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第2章 トライアングル
第40話 言葉の居場所
駅前のファミリーレストランは、夕方になると不思議な匂いが混じる。揚げ物の油と、甘いデザートの香り、それから制服に染みついた汗の匂い。どれも嫌いじゃないはずなのに、今日はやけに胸につかえていた。
向かいの席では、雪乃とほたるが楽しそうにメニューを覗き込んでいる。
「え、これ期間限定だって」
「ほんとだ。色かわいいですね。写真映えしそう」
「ほたるお姉ちゃん、こういうの詳しいよね」
「好きなだけですよ。ネイルとかコスメとか、可愛いものを見るの」
言葉が軽やかに跳ねる。その音だけが、少し遠くで鳴っているみたいだった。
俺はメニューを開いたまま、視線を泳がせていた。文字は読めているのに、意味が頭に入ってこない。何を頼むか以前に、何を話せばいいのか分からない。
──配信の話なら、いくらでもできる。
機材、数字、企画、炎上、その後の空気。頭の中には、そういう言葉ばかりが渦巻いている。でも、それをここで口にするのは違う気がして、喉の奥で止まった。
「パパ、何にするの?」
雪乃に聞かれて、はっと顔を上げる。
「あ、えっと……ハンバーグでいいかな」
「いいかな、じゃなくて、自分で決めなよ」
そう言って笑う雪乃の声は、柔らかい。でも、その奥に、ほんの少しだけ距離を感じた。
注文が終わり、料理が来るまでの時間。沈黙が訪れるかと思ったが、そうはならなかった。
「雪乃ちゃん、部活って何やってるんでしたっけ」
「テニス。地味だけど」
「地味じゃないですよ。大変そうですもん」
「走るの多いし、腕も痛くなるしね」
「でも楽しそう」
「まあ……普通かな」
普通、という言葉が、妙に引っかかる。
俺はそれを拾えなかった。拾う勇気も、拾う言葉も、持っていなかった。
「最近の大会とかは?」
「来月に都大会があるよ」
「そうなんだ……頑張ってね」
「うん」
それ以上、話は膨らまなかった。話が分からないわけじゃない。でも、下手に踏み込むのが怖かった。踏み込んだ瞬間、壊れてしまいそうなものが、ここには多すぎた。
料理が運ばれてくる。鉄板の音が、会話の隙間を埋める。
「わ、これかわいい」
「ほんとだ。盛り付けおしゃれですね」
「インスタ向きじゃない?」
「ですね。あ、写真撮ってもいいですか?」
「いいよ」
二人がスマホを並べて、料理を撮る。その横顔を、俺は黙って眺めていた。
若い女の子の会話は、流れが速い。ネイルの色、最近流行っている服、動画で見たメイク。俺の知らない単語が、次々に飛び交う。
「この前の限定リップ、すぐ売り切れちゃって」
「え、あれ可愛かったですよね」
「そうそう。結局ネットで買った」
「私、まだメイクダメだけど……見るのは好き」
「それでいいんですよ。無理に背伸びしなくて」
ほたるの声は、いつもより少し低くて、落ち着いていた。年上として、無意識に調整しているのが分かる。
俺は、相槌すらうまく打てなかった。
「へえ」とか、「そうなんだ」とか、そういう言葉が、やけに薄っぺらく感じてしまう。何を言っても、場違いな気がして、結局黙り込む。
──イップス、だな。
配信では、あんなに喋れるのに。家では、言葉が出てこない。頭の中では文章が組み上がっているのに、口が動かない。
雪乃が、ちらりと俺を見る。その視線に気づいて、慌てて姿勢を正す。
「学校は……楽しいか?」
我ながら、ひどい質問だと思った。
「まあ……普通」
また、その言葉だ。
「友達とは、うまくやってる?」
「うん」
それ以上、続かない。雪乃は嘘をついていない。でも、本当のことも言っていない。分かっているのに、それを崩す言葉を、俺は持っていなかった。
ほたるが、さりげなく話題を変える。
「雪乃ちゃん、今度ネイルチップ作ってみます?」
「え、いいの?」
「はい。学校用じゃなくて、お休みの日用に」
「やりたい」
「じゃあ、今度材料持ってきますね」
笑顔が弾む。会話が流れる。俺はその横で、ただ食事を進めるだけだった。味は、よく分からなかった。
結局、何も分からないまま、時間だけが過ぎていった。
帰り道も、似たような空気だった。雪乃とほたるは、並んで歩きながら、さっきの続きを話している。俺は一歩後ろを歩き、街灯の影を踏みながら、考え事をしていた。
何を間違えたんだろう。
いや、間違えてはいない。ただ、足りないだけだ。言葉も、余裕も、覚悟も。
家に着き、解散する。ほたるが軽く頭を下げる。
