ドライフラワーが枯れるまで

小林一咲

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第4話【透明】

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 ここは、ある町の片隅にある小さな料理店。繁盛しているとは言えないが、人足は途絶えることを知らず、今日も悩みを抱えた人々がこの店にやって来る。

「いらっしゃい」

 制服姿の賑やかな少年数人が、テーブル席に座る。

「マジでアイツさぁ……」
「ありえねぇ」
「それマジなん?」

 学校の話で盛り上がっているようだったが、1人だけ静かに聞いているだけの子が居た。

「お前どう思う?」
「いや、まあ酷いよね」

「――なにそれ」

「話聞いてた?」
「う、うん……」
「しょうがねぇよコイツ障害だもん」
「そうだったわ」

 ケラケラと笑っている友人を他所に、1人悲しそうに俯く。

「ごめんて」
「気にすんなよー」
「そんな事より、なに食う?」
「え? ああ……牛丼あんじゃん」
「じゃあ注文するか」
「すみませーん」
「はい、どれにします?」
「牛丼4つで」
「あ、いや、僕は……」

 物静かな客がおどおどし始めた。

「なんだよ、別のにすんの?」
「う、うん」
「先に言えよ」
「早く頼めよ」

 次々に急かされ、客は益々焦っている。

「ゆっくりでいいんで、お好きなものをどうぞ」
「あ、はい……ええっと……」
「店員さん困ってんだろ?」
「急げって」

「いえ、ゆっくりで構いませんよ」

 静かな客はしばらく考えてから、指を刺して注文をした。

「はい、お待ち下さい」

 ようやく決まったようだ。店主は厨房へと戻り、調理を始めた。その間も若い客たちは静かな客を揶揄っているようだった。

「お待たせしました」
「うわあ、美味しそう」

 思わず、静かな客が漏らした。

「あ、すみません……」
「いえ、ありがとうございます。このパスタは、味付きですが、このソースをかけるとまた違った味が楽しめます」

 珍しく今日の店主は多弁だ。別にこの少年を哀れに思ったわけではなく、このパスタは店主にとって、自信作であり、大切な記憶なのだ。

「ごゆっくり」

 静かな客が注文したパスタは、冷製仕立てで、有機スパゲッティとベビーリーフの2種類。コチュジャンを使った韓国風トマト味で、ソースはマグロの出汁に白味噌を加え、更に白胡麻をたっぷり入れた絶品だ。

 他の客が牛丼を掻き込む中、静かな客はパスタをくるくるとフォークに巻き、口に運んでいた。

 有機パスタはあっさりとしているが、味がしっかりとついていて、2種類の味がある事で、食べ比べのようなこともできる。

 静かな客は、ある程度食べると、ソースをかけてから口に運ぶ。白胡麻のソースは、濃厚だが、パスタの素の味も保ちつつ、さらに旨味が増したように感じられる。

「これ、美味しい……」
「え?! マジで?」
「一口ちょうだい」
「あ、うん」

 友人たちも次々に食べる。

「うまあ!」
「俺もこれにすれば良かった」
「ってか、なんで俺の分も勝手に頼んだんだよ」
「は? だって牛丼が良いって……」
「言ってねぇし」

 客たちは牛丼を食べ終えると、静かな客が食べ終わるのを待っていた。

「ご馳走様でした!」
「まいど」

 それぞれ、お代を渡すと賑やかな客たちは店を出て行った。

「次はパスタ頼もうっと」
「そうしなよ」
「おう!」

 最後に笑顔の客を見られた店主も、どこかホッとしたような表情をしていた。
 
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