ドライフラワーが枯れるまで

小林一咲

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第2章

過去

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 ここは、ある町の片隅にある小さな料理店。繁盛しているとは言えないが、人足は途絶えることを知らず、今日も悩みを抱えた人々がこの店にやって来る。
 
 私は、知人からの勧めで、この『ドライフラワー』という名の店に来た。外装はシンプルで、モダンな作りだ。

「いらっしゃい」

 店主の、ぶっきらぼうな声に迎えられ、私はカウンター席に座った。メニューを見ると、洋風料理や和風料理、そして中華料理など多彩な種類が並んでいる。

 私が注文したのは、季節の野菜をたっぷり使ったオムレツと、店で使っているという、パンだ。オムレツはふわふわで、野菜の甘みがしっかりと感じられ、パンは外はカリカリ、中はふんわりとした食感で、一つ一つ丁寧に焼き上げられているのが分かった。

「この店は長いんですか? 」
「いえ、5年ほど前に」
「そうですか」
 
 食事をしながら店主と話をすると、この店には多くの常連客がいることが分かった。店主は彼らの悩みや問題を、食事によって慰めや励ましを提供することが店の使命だと話してくれた。

「なぜ、そこまでするのです? 」
「いや、まぁ……」

 店主は、言葉を詰まらせた。何か理由があるのだろう。私は益々興味を持った。
 すると、隣に座っていた常連らしき人物が話し始めた。

「ここで食事をすると、前向きになれるんですよ」

 彼は微笑みながら語ってくれたが、店主はどこか哀しげだった。

「店長さんの料理には、不思議な力があるんですね」
「そうなんですかね……」
「そうでしょう」
「……」

 私は、常連の客が居なくなった事を確認してから、再度店主に話しかけた。

「店長さん、久しぶりですね」
「やはり、貴方でしたか」
「ええ」

 そう、私はこの男を知っている。彼もまた、同じだ。

「何年振りかね」
「私が出てからですから、もう15年ですか」
「ああ、そうか。上手くやってるみたいで安心したよ」
「その節は、お世話になりました」
「いやいや、もっと早く来るべきだったんだがな……」

 彼との出会いは15年前、蝉が鳴き始めた肌寒い夏のことだった。

「護送! 男2女0、計2名整列! 」
「1名、2名入れ! 」

 ここは、北海道網走市にある法務省矯正局札幌矯正管区に属する、網走刑務所だ。日本で最も厳重で、収容分類級Bの刑務所だ。つまり、再犯者または暴力団構成員で執行刑期10年以下の受刑者はここに入る。当時、刑務官11年目だった私はここで勤務していた。

「河原田カワラダ大治タイシ387番」
「はい……」
「聞こえてるのか! 387番! 」
「はい」
「腹から声を出さんか! 」
「次、388番……」

 これが、私と彼の出会いだった。彼は、酔った勢いで暴行をしたうえ、元暴力団員だったため、この刑務所に入ったというわけだ。

「よろしくお願いします」
「腹から声を出せと言ってるんだ! 」
「はい」
「貴様、舐めているのか! 」
「いえ」
「部長、その辺で……」
「ん? そうか」

 怒鳴りつけているのは、この時代あるあるだったが、この人は1番怒鳴っていた記憶がある。看守部長なので、私より階級では上だが、国家試験で受かった準キャリって奴なので、年数で言えば私の方が断然上だ。

「それでは、それぞれを房に連れて行くが、私語は厳禁。即独房入りとする」

 刑務官は、犯罪者たちが非常に危険であることを認識しており、常に警戒しなければならないため、常に緊張状態に置かれいる。それと同時に、犯罪者たちの暴力的な言動や攻撃的な態度に直面することもあり、そのストレスに耐える必要があるのだ。もちろん、彼らと我々との間に馴れ合いは無い。そう思っていた。
 この日までは。

 彼が入ってからというもの、所内での争いや乱闘が増えた気がする。彼の態度が気に入らない、と先輩囚から嫌がらせが多く、それが喧嘩の原因となっているようだ。

「これ以上、問題は起こすなよ」
「……」
「分かったか? 」
「担当さん」
「なんだ? 」
「俺は、何もしてないよ」
「分かった、分かった。とにかく気をつけてくれよ」
「はい……」

 私は、『何もしてない』の本当の意味にこの時はまだ、気付けていなかった。
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