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入れ替わり
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寝て起きたら俺が隣に眠っていた。
ニャコとクウコは別の部屋に移ってもらって、俺は変なことをしないかリカに見張られながら寝たのである。今、隣で寝ている俺の体がリカである。
俺が目を覚ますと、隣で寝ていたリカも目を覚ました。
お互いに無言で、何を話せばいいのかわからずに、気まずさに負けて俺は部屋を出た。
「ねえ……、どうしてリカがユウサク君の部屋から出てくるのよ。しかも寝起きの顔だよね」
「気にしなくていい」
「そう。あっ、リカにデザインしてもらった新しい服が出来たんだよね。見せてあげるよ」
俺が返事をする前に手を引かれて、ワカナの部屋に連れてこられる。そこでワカナはいきなり服を脱ぎ始めた。ワカナが下着姿になったところで、俺は我に返った。
「ちょっと、やめよう。あとでいいよ」
「『よ』? どうしたの。なんか今日のリカは変だよ」
「飯にしようぜ」
「ぜ????」
俺はワカナから逃げるようにしてリビングに戻った。そして朝食の用意された席に着いた。
今日の朝食は、フレンチトーストにフルーツの盛り合わせだった。クレアの作り出したデザートも最近になって、このような高級ホテルの朝食も顔負けの食べ物に交換してもらえるようになった。
周りの農作レベルも追いついてきたから、レアなデザートは有利なレートで交換してもらえる。
そんな真面目なことを考えて、湧き上がってきた欲求に逆らおうとしたが無駄だった。俺は自分の胸に手を当てると、思ったよりも柔らかな感触がして感動した。
そうか、胸を揉まれるとはこんな感じなのかと、好奇心が満たされる。
「そんな席に座ったら、アイツがギャーギャー騒いでうるさいわよ」
なぜかものすごく柔らかい態度のアイリがそんなことを言った。
「そうよ。ヌケサクが下剋上だのなんだのと騒ぎ出すわよ」
クレアまで自然な態度で笑いかけながらそんなことを言う。
「そうそう」
アイリも笑顔でうなずいて、普段はこんなにも自然な態度なのかと感動を覚える。そうだ、こいつらは俺のことをリカだと思っているのだ。
「私の隣に座りたくなったのかな。かわいいやつだ」
そう言ってワカナが俺に抱きついた。そのまま頬ずりまでしてきて、ワカナの肌はこんなにもすべすべなのかと感動する。それに大きな胸が肩に当たって心地よい。
どうやら自分の胸を触る必要などなかったようだ。大手を振ってこいつらのを揉めばいい。どうせ俺が触っても女同士だと思ってくれるだろう。
俺にそんな邪心が芽生えたところで、リカがリビングに入ってきた。昨日、リカに飛び乗られた体だから少しだけ足を引きずっている。あれで自分のケツがどれほどの凶器なのか学習したことだろう。
リカはワカナの頭をひと撫ですると、鳥肌が立ちそうな猫なで声で「おはよう」と言っていつもの席に座る。そのおかしな態度に、その場にいた全員が目を丸くした。
自分の姿を見上げるというのは、なんとも変な気持ちになる。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。
俺たちが入れ替わったことを、みんなに言うか言うまいかは、まだ相談していなかった。当然リカの方は伝える気でいるだろうが、俺はこの新鮮な感じをもう少し味わいたい。
だから俺は出来るだけリカの喋り方に似せて言った。
「コシロ、あのことは言わないほうがいいと思う。きっと、いろいろ言われて面倒、体裁も悪い」
そう言ったら、リカはしばらく考えてから「わかった。それでいいぜ」と言った。
