上 下
79 / 336
第4章

第160話 手作りフレーバーティー1

しおりを挟む
「うはぁ何これ!? いっぱいありすぎて迷うんだけど!!」

見渡す限りの茶葉とドライフルーツやお花や木の実で埋め尽くされた紅茶工場に僕たちは来ていた。ここはウェンダー商会が所有する工場で、ここでブレンドした茶葉を全国に販売しているのだって! 手作り体験ができると聞いて来たのだけど……なんと案内されたのは、ショッピングモール並みの広さがある手作り体験施設だった。

何千何百種類の茶葉の瓶がずらりと並び、それぞれの茶葉のところに試飲させてくれるスタッフがついている。さらに、ブレンドする花や果物や木の実なんかはまた別にずらりと並べられ、それも試食できるようになっているみたい。

(なんか想像していたのとは規模が違うっ! こんなの一日かけても味見しきれないよぉ)


「さあ、好きなものを混ぜ合わせて自分の好きな紅茶を作ってください。どんどん試飲して香りや味を見ながら種類や量を調節するといいですよ」

ベルトの父、ガルトにそうアドバイスされ、僕は目に付いたお茶をさっきからガブガブと飲んでいる。

「おいしっ。どれもいい茶葉ばかりで迷うよ。でも5番目に飲んだ紅茶が一番好みかな。けど17番目に飲んだやつも捨てがたい……。ね、リリーは決まった?」

「う~ん。正直どれがいいかよくわかんないや。せっかくだから一番高いやつにしよう。無料タダでくれるらしいし。家に持って帰ったら、誰か喜ぶでしょ」

と言って一番高いものを見にいった。そして試飲して、おいしいけど……なんかうちの家族にはもったいないな、と言い始める。

「やっぱいいや。うちの家族どうせ味なんてわかんないし、紅茶をうまく淹れる人間もいないから一番簡単にすぐできる茶葉にする。ベルト、なんか適当に選んでよ。そんで、量は多めにちょうだい」

「それならこっちだ。誰でも簡単に上手に紅茶の抽出ができるティーバッグ。結局こういうのが一番需要があるんだよな」

リリーとベルトはティーバッグのコーナーに行き、いろいろな味を選んでアソートボックスを作りはじめた。


「リリー、家族にプレゼントするんだね。ふふっ、優しい」
「ああ、意外といい奴だ。どの茶葉になにを混ぜるかもう、決まったか?」
「ううん、まだぁ。クライスは?」
「俺のは、キルナに作ってもらいたい」
「んぇ!? 僕?」

(う~ん。大変だ。王子様のお口に合う紅茶なんて選べるかしら。)

先にトッピングを決め、それに合う紅茶を探した方が早いかもしれないと思いフルーツコーナに来てはみたものの……。乾燥フルーツだけでも100種類以上あって、選べる気がしない。
どうしよっかなぁ、と眺めていると、見慣れた黄色い実(が乾燥してカピカピになったもの)を発見した。

(これってポポの実を乾燥させたもの? これは絶対に入れよう。)

いくつか試食してみて、チコルというピンクの甘酸っぱい実も甘いポポの実や上品なテイストの紅茶に合いそうな味だったので入れることにする。フルーツは決まった。他も見てみようと移動していくと、お花のコーナーに差し掛かった。

お花と聞いて一番最初に思い浮かんだのは、大好きなジーンの花。白いジーンの花びらの入ったフレーバーティーは前にベルトに飲ませてもらい、高貴な香りでとても気に入ったのだけど……。

ーーむせかえるようなジーンの花の香り。と、ジュースの甘い香り、と血の匂い。

「……あ」
「どうした? 真っ青だぞ? 疲れたのか?」
「ごめん。ちょっと……」

少し離れて花の香りが届かないところまで来ると、呼吸が楽になった。はぁ、はぁ、と深く息を吸い、震える手に力を入れて恐怖を無理やり押し込める。(男のくせにブルブル震えて、格好悪い。別にもう怪我は治ったし、あんなやつのことはもう忘れたはずなのに。)

「大丈夫か?」
「うん、平気」

大きく頷いて、続きを見ようよ、とクライスを誘い、さっきのところに戻ろうとしていると、僕の腕が後ろからぐいっと引っ張っられ、逞しい胸の中にキャッチされた。背中から抱きつかれる形になって、ちょっとドキリとしてしまう。その上、耳元で「キルナ」というものだから、ゾクっとして思わず首をすくめた。

「んやぁ、何?」
「花は、やめておこう。ベルト、何か他にはあるか?」

クライスが戻ってきたベルトに尋ねると、もちろんです。木の実、ハーブ何でもありますよ。こちらが柑橘系のスッキリ爽やかな香り、こっちはスパイシーな香り、エキゾチックな香り、と香りの見本を持ってきてくれた。

「甘い香りが良いならキャラメル、バニラ、マフマフなんかもありますよ」

爽やかなのも好きだけれど、僕はやっぱり甘い香りがいい。

「えと、マフマフを入れてみたいな」

マフマフは前世のチョコレートに似ている。甘くてほろ苦い香りで、きっとにも良く合うに違いない。
試飲しながら量を調節すると、思った通りとっても素敵な香りになった。隠し味に、爽やかな香りのプルーブというハーブを混ぜて(これはリラックス効果があるハーブなのだって)。
茶葉はさっき試飲した中で一番気に入ったもの(5番目に飲んだもの)を選んだ。

「ついにできた~!“マフマフとポポの実のスペシャルリラックスフレーバーティー”完成~!!」

ベルトに頼み、完成したお茶を自分で淹れさせてもらった。自分で手作りしたお茶を準備するのはとても楽しい。カップに注ぐと芳しい紅茶の香りがフワッと漂う。

出来上がった紅茶は、最初に僕のが飲みたいと言ってくれたクライスに飲んでもらうことにした。相変わらず隙のない美しい所作で紅茶を飲む彼の姿をほぅっと眺める。(くそぅ、紅茶を飲むだけでこんなに格好いいなんてイケメンはずるい!)

「どう…かな?」
「ああ、これは。繊細で上品な香りで、ほのかな甘みがあって、とても飲みやすい。うまいよ」

クライスの反応に、よかったぁと胸を撫で下ろす。王子様がおいしいと言うのだったら完璧に違いない。(たぶん素材が良いだけなんだけど。)

その後他の皆にも、とても良い味だと褒めてもらえた。自分で飲んでも、思った通りの味と香りでニマニマしてしまう。フルーツテイストで甘味があるけど、ほんのりビターなマフマフが、いいアクセントになっている。そう、そしてこれは肝心のにとってもよく合う味に仕上がっている!

「なんか、これ、ケーキとか甘いものに合いそうな味だよね」

リリーの言葉に僕はそうでしょ! と喜びの声を上げた。

「そうなの! あのね、これ実はをイメージして作ったの!!」

得意気に言う僕を、クライス以外のみんなは首を傾げて見ている。なんでこいつはそんなピンポイントなものを作ったのだろう、という顔だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:20,597pt お気に入り:10,507

明日はきっと

BL / 連載中 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:1,102

【完結】銀鳴鳥の囀る朝に。

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,210

愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

BL / 連載中 24h.ポイント:880pt お気に入り:3,555

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,662pt お気に入り:54

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。