「今日は、ありがとうございました」
「いや……こちらこそ」
その言葉も、どこか借り物みたいだった。
夜。部屋に戻り、シャワーを浴び、机に向かう。配信の準備をする気力は、今日はなかった。
スマホが震える。
ほたるからのメッセージだった。
〈今日は、ありがとうございました〉
少し間を置いて、次の文が届く。
〈雪乃ちゃんは、もっと話してほしいんじゃないかと思います。相談というか……「パパのためにできることがあるんじゃ」って思ってるはずです〉
画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
──俺のために。
そんなふうに考えたことが、なかったわけじゃない。でも、それを正面から突きつけられると、胸の奥がきしむ。
俺は、娘のことを守ろうとしていたつもりだった。でも、もしかしたら、守られていたのは俺のほうだったのかもしれない。
言葉の居場所を、間違えていただけだ。
配信では、言葉が居心地よく収まる。現実では、どこに置けばいいのか分からない。それだけの話だ。
スマホを伏せ、深く息を吸う。
次は、逃げない。
そう思えた夜だった。
◆◇◆◇
夕方の部屋は、昼と夜の境目みたいな色をしていた。カーテン越しの光が薄く伸びて、床の木目をなぞっている。テレビはついていない。エアコンの送風音だけが、やけに大きく感じられた。
キッチンのシンクに、洗い終えた皿が伏せてある。三人分だった名残が、まだそこにある。ほたるが帰ってから、部屋は少し広くなった。広くなった分だけ、間が持て余されている。
ソファに腰を下ろすと、すぐ隣に雪乃が座った。だが、視線は合わない。スマホをいじっているわけでもないのに、どこか一点を見つめている。呼吸のリズムが、少しだけ早い。
「……今日、どうだった」
自分でも驚くほど、当たり障りのない声が出た。配信のことでも、炎上のことでもない。逃げ道みたいな質問だ。
「テニスの練習。普通」
短い返事。声は硬い。ラケットを振るフォームを思い浮かべる。コートでの彼女は、もっと伸びやかに笑う。今は、糸を強く張りすぎたラケットみたいだ。
「そっか。怪我は?」
「してない」
会話が、そこで止まる。止まるたび、胸の奥に小さな音が鳴る。イップス。そう名付けるのは簡単だ。でも、逃げたままでは、何も変わらない。
雪乃が、先に口を開いた。
「……パパさ」
名前を呼ばれた瞬間、肩がわずかに跳ねた。
「最近、私のこと、見てないよね」
視線が、初めて合う。まっすぐで、揺れている。言い返そうとして、言葉が見つからない。
「見てるよ」
「嘘」
即答だった。声が少し荒れる。
「配信の画面はずっと見てるけど、私の顔は見てない。帰り道も、ただ『危ないことなかった?』って聞くだけ。私が何考えてるか、聞かない」
息を吸う。吐く。喉がひりつく。
「……ごめん。余裕がなくて」
「知ってる」
雪乃の声が震えた。
「だから余計に、腹立つんだよ。『知ってるから我慢しろ』みたいなの、嫌」
胸の奥が、ぎゅっと縮む。声を荒げているのに、彼女は泣きそうだった。いや、もう泣いている。目尻に溜まったものを、必死にこらえている。
「パパが大変なの、分かってる。配信も、仕事も、全部。私、応援してる。……でも」
言葉が途切れる。次の一歩が重いのは、同じだ。
「でも、置いてかないで」
その一言で、堰が切れた。自分の中で、ずっと溜めていたものが、音を立てて崩れる。
「置いてかない。絶対に」
声が掠れた。
「俺は……正直、怖かった。何を話せばいいか分からなくなった。配信の話しか、頭に浮かばなくて。雪乃に、変な重さを背負わせたくなかった」
「もう背負ってるよ!」
雪乃が、はっきりと声を荒げた。涙が落ちる。
「家族なんだから。パパの重さも、私の重さも、同じじゃん」
言い返せない。事実だった。家族を守るつもりで、距離を置いた。その距離が、いちばん痛かった。
「ごめん……」
言葉が、ようやく腹の底から出た。
「逃げてた。強いフリして、逃げてた」
雪乃が、肩で息をする。しばらく沈黙が流れる。エアコンの音が、やけに優しい。
「配信のこと」
雪乃が、少し落ち着いた声で言った。
「これから、どうするの?」
正面からの問い。逃げ道はない。
「続ける」
即答した。
「でも、独りで突っ走らない。数字に酔わない。……それと、家のことは、ちゃんと話す。雪乃のことも」
彼女は、鼻をすする。
「約束?」
「約束」
拳を軽く合わせる。子どもの頃にやった、あの合図。久しぶりだった。