その喋り方はスカしていて、全然俺の喋り方ではない。それでばれるかと思ったが、誰も俺たちの会話には触れずに食事を始めていた。
晴れてお許しが出た俺は、さっそく行動に移した。
「ワカナ!」
俺はワカナに抱きついて、その胸をもみしだいた。クウコでも味わえないような感触がする。
「えっ、なになに、くすぐったいよ」
そしたらリカがいきなり立ち上がってワカナのことを抱き寄せた。
「ワカナ、そいつには近寄らないほうがいいぜ」
いや、「ぜ」の使い方が全体的ににおかしいだろ。
「そ、そうなのかな」
「なにしてるのよ」
アイリに怒られて、リカはもとの食事に戻った。
「リカ、そういうのはやめておいた方がいいぜ」
とリカが言った。
「了解」
俺はしぶしぶとそう返した。
「どうしたのかな。二人ともなんか変だよ」
「なにもおかしくないぜ」
「おかしいのは、コシロ」
「だけど今日のリカ、喋り方がちょっと変だよ」
リカに比べたら俺の方が上手くやれている自信があったのに、ワカナには違いが判るらしい。
「ちょっと疲れてるだけ」
「ならいいんだけどね」
一体どこが違うのかさっぱりわからないのでちょっとだけ焦った。しかしワカナにははっきりとわかるらしかった。
食事が終わったら、いつも通り狩りに行く準備を始める。アイテムは既に交換してあるので問題はない。女どもはここでみんなシャワーを浴びるのだ。
「ワカナ、シャワーに行こう」
「そうだね」
時間節約のために、リカとワカナが一緒にシャワーを浴びるのはいつものことである。
「命が惜しかったら、やめておいた方がいいぜ」
いきなりリカの顔が眼前に迫っていた。もちろん、もと俺の顔である。
「そ、そのくらいいいでしょ」
「駄目に決まってる、ぜ」
リカの顔はかなり真剣だった。
「二人はずいぶん仲良くなったんだね」
ワカナにそう言われて、リカは勢いよく首を左右に振っている。
それで俺が気を取り直してシャワーを浴びようとしたら、リカに首根っこを掴まれて俺の部屋に連れていかれてしまった。
「ふざけないで」
「だけどそれはお互い様だって、両方とも納得したことだろ」
「汗をかいてるときだけ、特別に許可する」
「そうかよ。変なこと言って、あんまり俺の評判を下げるんじゃないぞ」
「こっちの台詞。それよりワカナに変なことしないで」
「それこそこっちの台詞だよ。避けてたら変に思われるだろ。いつもあんなにべたべたしてるんだからさ」
「変なとこ触ったりすると、バレた時怖いよ」
確かにそれは怖いなと思った。
「だけど今の俺はリカなんだぜ。身も心もな。だったらワカナに抱きつくのも自然なことだろ。俺がそうしてるんじゃない、体の記憶がそうさせてるんだよ」
「馬鹿なこと言わないで」
リカに詰め寄られて、もと俺の顔がドアップになる。
「俺って結構かっこいいな」
「私って結構かわいい」
俺とリカはほとんど同時そんなことを言った。
「や、やめようぜ。こういうのは危ない。ホントに体の方に引っ張られてるぞ」
「そ、そうね」
「さっさと準備を済ませて行こうぜ」
「うん」
俺は装備を身に着けてリビングに出た。いつもの事ながら、準備の遅い面々がシャワーまで浴びるから準備を済ませているのはモーレットだけだ。
「準備が終わったなら、外でまとーぜ。今日は天気がいいから気持ちいーんだ」
俺はモーレットと一緒に外へ出た。外にはうっすらと雪が積もっているが、日差しが暖かくて確かに気持ちいい。
俺は体の動きに慣れておこうと、そこら辺を走り回ってみることにした。
走り出してすぐに目の前に木が迫り、いつの間にかそれを駆けあがって飛び越えていた。そして命の危険を感じるような着地をしたが、足に来た衝撃は少なかった。
