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第8章
第414話 ユジンSIDE 囮作戦②
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「はぁ、はぁ、はぁ。疲れた~~! もう、あいつほんと逃げ足速すぎっ。僕結構走りには自信があるのに!」
「ええ、私の追跡魔法も妨害されてしまいました。よほど強い力でないとやつの魔法に消されてしまうようです」
二学期が終わりかけた今も、僕たちと偽兄様の攻防は続いていた。本当にあと少し……というところで、またしても逃げられてしまう。
(早く捕まえて兄様のところに行きたいのに!)
しかも、やつの狙いが何なのかも今一つよくわからない。
キル兄様のフリをして僕に嫌がらせをして逃げることを繰り返すことに何の意味があるのだろう。数々の嫌がらせに兄様が苦しんでいたように、僕を苦しめることが目的なのだろうか。
それだけでは無い気がするのだが……
「あ、あそこにいらっしゃるのは……キルナ様でしょうか。それとも偽物?」
向こうから音を殺してこっそり近づいてくる人影に気づいたリオン様が、隣で唸っている。僕はちらりと見て言った。
「あれはキル兄様、本物です。ああ、また僕を探しに来てくれたんですね! うれしい。でもまだ会うわけにはいきません。行きましょう」
一瞬で見抜く僕に、よく見分けがつくものだと感心する二人。僕からしてみたらむしろなんでわからないのだろう、と思う。転移した先の温室で、自分の髪と同じ真っ赤な薔薇に顔を寄せて花の香りを嗅ぎ、くしゅんとくしゃみをしたノエル様が振り返った。
「でも、ユジンくんがキルナちゃんのこと異常なくらい大好きでよかったよね。やっぱり何度見ても本物そっくりで、僕には全然見分けがつかないもん。普通なら騙されてすっごい兄弟喧嘩になっちゃうところだよ」
「たしかにそうですね。私は三人兄弟ですが、きっと兄に化けて嫌がらせをされても偽物とは見破れないでしょう」
「もともとリオンのとこは兄弟仲悪いしね~」
「ノエル」
「あ、は~い。なんでもないです~」
キル兄様と兄弟喧嘩、か。そんなこと考えたこともなかった。
あり得なさすぎて頭になかったが、犯人がそれを狙っている可能性はある。
もし僕が兄様かそうでないかを判断できない愚かな弟だったとして。キル兄様にいじめを受けたと思い込んだとしたらどうなっていただろう。
いじめの犯人であるキル兄様のことを怖がって避けていたかもしれない。陰湿な嫌がらせに耐えかね、学園の友人やお父様、クライス王子に告げ口をし、生徒会メンバーであるリオン様たちにも助けを求めていたかもしれない。最悪兄様を憎み、仕返しをすることだって考えたかも。
ましてや自分には、母と同じ精神干渉系の魔法が使える。その気になれば、自分の周り全てを味方に引き込むことができる。
そうなっていたとしたら……
──キル兄様はひとりぼっちになっていた。
一人で涙を流し、全てを憎み、黒い靄が現れ、黒い炎がその体を包み込み……
そこまで考えた時、その光景がパッと頭に浮かんだ。
はっきりと鮮明な絵。いや、ただの絵ではなく、動いてる。そう、何か四角い魔道具? に映る映像として。僕はその光景を見たことがある。
しかし、それ以上映像を思い出すことはできず、今見えていたものもフッと消えてしまった。
(あれはなんだ?)
すごく重要なことのような気がするのに、思い出せない。
自分の奥底にある記憶を探ろうとすると、慟哭する誰かの悲痛な声に胸が苦しくなる。
今はどんなヒントでも欲しいのに。その記憶に触れることがどうしてもできなかった。
「ええ、私の追跡魔法も妨害されてしまいました。よほど強い力でないとやつの魔法に消されてしまうようです」
二学期が終わりかけた今も、僕たちと偽兄様の攻防は続いていた。本当にあと少し……というところで、またしても逃げられてしまう。
(早く捕まえて兄様のところに行きたいのに!)
しかも、やつの狙いが何なのかも今一つよくわからない。
キル兄様のフリをして僕に嫌がらせをして逃げることを繰り返すことに何の意味があるのだろう。数々の嫌がらせに兄様が苦しんでいたように、僕を苦しめることが目的なのだろうか。
それだけでは無い気がするのだが……
「あ、あそこにいらっしゃるのは……キルナ様でしょうか。それとも偽物?」
向こうから音を殺してこっそり近づいてくる人影に気づいたリオン様が、隣で唸っている。僕はちらりと見て言った。
「あれはキル兄様、本物です。ああ、また僕を探しに来てくれたんですね! うれしい。でもまだ会うわけにはいきません。行きましょう」
一瞬で見抜く僕に、よく見分けがつくものだと感心する二人。僕からしてみたらむしろなんでわからないのだろう、と思う。転移した先の温室で、自分の髪と同じ真っ赤な薔薇に顔を寄せて花の香りを嗅ぎ、くしゅんとくしゃみをしたノエル様が振り返った。
「でも、ユジンくんがキルナちゃんのこと異常なくらい大好きでよかったよね。やっぱり何度見ても本物そっくりで、僕には全然見分けがつかないもん。普通なら騙されてすっごい兄弟喧嘩になっちゃうところだよ」
「たしかにそうですね。私は三人兄弟ですが、きっと兄に化けて嫌がらせをされても偽物とは見破れないでしょう」
「もともとリオンのとこは兄弟仲悪いしね~」
「ノエル」
「あ、は~い。なんでもないです~」
キル兄様と兄弟喧嘩、か。そんなこと考えたこともなかった。
あり得なさすぎて頭になかったが、犯人がそれを狙っている可能性はある。
もし僕が兄様かそうでないかを判断できない愚かな弟だったとして。キル兄様にいじめを受けたと思い込んだとしたらどうなっていただろう。
いじめの犯人であるキル兄様のことを怖がって避けていたかもしれない。陰湿な嫌がらせに耐えかね、学園の友人やお父様、クライス王子に告げ口をし、生徒会メンバーであるリオン様たちにも助けを求めていたかもしれない。最悪兄様を憎み、仕返しをすることだって考えたかも。
ましてや自分には、母と同じ精神干渉系の魔法が使える。その気になれば、自分の周り全てを味方に引き込むことができる。
そうなっていたとしたら……
──キル兄様はひとりぼっちになっていた。
一人で涙を流し、全てを憎み、黒い靄が現れ、黒い炎がその体を包み込み……
そこまで考えた時、その光景がパッと頭に浮かんだ。
はっきりと鮮明な絵。いや、ただの絵ではなく、動いてる。そう、何か四角い魔道具? に映る映像として。僕はその光景を見たことがある。
しかし、それ以上映像を思い出すことはできず、今見えていたものもフッと消えてしまった。
(あれはなんだ?)
すごく重要なことのような気がするのに、思い出せない。
自分の奥底にある記憶を探ろうとすると、慟哭する誰かの悲痛な声に胸が苦しくなる。
今はどんなヒントでも欲しいのに。その記憶に触れることがどうしてもできなかった。
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