涙が、いつの間にか頬を伝っていた。雪乃も泣いている。二人で泣くなんて、いつ以来だろう。それでも、不思議と息は楽だった。
向かいの席では、雪乃とほたるが楽しそうにメニューを覗き込んでいる。
「え、これ期間限定だって」
「ほんとだ。色かわいいですね。写真映えしそう」
「ほたるお姉ちゃん、こういうの詳しいよね」
「好きなだけですよ。ネイルとかコスメとか、可愛いものを見るの」
言葉が軽やかに跳ねる。その音だけが、少し遠くで鳴っているみたいだった。
俺はメニューを開いたまま、視線を泳がせていた。文字は読めているのに、意味が頭に入ってこない。何を頼むか以前に、何を話せばいいのか分からない。
──配信の話なら、いくらでもできる。
機材、数字、企画、炎上、その後の空気。頭の中には、そういう言葉ばかりが渦巻いている。でも、それをここで口にするのは違う気がして、喉の奥で止まった。
「パパ、何にするの?」
雪乃に聞かれて、はっと顔を上げる。
「あ、えっと……ハンバーグでいいかな」
「いいかな、じゃなくて、自分で決めなよ」
そう言って笑う雪乃の声は、柔らかい。でも、その奥に、ほんの少しだけ距離を感じた。
注文が終わり、料理が来るまでの時間。沈黙が訪れるかと思ったが、そうはならなかった。
「雪乃ちゃん、部活って何やってるんでしたっけ」
「テニス。地味だけど」
「地味じゃないですよ。大変そうですもん」
「走るの多いし、腕も痛くなるしね」
「でも楽しそう」
「まあ……普通かな」
普通、という言葉が、妙に引っかかる。
俺はそれを拾えなかった。拾う勇気も、拾う言葉も、持っていなかった。
「最近の大会とかは?」
「来月に都大会があるよ」
「そうなんだ……頑張ってね」
「うん」
それ以上、話は膨らまなかった。話が分からないわけじゃない。でも、下手に踏み込むのが怖かった。踏み込んだ瞬間、壊れてしまいそうなものが、ここには多すぎた。
料理が運ばれてくる。鉄板の音が、会話の隙間を埋める。
「わ、これかわいい」
「ほんとだ。盛り付けおしゃれですね」
「インスタ向きじゃない?」
「ですね。あ、写真撮ってもいいですか?」
「いいよ」
二人がスマホを並べて、料理を撮る。その横顔を、俺は黙って眺めていた。
若い女の子の会話は、流れが速い。ネイルの色、最近流行っている服、動画で見たメイク。俺の知らない単語が、次々に飛び交う。
「この前の限定リップ、すぐ売り切れちゃって」
「え、あれ可愛かったですよね」
「そうそう。結局ネットで買った」
「私、まだメイクダメだけど……見るのは好き」
「それでいいんですよ。無理に背伸びしなくて」
ほたるの声は、いつもより少し低くて、落ち着いていた。年上として、無意識に調整しているのが分かる。
俺は、相槌すらうまく打てなかった。
「へえ」とか、「そうなんだ」とか、そういう言葉が、やけに薄っぺらく感じてしまう。何を言っても、場違いな気がして、結局黙り込む。
──イップス、だな。
配信では、あんなに喋れるのに。家では、言葉が出てこない。頭の中では文章が組み上がっているのに、口が動かない。
雪乃が、ちらりと俺を見る。その視線に気づいて、慌てて姿勢を正す。
「学校は……楽しいか?」
我ながら、ひどい質問だと思った。
「まあ……普通」
また、その言葉だ。
「友達とは、うまくやってる?」
「うん」
それ以上、続かない。雪乃は嘘をついていない。でも、本当のことも言っていない。分かっているのに、それを崩す言葉を、俺は持っていなかった。
ほたるが、さりげなく話題を変える。
「雪乃ちゃん、今度ネイルチップ作ってみます?」
「え、いいの?」
「はい。学校用じゃなくて、お休みの日用に」
「やりたい」
「じゃあ、今度材料持ってきますね」
笑顔が弾む。会話が流れる。俺はその横で、ただ食事を進めるだけだった。味は、よく分からなかった。
結局、何も分からないまま、時間だけが過ぎていった。
帰り道も、似たような空気だった。雪乃とほたるは、並んで歩きながら、さっきの続きを話している。俺は一歩後ろを歩き、街灯の影を踏みながら、考え事をしていた。
何を間違えたんだろう。
いや、間違えてはいない。ただ、足りないだけだ。言葉も、余裕も、覚悟も。
家に着き、解散する。ほたるが軽く頭を下げる。
「今日は、ありがとうございました」
「いや……こちらこそ」
その言葉も、どこか借り物みたいだった。
夜。部屋に戻り、シャワーを浴び、机に向かう。配信の準備をする気力は、今日はなかった。
スマホが震える。
