。えい! ほらあっちへ行って!」

 茶ピンクさんが手に持っている聖女の杖? を振ると魔物が吸引されるように穴から出てきてその前に魔法陣が浮かぶとそこに吸い込まれていった。でも、その穴から又、次の魔物がはい出てきた。

「もう、次から次へと鬱陶しいわ! ほれ、お前もあっちへお行き!」
 そして、また魔法陣に魔物が吸い込まれていく。

「えーと、切りがないからリーナさん、氷魔法でその穴、塞いでくれ」

 グリーンさんに言われて、穴に氷魔法をかけると穴は氷で塞がれてしまった。魔物も、出てこない。

「やっぱり、氷魔法は便利ね。リーナ、水魔法の加護、私にちょうだい」
(リーナから水魔法を貰うのはあたし!)
「ああ、もう、アンタが煩いから、この椅子から流れてくる声が良く聞こえないじゃない! 黙んなさいよ!」
「あんたこそ、アンタのせいであたし、動けなくなったんだから」
「ふふん、それはご愁傷様。ハッピーエンドは私のものよ」

 どうやら、茶ピンクさんはまだ、魔女になった自覚はないみたい。どうやって伝えたらいいのかしら。

「ちょっと、遠くて、声が聞こえずらい! もっと、こっちへ来て!」

 茶ピンクさんがそういうのでソロソロと王座の近くに寄った。

「リーナ、あまり近くによるな。何があるかわからない」
「そうだね。声が届く範囲で良いと思うよ」

 そう言いながら、アルファント殿下が私の前に立ち、

「君たち、どうしてリーナの『水魔法の加護』を移す事が出来るというんだ」

 と問いかけると茶ピンクさんは立ち上がり殿下に向かって何かを投げつけてきた。殿下には水の障壁があるから茶ピンクさんはただの嫌がらせで何かを投げた、と思ったのだけどそれは薄灰色の網状に殿下を包み、殿下はそのまま倒れてしまった。

「ははっ、それは特別な毒の網よ。解毒薬がほしければ『水魔法の加護』を私に寄こしなさい」
 茶ピンクさんが高笑いをしている。

 ひどい! あぁ、アルファント殿下。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

その聖女は身分を捨てた

喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...