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第3章 配信者「姫宮みこと」
第54話 形は変わる
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父からの連絡は、唐突だった。
〈テレビで見なくなったけど、暇なら雪乃ちゃんと遊びに来い〉
スマートフォンの画面に表示されたその一文を、しばらく眺めていた。
妙に、ぶっきらぼうで、父らしい。
「……元気そうだな」
少なくとも、文章からはそう感じられた。
リビングで宿題をしている雪乃に声をかける。
「なぁ、雪乃」
「なに?」
「おじいちゃんから連絡があってさ。暇なら、遊びに来いって」
一瞬、雪乃の手が止まった。
「……えっ?」
顔を上げ、不安そうに眉を寄せる。
「おじいちゃんから? 私……嫌われてないかな……」
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
雪乃と父が最後に会ったのは、いつだったか。
俺たちが離婚するより、ずっと前。
雪乃が、まだ年長さんくらいだったはずだ。
正直、俺も正確には覚えていない。
「大丈夫だと思うよ」
そう言って、できるだけ柔らかく笑う。
「おじいちゃん、そういう人じゃないし」
「……そっか」
少し考えてから、雪乃は小さく頷いた。
「わかった。行ってみる……」
その声には、まだ緊張が混じっていたが、拒絶はなかった。
数日後、俺たちは長野の実家へ向かった。
高校受験を控えている雪乃は、しっかりと勉強道具を鞄に詰めている。
「そんなに持っていかなくても……」
「だって、時間あったらやりたいし」
「真面目だな」
「パパに言われたくない」
即座に返され、苦笑する。
車窓から見える景色が、少しずつ変わっていく。
ビルが減り、山が増え、空が広くなる。
懐かしい道だ。
実家に着くと、玄関の前に父が立っていた。
「よく来たな!」
声は張りがあり、姿勢も思ったよりしゃんとしている。
「……元気そうだな」
「おう。このところ調子がいい」
患っている体の具合も、今日は良さそうだった。
雪乃は、少し後ろに隠れるようにして、ぎこちなく頭を下げる。
「お、お久しぶりです……」
その様子を見た父は、腹を抱えて笑った。
「なんだなんだ、そんな他人行儀で!」
そして、屈託なく言う。
「昔みたいに、雪だるまでも作るか!」
「……えっ」
戸惑う雪乃をよそに、父は外へ出ていく。
結局、二人は庭で雪を転がし始めた。
笑い声が、冬の空気に溶けていく。
しばらくして、雪乃がふと聞いた。
「……おばあちゃんは、いないの?」
「あぁ、ばぁちゃんはな」
父は、少し間を置いてから答える。
「婦人会の旅行で出かけとるよ」
「そっか」
それ以上、雪乃は聞かなかった。
さすがに、この時期に母と雪乃を会わせるのは、心配だった。
何を言われるか、分からない。
父が今、このタイミングで俺たちを呼んだのも、
もしかしたら、そういう気遣いだったのかもしれない。
夕食は、父の手料理だった。
煮物に、焼き魚、味噌汁。
どれも、素朴だが、温かい味。
「これ……美味しい!!」
雪乃が、目を輝かせる。
「そうだろぅ?」
父は、どこか誇らしげだ。
「パパの料理上手は、おじいちゃん譲りなんだね」
「……そうかもな」
俺がそう言うと、父は満足そうに頷いた。
食後、雪乃は早々に布団に入った。
久しぶりの畳が心地よいのか、あっという間に眠りに落ちる。
規則正しい寝息を確認してから、居間に戻る。
父が、酒瓶を取り出していた。
「晩酌、付き合え」
「……呑んで大丈夫なのか?」
「これくらい、平気だ」
そう言って、徳利を傾ける。
盃を交わし、しばらくは他愛もない話をした。