これは今朝から感じていたことだが、リカのステータスだと狭い場所で動くのが難しすぎる。まるでトップスピードでしか動けないバイクに乗っているようなものだ。
しかし方向転換だけは慣性の法則を無視して曲がれるので、ものにぶつかるという事は滅多にない。全力で走ったら十秒もしないうちに息が切れてきた。
全力で走っても、それほどスピードは変わらないから、もうちょっと力を抜いて走るものであるらしい。
俺はすぐに慣れて、器用にギルドハウスの庭を走り回れるようになった。
「元気だなー。そんなに動いて疲れないのかよ」
「疲れた」
「元気ねえ」
いつの間にか外に出てきていたクレアまで、呆れたように俺を見た。
最初全力で動いてしまったがために、ぜえぜえと音がするほど息が上がってしまった。乾燥した冷たい空気がのどを切り裂いたみたいに、口の中には血の味が混じる。
クレアと一緒に出て来たアイリの飲んでいるお茶がうらやましい。
「ほら、これを飲みなさいよ」
うらやましいなと思っていたらアイリが飲みかけのお茶を差し出してきた。普段なら絶対にないことである。俺は少しだけビビりながらそのお茶を受け取った。
お茶は最初の頃に大量に集めていたほうじ茶であった。
なぜ俺はこんなことにビビっているのだろうと思いながら、俺はアイリが口を付けたほうじ茶を飲んだ。
コップのふちの暖かさにムラムラして、気が付いたら俺はアイリを押し倒していた。胸に顔をうずめて顔でかき回すと、思いのほか温かい。
しかし体がまったく反応しないことがもどかしい。心は反応しているのに、リカの体は女などまったく求めていなかった。
「ちょっと、なんなの。一体どうしたのよ」
こんなことをしてもちっとも怒られないこの体は最高である。そうだ、これは女の子同士でじゃれ合っているだけなのだ。
「ふおおおおおお、ギャンッ!」
俺はわき腹を蹴られて地面の上を転がった。
「ちょっと、女の子に向かってなんてことするのよ!」
「や、やりすぎよ。リカがなにをしたっていうの」
アイリとクレアが、俺を蹴飛ばしたリカに向かっていきり立った。いつの間にかリカも外に出て来ていたようだ。
「そいつはいい」
「よくないわ。乱暴者」
さらにアイリが詰め寄って面倒なことになっている。
「いや、いいの」
俺がそう言ったら、なんとかその場は収まった。
リカも俺への扱いの悪さに面食らっていることだろう。どれだけ周りが俺に冷たいか、これでリカにもわかったはずである。俺の立場でリカを蹴飛ばすような真似は、そうそうできたものではない。
「ごめんよ」とか言って俺の頭を撫でようとしたリカの腕を、俺は振り払った。
「変なことしないで」
俺がリカに合図すると、リカは頷いて「そろそろ行こうぜ」と言った。
「昨日と同じ真所でいいのね」
アイリに聞かれて、リカは小さくうなずいた。
狩場にやって来ても、リカに蹴飛ばされた俺はやたらと周りに気遣われる。鬱陶しかったので、俺は準備運動を済ませると皆から離れて先頭に出た。
「なんだか、今日のリカは動きがよくないかな」
「そりゃ、さっきも練習してたからなー」
ワカナとモーレットがそんな会話をしているのが聞こえる。
俺は三歩進んで二歩下がるような動きで、敵を引き付けることにした。上からやってくるので、みんなより上に出ていれば俺が敵を引き付けられる。
敵は一番近くで動いてる物をターゲットにする習性があるので、腕の一本でも上に出てればターゲットは取れるのだ。
敵が集まって来ても、俺は自分の動きだけに集中した。傍からいつも見ていてわかることだが、リカのスピードならたとえ体が敵をかすめても、早すぎて敵には反応しきれない。
だから遠慮なく近くを通って、動き続けていればいいだけなのだ。そんなことを考えていたら足を滑らせてバランスを崩した。さすがに敵もそんな隙は見逃してくれない。
