容姿にステータス全振りした“顔面強すぎ”転生者は望まぬ異世界ハーレムに苦労する。〜最弱男が最強【乙女騎士団】創設までのキセキ〜

小林一咲

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6話

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 王都ダルキモンはやけに騒がしかった。

「……なんだか、街が落ち着かないな」

 露店が並ぶ通りを歩きながら、俺は周囲を見回した。
 視線が、妙に刺さる。

 ヒソヒソ。
 チラチラ。
 そして――サッと目を逸らされる。

「……なあ」

 小声で、隣の二人に話しかける。

「俺、なんかやった?」

「知りません」

 即答するアンヌ。

「タモツは、いつも通り」

 ミーニャも、首を傾げる。

 いつも通り。
 それが一番怖い。

 その時だった。

「――いたぞ!」

 背後から、明確な声。

 振り返るより早く、重たい鎧の音が近づいてくる。

「え?」

「止まれ!」

 複数の騎士。
 明らかに、こちらを見ている。

「えっ、えっ?」

「タモツ」

 ミーニャが、低い声で言った。

「走る?」

「え、なんで!?」

「捕まりそう」

「え、なんで!?」

 理不尽が過ぎる。

「お、お待ちを!」

 俺は、反射的に叫んだ。

「俺、何かしましたか!?」

 騎士の一人が、息を切らしながら叫ぶ。

「話は後だ! 止まれ!」

(話は後!?)

 それ、だいたい悪い時の台詞だ。

「……タモツ」

 アンヌが、袖を引く。

「逃げましょう」

「えっ!?」

「今は、それが最善です」

「なんで!?」

 理由は分からないが、状況は理解した。

 これは――冤罪イベントだ。

「に、逃げるぞ!」

 俺たちは、全力で走り出した。

 石畳を駆け抜ける。
 露店をかわし、人混みに突っ込む。

「待てー!」

「なんでだよー!」

 完全に鬼ごっこだ。

 路地に入る。
 角を曲がる。
 しかし、追手は増える一方。

「数、増えてない!?」

「増えてる」

 ミーニャが断言する。

 最悪の予感は、的中した。

 冒険者ギルドの前。
 掲示板に、真新しい紙が貼られている。

「……あ」

 アンヌが、声を漏らす。

 そこには――
 俺の顔。

 やけに写りのいい、俺の顔。

「……指名手配?」

 しかも。

「賞金……金貨一枚?」

 金貨一枚。

 割と高い。

「おいおい、割のいい仕事だぞ!」

「顔見りゃ分かる、あいつだ!」

 冒険者たちの目の色が変わる。

「ちょ、ちょっと待って!」

 待ってくれない。

 王都全体が、敵になった気分だった。

「タモツ、右!」

「左も!」

「上は無理だ!」

 逃げ場が、消えていく。

 そして――

「ここまでだな」

 一人の騎士が、道を塞いだ。

 体格がいい。
 目つきが鋭い。
 歴戦の雰囲気。

「ミーニャ!」

「分かってる!」

 ミーニャが、前に出る。

「……邪魔」

 次の瞬間、突撃。

 ――が。

「ほう」

 騎士は、軽く身を捻った。

 そして。

「甘い」

 ミーニャの攻撃を、あっさり受け流す。

「なっ……」

 体格差。
 技量差。
 そして――顔面差。

(いや、顔は関係ない)

 数合も交えず、ミーニャは地面に転がされた。

「ミーニャ!」

 俺は、前に出た。

「ま、待ってください!」

 両手を上げる。

「ここまでか……」

 喉が、からからだ。

「どうか、二人は見逃してやってくれませんか?」

 絞り出すように言う。

 すると。

 騎士は、深いため息をついた。

「……何を勘違いしているんだ」

「え?」

「お前を捕まえに来たんじゃない」

「え?」

「迎えに来た」

 ……え?

「ペルシア商会の奥方から、直接の依頼だ」

 ペルシア商会。

 その言葉で、ようやく点と点が繋がった。

「……もしかして」

「ゴブリンの件だ」

 騎士は、苦笑する。

「お前、命の恩人だぞ」

「え、でも指名手配……」

「人目につくようにしただけだ」

 ひどくない?

「さあ、王城へ行く」

 抵抗の余地は、なかった。

 王城。

 応接の間。

 そこにいたのは――

「あら!」

 聞き覚えのある声。

「やっと見つけました!」

 ペルシア商会の奥様、ヘレナ。
 その隣には、商会長のヴァルク。

「……あ」

 俺は、気まずく頭を下げる。

「自己紹介が遅れました」

 ヴァルクが、朗らかに笑う。

「ペルシア商会会長、ヴァルクだ」

「妻のヘレナです」

 ヘレナは、深く頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

「い、いえ……」

 居心地が悪い。

「お礼を、ぜひさせてください」

「え、いえ、その……」

「金でも」

「いえ」

「屋敷でも」

「いえ!」

 必死で否定する。

 本当に要らない。

 ……はずだった。

「では、これを」

 渡されたのは――
 鍵。

「以前は別荘、今は倉庫という名の空き家です」

「え」

「王都中心の広場から、徒歩数分」

「え」

「なかなか良い物件です」

「え」

 要らないと言ったのに。

 その時。

 扉が開いた。

「話は聞いた」

 入ってきたのは――国王陛下。

 全員が、跪く。

「ヘレナは、元貴族でな」

 王は、穏やかに言う。

「我が再従姉妹でもある」

 ……え?