雪乃のこと。仕事のこと。配信のこと。
やがて、父は真剣な顔になった。
「それよりな」
盃を置き、低い声で言う。
「伝えておかなきゃならんことがある」
「……何だ?」
一瞬、嫌な予感がした。
「母さんがな」
父は、言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「認知症になったみたいでな」
「……えっ!?」
思わず声を上げる。
「大きい声出すな」
父が、静かに制した。
「雪乃ちゃんには、伝えんでいい」
その言葉に、胸が締め付けられる。
母の顔が、脳裏に浮かんだ。
厳しくて、口うるさくて、でも、家族だった人。
「……いつから」
「ここ一年くらいだな」
父は、淡々と語る。
「最初は、物忘れが増えただけやと思っとった。
だが、最近は……自分が何を言ったかも、覚えておらん」
盃の中の酒が、揺れる。
「だからな」
父は、こちらを真っ直ぐ見た。
「今は、会わせん方がええ」
俺は、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」
言葉は、それだけしか出なかった。
家族は少しずつ、形を変えていく。
気づかないうちに。
畳の上で眠る雪乃の寝顔を思い浮かべ、胸の奥に重たいものを抱えたまま、盃を傾けた。
◇◆◇◆
翌朝、障子越しの光で目が覚めた。
冬の朝のそれは、鋭さよりも柔らかさを帯びていて、畳の上に淡い四角を描いている。
久しぶりの感触だ。布団の中で寝返りを打つと、藁の匂いがかすかに鼻をくすぐった。
居間から、包丁の音が聞こえてくる。
一定のリズム。迷いがない。
「……親父か」
身を起こし、静かに障子を開ける。
雪乃は、まだ眠っていた。昨夜はよほど安心したのだろう。頬が少し赤く、呼吸も深い。
起こさないよう、そっと部屋を出た。
台所では、父が朝食の準備をしていた。
エプロン姿が、やけに板についている。
「おはよう」
「おう。起きたか」
それだけのやり取り。
だが、昨夜の話が、空気の底に沈んだままだ。
焼き魚の匂いが、部屋に満ちる。
味噌汁の湯気が、天井へと昇っていく。
「雪乃は?」
「まだ寝てる」
「そうか。無理に起こすな。昨日、はしゃいどったからな」
雪だるまの話だ。
父は本気で転がし、雪乃は最初こそ戸惑っていたが、最後は声を上げて笑っていた。
あの笑顔を見て、来て良かったと、心から思った。
朝食が並び、しばらくして雪乃も起きてきた。
「おはようございます」
昨日より、声が少し明るい。
「おう、おはよう」
父は、いつも通りに返す。
変な気遣いは、しない。
「よく眠れた?」
「うん。畳、気持ちよかった」
そう言って、雪乃は笑った。
朝食は、静かで、穏やかだった。
特別な話はしない。
学校のこと。雪のこと。今日の天気。
それだけで、十分だった。
食後、雪乃は居間の隅で勉強を始めた。
参考書を広げ、黙々とペンを動かす。
「……受験生だな」
父が、小声で言う。
「真面目だよ」
「血だな」
「それは否定しない」
小さく笑い合う。
昼前、そろそろ帰る支度を始めると、父が外套を羽織った。
「駅まで送る」
「いいよ」
「いいから」
その言い方に、逆らう気は起きなかった。
玄関先で、雪乃が靴を履きながら、父を見上げる。
「……おじいちゃん」
「ん?」
「また、来てもいい?」
一瞬、父の表情が変わった。
驚きと、喜びが、入り混じる。
「当たり前よぉ!」
即答だった。
「次は、雪がない時に来い。川も山も、ええぞ」
「うん」
雪乃は、嬉しそうに頷いた。
車に乗り込み、エンジンをかける。
窓越しに、父が手を振っている。
その姿を、バックミラーで見ながら、胸の奥が、じんとした。
走り出してしばらく、雪乃が口を開いた。
「ねぇ」
「ん?」
「おじいちゃん、元気そうだったね」
