妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲

文字の大きさ
19 / 55
第1章 人生の転換期

第19話 豪胆に生きよ

しおりを挟む
「……よし、機材、買うか」

 これから先、もっといろんな配信をやりたい。雑談だけじゃなく、歌枠や企画、コラボ配信……やりたいことを思い浮かべるほど、今のパソコンでは心許なく感じてしまう。

 その日の夜、配信を開き、リスナーと雑談しながら、機材の話題を切り出した。

「実はさ、今のPCスペックだと結構カツカツで……今後、いろんなコンテンツやりたいから、思い切って強化しようかなって」

 コメント欄が一気に流れ始める。

《ついに沼へようこそ》
《機材系なら任せろ》
《スペック上げるならCPUよりGPU優先だと思う》
《動画編集もするならメモリも増やしとけ》

 詳しいリスナーたちの意見が飛び交い、俺は思わず笑ってしまう。

「みんな詳しすぎない? なんでそんな専門家みたいなんだよ」

《オタクは皆機材に詳しい》
《推しのためなら調べるもんです》
《失敗したくないならBTOがおすすめ》

「優しいなあ……ありがとな」

 コメントを読み上げながら、俺は心の奥で静かに決意を固めていく。ここから先、もっと先へ行く。二人に報酬を払えるだけじゃなく、自分の活動にも再投資していく。そうやって少しずつ、形をつくっていくのだ。

 モニターに映る配信画面が、どこか眩しく見えた。これから先の未来も、きっと簡単じゃない。でもいまは、前に進むしかない。胸の奥で、そんな声がはっきりと響いていた。


◇◆

 時は流れ、冬の終わりの風が街角を冷たく撫でる頃となった。カレンダーを一枚めくるたびに、心のどこかが妙にざわつく。間もなく確定申告の時期がやってくる。会社員時代には意識すらしなかった言葉が、今では生活の中心に深く関わっているのだから、人間というものは本当に変わるものだ。

 とはいえ、やることは思ったほど多くはない。独立して間もない頃、以前声をかけてもらったライバー事務所のツテで、税理士を紹介してもらっていた。その人が実務面の大半を引き受けてくれているおかげで、俺の仕事は、必要な書類をまとめ、指定されたフォルダに放り込んで送るだけで済んでいる。

 領収書の束をスキャンし、収支一覧のデータを添えて、メールにファイルを貼り付ける。送信ボタンを押した瞬間、肩の力がどっと抜けた。

「……終わり、か」

 それだけ、と言ってしまえばあっけない。だが、その「あっけなさ」を手に入れるまでに、どれだけの不安と試行錯誤があったことか。税理士の存在は、もはや心の支えに近い。画面に表示された送信完了の文字を見つめながら、俺は小さく息をついた。

 そのとき、スマホが震えた。見慣れた名前――弁護士からの連絡だった。胸の奥で小さな鈍い音が鳴る。嫌な予感は、こういうときに限って当たるものだ。

「……はい、もしもし」

 電話口の向こうから、落ち着いた声が響く。用件は短く、しかし重かった。

 元妻から、養育費について「もっと増額して欲しい」という連絡があったという。

 言葉を飲み込んだまま、しばらく沈黙する。耳の奥で、遠くの車の音がやけに大きく響いた。

 今払っている養育費は、一般的な基準よりもむしろ多いと言っていい。彼氏――例の「高橋」。会社役員の息子で高収入らしい男。その立場と合わせれば、むしろ「多すぎる」と感じる人もいるくらいだろう。

「理由は……何か言っていましたか」

 問いかけると、弁護士は少し言いづらそうに言葉を選んだ。

「どうやら、最近あまりうまくいっていないようです。高橋さんとの関係が」

 思わず、静かに目を閉じた。ああ、やっぱりか――心の奥で、そんな呟きが生まれる。

 あの二人の性格は、もともと相性がいいとは思っていなかった。短気で感情の起伏が激しい元妻と、妙にプライドの高い高橋。火薬と火種を並べて置いているようなものだ。結婚の話も遠のいているらしいという報告に、胸の奥が微妙な感情で満たされる。

 娘のことを思えば、増やしてやりたい――その気持ちがまったくないわけではない。あの子に不自由な思いはさせたくない。俺が父親である以上、その想いは変わらない。

 だが、弁護士の声ははっきりしていた。

「こちらが折れてはいけません。現状でも十分な養育費をお支払いされています。それに……元奥様の散財も目立ちます。このまま要求を呑めば、今後も際限がなくなるでしょう」

 言葉のひとつひとつが、胸に重く沈んでいく。

「……親権を変えることも、可能です。訴訟になれば時間はかかりますが、状況次第では充分に勝ち目があります。どうなさいますか」

 親権――。

 その二文字は、静かに、しかし容赦なく胸を抉った。

 娘の笑顔が脳裏に浮かぶ。俺のことを「パパ」と呼ぶ小さな声。小さな手。離婚してからも、限られた面会の時間のなかで向き合ってきた、かけがえのない存在。

 奪う、という言葉を使いたくなかった。だが、守るためには、時に奪わなければならない瞬間があるのかもしれない。

 テーブルの上で、指先がじっとりと汗ばむ。答えはすぐには出なかった。

「少し……考えさせてください」

「もちろんです。ただし、感情だけで判断せず、冷静に。私は、それだけをお願いしたい」

「……ありがとうございます」

 通話が切れ、静けさが部屋に戻ってくる。冷蔵庫のモーター音が、やけに大きく響いた。

 俺は窓の外を見つめた。冬の空は鈍色で、低く垂れ込めている。遠くのビルの隙間を、風が通り抜けていく。

 元妻の散財――確かに、心当たりはある。ブランド物のバッグやアクセサリー、派手な旅行の写真。娘のためではなく、自分のために使っている金が多いことは、薄々感じていた。

 それでも、あの家に娘の居場所はあるのだろうか。あの環境の中で、あの子は本当に幸せでいられているのだろうか。

 胸の奥に、重たい霧が広がる。

「……会おう」

 ぽつりと、言葉がこぼれた。

 娘に、会おう。元妻でも、弁護士でもなく。直接顔を見て、声を聞いて、いま何を感じているのか、自分の目で確かめたい。

 判断を下すのは、そのあとでも遅くない。

 スマホを手に取り、面会の希望日を打ち込む。指先が微かに震えていた。送信を押す直前、深く息を吸って、ゆっくり吐き出す。

 カチ、と音がした。

 画面に表示された送信完了の文字を見つめながら、俺はそっと目を閉じた。胸の奥で、静かな痛みが脈打っていた。

 あの子の笑顔を守るために、俺はこれから、どんな選択をしなければならないのだろうか――。

 問いだけが、冬の空に溶けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

誰の金で生活してんの?

広川朔二
ライト文芸
誰よりも家族のために尽くしてきた男がいた。朝早くから働き、家事を担い、家庭を支えてきた。しかし、帰ってきたのは妻の裏切りと娘の冷たい視線。不倫、嘲笑——すべてを悟った男は、静かに「計画」を始める。仕組まれた別れと制裁、そして自由な人生の再出発。これは、捨てられた“だけの男”が、すべてをひっくり返す「静かなる復讐劇」。

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...