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第8章

第416話 番外編:発売記念 猫を被った悪役令息

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おいしいシフォンケーキを焼くから来てねと約束していたら、放課後リリーが大きな袋を三つ抱えて僕の部屋にやってきた。

「リリーその包み何?」
「何でしょう?」
「あ、『魔女っ子プリムの甘い夢』の袋だぁ。三つあるってことは、テアたちの分もあるってことぉ?」

先に遊びにきていたテアが、ずいっとリリーに近づいて尋ねると、ちょっと顔を赤くしたリリーが言った。

「新作が出たからついでに買ってきただけだよ。ほら、今回の新作は数が多かったし一人で着てもつまらないから」
「ふふふ、リリーありがとぉ」
「僕にも? ありがとリリー! 大好き!!」

自分の分だけじゃなくて僕たちの分まで用意してくれるなんて、優しい。リリーはそういうところを表には出したがらず、いつもつんつんしちゃうんだけど、そのつんつんを隠しきれていないのがまた可愛い……

友達思いの彼がとっても愛おしく思えて僕は彼の右腕に抱きついた。テアが同じように左腕に抱きつき、ぎゅうぎゅうとくっつき合う。

「もう、二人とも大袈裟だよ。ほら、さっさと開けて着てみて!」
「エエ~? みんなでくっつくの楽しいのにぃ。もうちょっとこうしてようよ~!!」

テアの言う通り、今日はちょっと気温が低くて寒いし、こうしているとあったかくていいのに。でも中身も気になる……と思い彼から離れてもらった袋をしげしげと眺めた。

(着てみてってことは服が入っているのかな? もしかして、またうさぎのルームウェア?)

あれすっごく着心地がよくてお気に入りだから何枚あってもうれしいんだよね、とわくわくしながら袋の口を縛っているローズピンクのリボンを解くと、中から予想通りふわふわもこもこのルームウェアが出てきた。

でも……ちょっといつもと違う。耳が長くない。

「あっテアの袋からうさぎさんが出てきた! リリーのは、ふふふ、リスだネ~。オヒメサマのはぁ?」
「えと、これは……うさぎじゃなくて、ん~……ねこ!?」

三角のお耳のついたフードを見て、僕はこれがねこのルームウェアだと確信した。着てみると、滑らかな触り心地の布地が極上で、思わず袖を頬に当ててすりすりしてしまう。

「うん、当たり!」
「オヒメサマ、ねこも似合ってる~!! でも、みんないつもと違うね。もしかしてテアたち開ける袋間違えちゃった~?」
「別に間違えたわけじゃないよ。今回はメガネに猫被ってもらおうと思って」

???

「ふぇ? 猫被るってどういうこと?」

聞き返すと、リスのもっふりとしたしっぽを揺らしながらリリーが言った。

「うん。だってさ、今回発売された本ってBLなんでしょ? いつも通りに色気がダダ漏れだとダメなんだよ。もう少し猫被って大人しくしとかないと」

そう……かな? そうなの? 僕ってそんな、普段通りだとやばいくらいえっちなオーラ出してる? た、確かにクライスといるといつの間にかキスしたり、あちこち触ったり、最後にはすんごいことになっちゃってて……
よく考えるとやばいかも!?

(んああああああ、どうしよどうしよ。友達にそんなふうに思われていたってことも恥ずかしい。死ぬ! 自分の存在が恥ずかしくて死んじゃいたい)


床にゴロゴロ転がっていると、部屋のドアが開いた。ロイルたちと魔法訓練所に行っていたクライスが帰ってきたらしい。

「あ、オウジサマだぁ。おかえりなさい」
「こんにちは。お邪魔してます」
「ああ。それよりキルナは何をしているんだ? 床で変な動きをして……またリリーとテアに何か吹き込まれたのか?」
「ん。そういうわけじゃないんだけど……」

たくましい腕にひょいと抱え上げられ、僕はまだ真っ赤に火照った顔をネコミミ付きフードを深く被って隠した。するとクライスはその耳を見て目を輝かせる。

「ほぉ。うさぎもいいが、ねこバージョンのキルナも可愛いな!!」

よしよしと熱心に僕の頭をフードの上から撫でる王子様に、リリーがビシッと指摘する。

「王子! いちゃいちゃするのもいいですが、たまには我慢も大事です。長く恋愛を楽しむためにはメリハリが大切なんですよ。今日は試しにキルナ様を撫でるだけにしてみてください」
「そうですよぉ~。エッチなことはほどほどにしてくださいネ~」
「ああ。って……俺より遥かにただれてるお前たちにだけは言われたくないが。まぁ撫でるだけ、というのも悪くないな。わかった。今日はこのふわふわのねこを全身撫でて可愛がってやる。いいな、キルナ?」
「ふぇ、何?」

リスリリーとうさぎテアに説教されている王子様、という図がなんだか笑えると思って話をちゃんと聞いていなかった。

「「キルナ様、ちゃあんと王子(様)に甘えてくださいね」」

(ん? さっきと言ってることが微妙に違うような……)

彼らが帰るとすぐに寝室に運ばれた。二人にも念を押されたし、今日は絶対絶対脱がされないようにしなきゃと服を握りしめていたのだけど、クライスの狙いは違ったらしい。

「はぁ、はぁ……んにゃあああああ。クライス、触りすぎだってばぁ!!」

ねこのもこもこルームウェアの上から体の隅々まで撫でられて焦らされまくり、朝になる頃には僕の僕が大変なことになっていたのだった。


          🐱おしまい🎁



***

読んでくださりありがとうございます! 
『いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます』が無事発売されましたヽ(´▽`)/
全年齢BLですが、お風呂シーンも二人のキスシーンもばっちり入っております!(キラキラいちゃいちゃしてます)
書店で見かけたら、ぜひ家に連れて帰ってあげてください🦁🐰💗🏠
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