「あぁ」
「……なんか、安心した」
言葉を選んでいるのが、分かる。
「……おばあちゃんは?」
来たか、と内心で思う。
「旅行だって言ってたでしょ」
「うん。でも……」
雪乃は、窓の外を見つめたまま、続ける。
「なんとなく、心配というか」
子どもは、敏感だ。
「……そうか」
それ以上は、言わなかった。
言えなかった。
雪乃も、深追いはしなかった。
車内に、沈黙が落ちる。
だが、重たくはない。
長野の山々が、少しずつ遠ざかっていく。
昨夜、父が言った言葉が、頭の中で反芻される。
――母さんが認知症になったみたいでな。
思い返せば、兆候はあった。
電話口での、妙な言い回し。
同じ話を、何度も繰り返すこと。
見ないふりをしていたのは、俺の方だったのかもしれない。
雪乃を巻き込みたくない。
それは、本音だ。
だが、いつかは向き合わなければならない。
「……家族って、難しいな」
思わず、呟いた。
「なに?」
「いや、なんでもない」
雪乃は、それ以上聞かず、再び窓の外へ視線を戻した。
東京に近づくにつれ、景色が変わっていく。
人の気配が、増えていく。
日常が、戻ってくる。
家に着き、荷物を下ろす。
雪乃はすぐに部屋へ向かい、机に向かった。
「疲れてない?」
「大丈夫」
短い返事。
だが、どこか満ち足りている。
その背中を見送り、リビングに戻る。
静かな部屋。
昨日までの賑やかさが、嘘のようだ。
父の言葉。
母のこと。
雪乃の未来。
考えることは、山ほどある。
それでも。
「……今は、今を大事にしよう」
誰にともなく、そう言った。
夜になり、配信の準備をする。
いつもの手順。いつもの画面。
開始ボタンを押す直前、少しだけ、迷った。
だが、深呼吸を一つして、切り替える。
「こんばんは、姫宮みことです」
画面の向こうに、いつもの顔ぶれが集まってくる。
変わるものも、変わらないものもある。
その両方を抱えながら、今日も前へ進む。
それでいい。
〔第3章 完〕
〈テレビで見なくなったけど、暇なら雪乃ちゃんと遊びに来い〉
スマートフォンの画面に表示されたその一文を、しばらく眺めていた。
妙に、ぶっきらぼうで、父らしい。
「……元気そうだな」
少なくとも、文章からはそう感じられた。
リビングで宿題をしている雪乃に声をかける。
「なぁ、雪乃」
「なに?」
「おじいちゃんから連絡があってさ。暇なら、遊びに来いって」
一瞬、雪乃の手が止まった。
「……えっ?」
顔を上げ、不安そうに眉を寄せる。
「おじいちゃんから? 私……嫌われてないかな……」
その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。
雪乃と父が最後に会ったのは、いつだったか。
俺たちが離婚するより、ずっと前。
雪乃が、まだ年長さんくらいだったはずだ。
正直、俺も正確には覚えていない。
「大丈夫だと思うよ」
そう言って、できるだけ柔らかく笑う。
「おじいちゃん、そういう人じゃないし」
「……そっか」
少し考えてから、雪乃は小さく頷いた。
「わかった。行ってみる……」
その声には、まだ緊張が混じっていたが、拒絶はなかった。
数日後、俺たちは長野の実家へ向かった。
高校受験を控えている雪乃は、しっかりと勉強道具を鞄に詰めている。
「そんなに持っていかなくても……」
「だって、時間あったらやりたいし」
「真面目だな」
「パパに言われたくない」
即座に返され、苦笑する。
車窓から見える景色が、少しずつ変わっていく。
ビルが減り、山が増え、空が広くなる。
懐かしい道だ。
実家に着くと、玄関の前に父が立っていた。
「よく来たな!」
声は張りがあり、姿勢も思ったよりしゃんとしている。
「……元気そうだな」
「おう。このところ調子がいい」