しかし身代わりの術で攻撃をかわして、少し離れた空中に放り出される。
自由落下の動きが遅くて、それをもどかしく思いながら、俺は次に動くべき道筋に狙いを定めた。
ニャコとクウコは別の部屋に移ってもらって、俺は変なことをしないかリカに見張られながら寝たのである。今、隣で寝ている俺の体がリカである。
俺が目を覚ますと、隣で寝ていたリカも目を覚ました。
お互いに無言で、何を話せばいいのかわからずに、気まずさに負けて俺は部屋を出た。
「ねえ……、どうしてリカがユウサク君の部屋から出てくるのよ。しかも寝起きの顔だよね」
「気にしなくていい」
「そう。あっ、リカにデザインしてもらった新しい服が出来たんだよね。見せてあげるよ」
俺が返事をする前に手を引かれて、ワカナの部屋に連れてこられる。そこでワカナはいきなり服を脱ぎ始めた。ワカナが下着姿になったところで、俺は我に返った。
「ちょっと、やめよう。あとでいいよ」
「『よ』? どうしたの。なんか今日のリカは変だよ」
「飯にしようぜ」
「ぜ????」
俺はワカナから逃げるようにしてリビングに戻った。そして朝食の用意された席に着いた。
今日の朝食は、フレンチトーストにフルーツの盛り合わせだった。クレアの作り出したデザートも最近になって、このような高級ホテルの朝食も顔負けの食べ物に交換してもらえるようになった。
周りの農作レベルも追いついてきたから、レアなデザートは有利なレートで交換してもらえる。
そんな真面目なことを考えて、湧き上がってきた欲求に逆らおうとしたが無駄だった。俺は自分の胸に手を当てると、思ったよりも柔らかな感触がして感動した。
そうか、胸を揉まれるとはこんな感じなのかと、好奇心が満たされる。
「そんな席に座ったら、アイツがギャーギャー騒いでうるさいわよ」
なぜかものすごく柔らかい態度のアイリがそんなことを言った。
「そうよ。ヌケサクが下剋上だのなんだのと騒ぎ出すわよ」
クレアまで自然な態度で笑いかけながらそんなことを言う。
「そうそう」
アイリも笑顔でうなずいて、普段はこんなにも自然な態度なのかと感動を覚える。そうだ、こいつらは俺のことをリカだと思っているのだ。
「私の隣に座りたくなったのかな。かわいいやつだ」
そう言ってワカナが俺に抱きついた。そのまま頬ずりまでしてきて、ワカナの肌はこんなにもすべすべなのかと感動する。それに大きな胸が肩に当たって心地よい。
どうやら自分の胸を触る必要などなかったようだ。大手を振ってこいつらのを揉めばいい。どうせ俺が触っても女同士だと思ってくれるだろう。
俺にそんな邪心が芽生えたところで、リカがリビングに入ってきた。昨日、リカに飛び乗られた体だから少しだけ足を引きずっている。あれで自分のケツがどれほどの凶器なのか学習したことだろう。
リカはワカナの頭をひと撫ですると、鳥肌が立ちそうな猫なで声で「おはよう」と言っていつもの席に座る。そのおかしな態度に、その場にいた全員が目を丸くした。
自分の姿を見上げるというのは、なんとも変な気持ちになる。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。
俺たちが入れ替わったことを、みんなに言うか言うまいかは、まだ相談していなかった。当然リカの方は伝える気でいるだろうが、俺はこの新鮮な感じをもう少し味わいたい。
だから俺は出来るだけリカの喋り方に似せて言った。
「コシロ、あのことは言わないほうがいいと思う。きっと、いろいろ言われて面倒、体裁も悪い」
そう言ったら、リカはしばらく考えてから「わかった。それでいいぜ」と言った。
その喋り方はスカしていて、全然俺の喋り方ではない。それでばれるかと思ったが、誰も俺たちの会話には触れずに食事を始めていた。