「王都を救った英雄だ」

 俺のことらしい。

「感謝する」

 そう言って、王は微笑んだ。

「王都を、存分に楽しんでくれ」

 そして、去っていった。

 静寂。

 俺は、思った。

(……弱いのに)

(顔だけで、人生が進んでいく)

 こうして俺は、王都で家を持つことになった。

 全く、望んでいない形で。

◇◆◇◆

 王城を出てから、しばらく歩いた。

 いや、「しばらく」という表現は正確ではない。
 距離としては短い。体感としては、妙に長い。

 なぜなら――案内人が、あの男だったからだ。

「……あのさ」

 思わず声を落とす。

「さっき、ミーニャを簡単にいなした人だよな?」

「そうだね」

 ミーニャは腕を組んだまま、ちらりと横目で男を見る。

「強い」

 率直な評価。

 男は涼しい顔で歩いている。
 背筋が伸び、鎧は簡素だが無駄がない。

 そして、顔もいい。

(この世界、美男多くない?)

 俺の顔面だけがバグってるわけじゃないのが、逆に腹立たしい。

 目的地の前で、男は立ち止まった。

「ここだ」

 指し示された建物。

「……は?」

 声が、自然に裏返る。

 そこにあったのは――屋敷だった。

 石造り。
 門付き。
 装飾付き。
 噴水、ある。

「……倉庫?」

 俺は、震える声で言った。

「そう聞いたんだけど」

「以前は別荘だ」

 男は、さらっと言った。

「現在は使われていない」

「それを倉庫って言う!?」

 隣で、アンヌが目を輝かせている。

「す、すごい……!」

 ミーニャに至っては、もう門の前をうろうろしていた。

「広い」

 そりゃそうだ。

「では、改めて」

 男がこちらを向く。

「自己紹介をしておこう」

 胸に手を当て、形式ばった所作。

「王国騎士団副団長
 ジェームズ・リーン・ベックウィズだ」

 ……副団長。

(そんな人が案内役!?)

「本来であれば、一般の騎士が対応する案件だが」

 ジェームズ副団長は、淡々と続ける。

「今日から三日間、王城ではお披露目会がある」

「……あ」

 思い出す。
 商会の奥様が言っていた。

「警備を割けないため、私が出た」

 副団長が?

「副団長は、いたほうが……」

 思わず口にすると、

「問題無い」

 即答だった。

「団長がいれば、事足りる」

 ……意外と自由だな、この人。

 門が開く。

 中に足を踏み入れた瞬間。

「わぁぁぁ!!」

 アンヌが叫んだ。

「ひろい!!」

 ミーニャも走り出す。

「庭!」

「噴水!」

「木、多い!」

 完全に猫。

 俺は、立ち尽くしたまま。

「……住んでいいの?」

 誰にともなく呟く。

 建物の中に入る。

 高い天井。
 磨かれた床。
 壁の装飾。

「……豪華絢爛って、こういうのだよな」

 貴族の屋敷と言われても、疑わない。

「立地も良い」

 ジェームズ副団長が補足する。

「王都中心の広場まで徒歩数分」

「完璧すぎない?」

 欠点が見当たらない。

「……タモツ」

 アンヌが、くいっと袖を引く。

「本当に、ここに住むんですか?」

「……住む、らしい」

「すごいです……」

 ミーニャが階段を駆け上がりながら言う。

「部屋、多い」

「寝室、選び放題」

 選び放題って何。

 副団長は、一通り案内を終えると、俺たちを玄関ホールに集めた。

「必要なものがあれば言ってくれ」

「え」

「これは、陛下からのご好意だ」

 そう言って、軽く肩をすくめる。

「遠慮は無用」

 そして、踵を返す。

「ではな」

 去り際、ちらりとこちらを見る。

「……王都では、目立つな」

 言い残して、去っていった。

 静寂。

 広すぎる屋敷に、三人。

「「「……」」」

 落ち着かない。

「広すぎない?」

 俺が言うと、

「そう?」

 ミーニャが即答。

「走れる」

 基準そこ?

「タモツさん」

 アンヌは、少し困った笑顔。

「3人では、持て余しますね」

 その通りだった。

「と、とりあえず」

 俺は言った。

「食事にしよう」

 何もかもが非現実すぎて、腹が減っていることに気づかなかった。

「賛成」

「お腹すいた!」

 台所も、広い。

「……調理器具、揃ってる」

 なぜか全部ある。

「……誰か住む予定だったのかな」

 考えないことにした。

 結局、簡単な食事を作る。

 テーブルも、無駄に長い。

「……」

 三人で、端っこに固まって座る。

「広いのに、狭い」

 ミーニャが言った。

「それ、分かる」

 アンヌが頷く。

 俺も、頷いた。

 豪華絢爛。
 完璧な立地。
 王の好意。

(……弱いのに)

(顔だけで、ここまで来た)

 食事をしながら、改めて思う。

「なあ」

 俺は言った。

「俺、本当に何もしてないんだけど」

「顔」

 ミーニャ。

「顔ですね」

 アンヌ。

 即答やめて。

 新居は、確かに素晴らしい。

 だが――
 この先、どうなるのか。

 不安と、違和感と、少しの期待。

 それらが混ざったまま、
 俺たちの王都生活は、本格的に始まった。

 ……倉庫という名の、屋敷で。


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