患っている体の具合も、今日は良さそうだった。
雪乃は、少し後ろに隠れるようにして、ぎこちなく頭を下げる。
「お、お久しぶりです……」
その様子を見た父は、腹を抱えて笑った。
「なんだなんだ、そんな他人行儀で!」
そして、屈託なく言う。
「昔みたいに、雪だるまでも作るか!」
「……えっ」
戸惑う雪乃をよそに、父は外へ出ていく。
結局、二人は庭で雪を転がし始めた。
笑い声が、冬の空気に溶けていく。
しばらくして、雪乃がふと聞いた。
「……おばあちゃんは、いないの?」
「あぁ、ばぁちゃんはな」
父は、少し間を置いてから答える。
「婦人会の旅行で出かけとるよ」
「そっか」
それ以上、雪乃は聞かなかった。
さすがに、この時期に母と雪乃を会わせるのは、心配だった。
何を言われるか、分からない。
父が今、このタイミングで俺たちを呼んだのも、
もしかしたら、そういう気遣いだったのかもしれない。
夕食は、父の手料理だった。
煮物に、焼き魚、味噌汁。
どれも、素朴だが、温かい味。
「これ……美味しい!!」
雪乃が、目を輝かせる。
「そうだろぅ?」
父は、どこか誇らしげだ。
「パパの料理上手は、おじいちゃん譲りなんだね」
「……そうかもな」
俺がそう言うと、父は満足そうに頷いた。
食後、雪乃は早々に布団に入った。
久しぶりの畳が心地よいのか、あっという間に眠りに落ちる。
規則正しい寝息を確認してから、居間に戻る。
父が、酒瓶を取り出していた。
「晩酌、付き合え」
「……呑んで大丈夫なのか?」
「これくらい、平気だ」
そう言って、徳利を傾ける。
盃を交わし、しばらくは他愛もない話をした。
雪乃のこと。仕事のこと。配信のこと。
やがて、父は真剣な顔になった。
「それよりな」
盃を置き、低い声で言う。
「伝えておかなきゃならんことがある」
「……何だ?」
一瞬、嫌な予感がした。
「母さんがな」
父は、言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「認知症になったみたいでな」
「……えっ!?」
思わず声を上げる。
「大きい声出すな」
父が、静かに制した。
「雪乃ちゃんには、伝えんでいい」
その言葉に、胸が締め付けられる。
母の顔が、脳裏に浮かんだ。
厳しくて、口うるさくて、でも、家族だった人。
「……いつから」
「ここ一年くらいだな」
父は、淡々と語る。
「最初は、物忘れが増えただけやと思っとった。
だが、最近は……自分が何を言ったかも、覚えておらん」
盃の中の酒が、揺れる。
「だからな」
父は、こちらを真っ直ぐ見た。
「今は、会わせん方がええ」
俺は、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」
言葉は、それだけしか出なかった。
家族は少しずつ、形を変えていく。
気づかないうちに。
畳の上で眠る雪乃の寝顔を思い浮かべ、胸の奥に重たいものを抱えたまま、盃を傾けた。
◇◆◇◆
翌朝、障子越しの光で目が覚めた。
冬の朝のそれは、鋭さよりも柔らかさを帯びていて、畳の上に淡い四角を描いている。
久しぶりの感触だ。布団の中で寝返りを打つと、藁の匂いがかすかに鼻をくすぐった。
居間から、包丁の音が聞こえてくる。
一定のリズム。迷いがない。
「……親父か」
身を起こし、静かに障子を開ける。
雪乃は、まだ眠っていた。昨夜はよほど安心したのだろう。頬が少し赤く、呼吸も深い。
起こさないよう、そっと部屋を出た。
台所では、父が朝食の準備をしていた。
エプロン姿が、やけに板についている。
「おはよう」
「おう。起きたか」
それだけのやり取り。
だが、昨夜の話が、空気の底に沈んだままだ。
焼き魚の匂いが、部屋に満ちる。
味噌汁の湯気が、天井へと昇っていく。