晴れてお許しが出た俺は、さっそく行動に移した。
「ワカナ!」
俺はワカナに抱きついて、その胸をもみしだいた。クウコでも味わえないような感触がする。
「えっ、なになに、くすぐったいよ」
そしたらリカがいきなり立ち上がってワカナのことを抱き寄せた。
「ワカナ、そいつには近寄らないほうがいいぜ」
いや、「ぜ」の使い方が全体的ににおかしいだろ。
「そ、そうなのかな」
「なにしてるのよ」
アイリに怒られて、リカはもとの食事に戻った。
「リカ、そういうのはやめておいた方がいいぜ」
とリカが言った。
「了解」
俺はしぶしぶとそう返した。
「どうしたのかな。二人ともなんか変だよ」
「なにもおかしくないぜ」
「おかしいのは、コシロ」
「だけど今日のリカ、喋り方がちょっと変だよ」
リカに比べたら俺の方が上手くやれている自信があったのに、ワカナには違いが判るらしい。
「ちょっと疲れてるだけ」
「ならいいんだけどね」
一体どこが違うのかさっぱりわからないのでちょっとだけ焦った。しかしワカナにははっきりとわかるらしかった。
食事が終わったら、いつも通り狩りに行く準備を始める。アイテムは既に交換してあるので問題はない。女どもはここでみんなシャワーを浴びるのだ。
「ワカナ、シャワーに行こう」
「そうだね」
時間節約のために、リカとワカナが一緒にシャワーを浴びるのはいつものことである。
「命が惜しかったら、やめておいた方がいいぜ」
いきなりリカの顔が眼前に迫っていた。もちろん、もと俺の顔である。
「そ、そのくらいいいでしょ」
「駄目に決まってる、ぜ」
リカの顔はかなり真剣だった。
「二人はずいぶん仲良くなったんだね」
ワカナにそう言われて、リカは勢いよく首を左右に振っている。
それで俺が気を取り直してシャワーを浴びようとしたら、リカに首根っこを掴まれて俺の部屋に連れていかれてしまった。
「ふざけないで」
「だけどそれはお互い様だって、両方とも納得したことだろ」
「汗をかいてるときだけ、特別に許可する」
「そうかよ。変なこと言って、あんまり俺の評判を下げるんじゃないぞ」
「こっちの台詞。それよりワカナに変なことしないで」
「それこそこっちの台詞だよ。避けてたら変に思われるだろ。いつもあんなにべたべたしてるんだからさ」
「変なとこ触ったりすると、バレた時怖いよ」
確かにそれは怖いなと思った。
「だけど今の俺はリカなんだぜ。身も心もな。だったらワカナに抱きつくのも自然なことだろ。俺がそうしてるんじゃない、体の記憶がそうさせてるんだよ」
「馬鹿なこと言わないで」
リカに詰め寄られて、もと俺の顔がドアップになる。
「俺って結構かっこいいな」
「私って結構かわいい」
俺とリカはほとんど同時そんなことを言った。
「や、やめようぜ。こういうのは危ない。ホントに体の方に引っ張られてるぞ」
「そ、そうね」
「さっさと準備を済ませて行こうぜ」
「うん」
俺は装備を身に着けてリビングに出た。いつもの事ながら、準備の遅い面々がシャワーまで浴びるから準備を済ませているのはモーレットだけだ。
「準備が終わったなら、外でまとーぜ。今日は天気がいいから気持ちいーんだ」
俺はモーレットと一緒に外へ出た。外にはうっすらと雪が積もっているが、日差しが暖かくて確かに気持ちいい。
俺は体の動きに慣れておこうと、そこら辺を走り回ってみることにした。
走り出してすぐに目の前に木が迫り、いつの間にかそれを駆けあがって飛び越えていた。そして命の危険を感じるような着地をしたが、足に来た衝撃は少なかった。
これは今朝から感じていたことだが、リカのステータスだと狭い場所で動くのが難しすぎる。まるでトップスピードでしか動けないバイクに乗っているようなものだ。