ほたるからのメッセージだった。
〈今日は、ありがとうございました〉
少し間を置いて、次の文が届く。
〈雪乃ちゃんは、もっと話してほしいんじゃないかと思います。相談というか……「パパのためにできることがあるんじゃ」って思ってるはずです〉
画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。
──俺のために。
そんなふうに考えたことが、なかったわけじゃない。でも、それを正面から突きつけられると、胸の奥がきしむ。
俺は、娘のことを守ろうとしていたつもりだった。でも、もしかしたら、守られていたのは俺のほうだったのかもしれない。
言葉の居場所を、間違えていただけだ。
配信では、言葉が居心地よく収まる。現実では、どこに置けばいいのか分からない。それだけの話だ。
スマホを伏せ、深く息を吸う。
次は、逃げない。
そう思えた夜だった。
◆◇◆◇
夕方の部屋は、昼と夜の境目みたいな色をしていた。カーテン越しの光が薄く伸びて、床の木目をなぞっている。テレビはついていない。エアコンの送風音だけが、やけに大きく感じられた。
キッチンのシンクに、洗い終えた皿が伏せてある。三人分だった名残が、まだそこにある。ほたるが帰ってから、部屋は少し広くなった。広くなった分だけ、間が持て余されている。
ソファに腰を下ろすと、すぐ隣に雪乃が座った。だが、視線は合わない。スマホをいじっているわけでもないのに、どこか一点を見つめている。呼吸のリズムが、少しだけ早い。
「……今日、どうだった」
自分でも驚くほど、当たり障りのない声が出た。配信のことでも、炎上のことでもない。逃げ道みたいな質問だ。
「テニスの練習。普通」
短い返事。声は硬い。ラケットを振るフォームを思い浮かべる。コートでの彼女は、もっと伸びやかに笑う。今は、糸を強く張りすぎたラケットみたいだ。
「そっか。怪我は?」
「してない」
会話が、そこで止まる。止まるたび、胸の奥に小さな音が鳴る。イップス。そう名付けるのは簡単だ。でも、逃げたままでは、何も変わらない。
雪乃が、先に口を開いた。
「……パパさ」
名前を呼ばれた瞬間、肩がわずかに跳ねた。
「最近、私のこと、見てないよね」
視線が、初めて合う。まっすぐで、揺れている。言い返そうとして、言葉が見つからない。
「見てるよ」
「嘘」
即答だった。声が少し荒れる。
「配信の画面はずっと見てるけど、私の顔は見てない。帰り道も、ただ『危ないことなかった?』って聞くだけ。私が何考えてるか、聞かない」
息を吸う。吐く。喉がひりつく。
「……ごめん。余裕がなくて」
「知ってる」
雪乃の声が震えた。
「だから余計に、腹立つんだよ。『知ってるから我慢しろ』みたいなの、嫌」
胸の奥が、ぎゅっと縮む。声を荒げているのに、彼女は泣きそうだった。いや、もう泣いている。目尻に溜まったものを、必死にこらえている。
「パパが大変なの、分かってる。配信も、仕事も、全部。私、応援してる。……でも」
言葉が途切れる。次の一歩が重いのは、同じだ。
「でも、置いてかないで」
その一言で、堰が切れた。自分の中で、ずっと溜めていたものが、音を立てて崩れる。
「置いてかない。絶対に」
声が掠れた。
「俺は……正直、怖かった。何を話せばいいか分からなくなった。配信の話しか、頭に浮かばなくて。雪乃に、変な重さを背負わせたくなかった」
「もう背負ってるよ!」
雪乃が、はっきりと声を荒げた。涙が落ちる。
「家族なんだから。パパの重さも、私の重さも、同じじゃん」
言い返せない。事実だった。家族を守るつもりで、距離を置いた。その距離が、いちばん痛かった。
「ごめん……」
言葉が、ようやく腹の底から出た。
「逃げてた。強いフリして、逃げてた」
雪乃が、肩で息をする。しばらく沈黙が流れる。エアコンの音が、やけに優しい。
「配信のこと」
雪乃が、少し落ち着いた声で言った。
「これから、どうするの?」
正面からの問い。逃げ道はない。
「続ける」
即答した。
「でも、独りで突っ走らない。数字に酔わない。……それと、家のことは、ちゃんと話す。雪乃のことも」
彼女は、鼻をすする。
「約束?」
「約束」
拳を軽く合わせる。子どもの頃にやった、あの合図。久しぶりだった。
涙が、いつの間にか頬を伝っていた。雪乃も泣いている。二人で泣くなんて、いつ以来だろう。それでも、不思議と息は楽だった。
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