「雪乃は?」
「まだ寝てる」
「そうか。無理に起こすな。昨日、はしゃいどったからな」
雪だるまの話だ。
父は本気で転がし、雪乃は最初こそ戸惑っていたが、最後は声を上げて笑っていた。
あの笑顔を見て、来て良かったと、心から思った。
朝食が並び、しばらくして雪乃も起きてきた。
「おはようございます」
昨日より、声が少し明るい。
「おう、おはよう」
父は、いつも通りに返す。
変な気遣いは、しない。
「よく眠れた?」
「うん。畳、気持ちよかった」
そう言って、雪乃は笑った。
朝食は、静かで、穏やかだった。
特別な話はしない。
学校のこと。雪のこと。今日の天気。
それだけで、十分だった。
食後、雪乃は居間の隅で勉強を始めた。
参考書を広げ、黙々とペンを動かす。
「……受験生だな」
父が、小声で言う。
「真面目だよ」
「血だな」
「それは否定しない」
小さく笑い合う。
昼前、そろそろ帰る支度を始めると、父が外套を羽織った。
「駅まで送る」
「いいよ」
「いいから」
その言い方に、逆らう気は起きなかった。
玄関先で、雪乃が靴を履きながら、父を見上げる。
「……おじいちゃん」
「ん?」
「また、来てもいい?」
一瞬、父の表情が変わった。
驚きと、喜びが、入り混じる。
「当たり前よぉ!」
即答だった。
「次は、雪がない時に来い。川も山も、ええぞ」
「うん」
雪乃は、嬉しそうに頷いた。
車に乗り込み、エンジンをかける。
窓越しに、父が手を振っている。
その姿を、バックミラーで見ながら、胸の奥が、じんとした。
走り出してしばらく、雪乃が口を開いた。
「ねぇ」
「ん?」
「おじいちゃん、元気そうだったね」
「あぁ」
「……なんか、安心した」
言葉を選んでいるのが、分かる。
「……おばあちゃんは?」
来たか、と内心で思う。
「旅行だって言ってたでしょ」
「うん。でも……」
雪乃は、窓の外を見つめたまま、続ける。
「なんとなく、心配というか」
子どもは、敏感だ。
「……そうか」
それ以上は、言わなかった。
言えなかった。
雪乃も、深追いはしなかった。
車内に、沈黙が落ちる。
だが、重たくはない。
長野の山々が、少しずつ遠ざかっていく。
昨夜、父が言った言葉が、頭の中で反芻される。
――母さんが認知症になったみたいでな。
思い返せば、兆候はあった。
電話口での、妙な言い回し。
同じ話を、何度も繰り返すこと。
見ないふりをしていたのは、俺の方だったのかもしれない。
雪乃を巻き込みたくない。
それは、本音だ。
だが、いつかは向き合わなければならない。
「……家族って、難しいな」
思わず、呟いた。
「なに?」
「いや、なんでもない」
雪乃は、それ以上聞かず、再び窓の外へ視線を戻した。
東京に近づくにつれ、景色が変わっていく。
人の気配が、増えていく。
日常が、戻ってくる。
家に着き、荷物を下ろす。
雪乃はすぐに部屋へ向かい、机に向かった。
「疲れてない?」
「大丈夫」
短い返事。
だが、どこか満ち足りている。
その背中を見送り、リビングに戻る。
静かな部屋。
昨日までの賑やかさが、嘘のようだ。
父の言葉。
母のこと。
雪乃の未来。
考えることは、山ほどある。
それでも。
「……今は、今を大事にしよう」
誰にともなく、そう言った。
夜になり、配信の準備をする。
いつもの手順。いつもの画面。
開始ボタンを押す直前、少しだけ、迷った。
だが、深呼吸を一つして、切り替える。
「こんばんは、姫宮みことです」
画面の向こうに、いつもの顔ぶれが集まってくる。
変わるものも、変わらないものもある。
その両方を抱えながら、今日も前へ進む。
それでいい。
〔第3章 完〕
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