しかし方向転換だけは慣性の法則を無視して曲がれるので、ものにぶつかるという事は滅多にない。全力で走ったら十秒もしないうちに息が切れてきた。
全力で走っても、それほどスピードは変わらないから、もうちょっと力を抜いて走るものであるらしい。
俺はすぐに慣れて、器用にギルドハウスの庭を走り回れるようになった。
「元気だなー。そんなに動いて疲れないのかよ」
「疲れた」
「元気ねえ」
いつの間にか外に出てきていたクレアまで、呆れたように俺を見た。
最初全力で動いてしまったがために、ぜえぜえと音がするほど息が上がってしまった。乾燥した冷たい空気がのどを切り裂いたみたいに、口の中には血の味が混じる。
クレアと一緒に出て来たアイリの飲んでいるお茶がうらやましい。
「ほら、これを飲みなさいよ」
うらやましいなと思っていたらアイリが飲みかけのお茶を差し出してきた。普段なら絶対にないことである。俺は少しだけビビりながらそのお茶を受け取った。
お茶は最初の頃に大量に集めていたほうじ茶であった。
なぜ俺はこんなことにビビっているのだろうと思いながら、俺はアイリが口を付けたほうじ茶を飲んだ。
コップのふちの暖かさにムラムラして、気が付いたら俺はアイリを押し倒していた。胸に顔をうずめて顔でかき回すと、思いのほか温かい。
しかし体がまったく反応しないことがもどかしい。心は反応しているのに、リカの体は女などまったく求めていなかった。
「ちょっと、なんなの。一体どうしたのよ」
こんなことをしてもちっとも怒られないこの体は最高である。そうだ、これは女の子同士でじゃれ合っているだけなのだ。
「ふおおおおおお、ギャンッ!」
俺はわき腹を蹴られて地面の上を転がった。
「ちょっと、女の子に向かってなんてことするのよ!」
「や、やりすぎよ。リカがなにをしたっていうの」
アイリとクレアが、俺を蹴飛ばしたリカに向かっていきり立った。いつの間にかリカも外に出て来ていたようだ。
「そいつはいい」
「よくないわ。乱暴者」
さらにアイリが詰め寄って面倒なことになっている。
「いや、いいの」
俺がそう言ったら、なんとかその場は収まった。
リカも俺への扱いの悪さに面食らっていることだろう。どれだけ周りが俺に冷たいか、これでリカにもわかったはずである。俺の立場でリカを蹴飛ばすような真似は、そうそうできたものではない。
「ごめんよ」とか言って俺の頭を撫でようとしたリカの腕を、俺は振り払った。
「変なことしないで」
俺がリカに合図すると、リカは頷いて「そろそろ行こうぜ」と言った。
「昨日と同じ真所でいいのね」
アイリに聞かれて、リカは小さくうなずいた。
狩場にやって来ても、リカに蹴飛ばされた俺はやたらと周りに気遣われる。鬱陶しかったので、俺は準備運動を済ませると皆から離れて先頭に出た。
「なんだか、今日のリカは動きがよくないかな」
「そりゃ、さっきも練習してたからなー」
ワカナとモーレットがそんな会話をしているのが聞こえる。
俺は三歩進んで二歩下がるような動きで、敵を引き付けることにした。上からやってくるので、みんなより上に出ていれば俺が敵を引き付けられる。
敵は一番近くで動いてる物をターゲットにする習性があるので、腕の一本でも上に出てればターゲットは取れるのだ。
敵が集まって来ても、俺は自分の動きだけに集中した。傍からいつも見ていてわかることだが、リカのスピードならたとえ体が敵をかすめても、早すぎて敵には反応しきれない。
だから遠慮なく近くを通って、動き続けていればいいだけなのだ。そんなことを考えていたら足を滑らせてバランスを崩した。さすがに敵もそんな隙は見逃してくれない。
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