【野生の暴君が現れた！】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

電脳暴君はまだまだ夢の中

完全に悪役のムーブ

　ビルの屋上は冷たい風が吹き荒れ、まるで私を歓迎するように耳元をくすぐる。その風を全身で受けながら、私は空を見上げた。
　空には分厚く広がる黒い雲。その隙間から、鋭い月光が剣のように地上を切り裂いている。その光が私を狙い撃つかのように差し込み、私の悪魔のような姿を浮かび上がらせた。

「ハハハハハッ！」

　気づけば笑っていた。高く、轟くような声が、月光に包まれた剛輪禍の街並みへと広がっていく。

*「起爆！！」*

　ボイスチャットに合図を送ると、剛輪禍に新しい轟音が生まれる。足元が揺れて、一気に傾き出す。

「カドル！！」

　私はアイテムウィンドウから小さな金像を取り出して空へ投げ、ペットのカドルを実体化させる。

「キュイ！　ご主人！　何すればいい？」

　爆撃機みたいなサイズ感のケツァルコアトルスから可愛い声が聞こえてくる。３回に１回は何だかんだ裏切ってくる、すでにHP0が２回目の私の可愛い可愛いペット、カドルだ。

「ビルをできるだけ支えて！」

「キュイ！　分かった！」

　カドルに乗ったメメントモリーのメンバーがカドルとビルを頑丈な鎖で繋いでいく。そんな中でも、ビルはどんどんと傾いていく。

*「おい暴君！　なんかビルが倒れてくるんだが、お前どこにいるんだ！？」*

　そんな中、カタンから通話がかかってきた。

*「あ、まだ生きてたんだ」*

*「勝手に殺すな！！　あと質問に答えろ！！」*

*「もちろん、ビルの上だよ？　メメントモリメンバー全員、ビルの裏側にはりつている」*

*「……は？　えっ……なんっえぇ？」*

*「これが一番、確率が高い」*

　ビルの角度はすでに70度を超えてきた。私はさっきまで手すりだった場所を足場にカタンとのチャットを終わらせる。

「キュイ！　ご主人！　もう無理！」

「おっけー、リリース！」

　私の言葉と同時に、カドルとビルを繋いでいた鎖が解かれる。重力に惹かれたビルは一気に加速し、敵の防衛陣地へと叩きつけられた。地響きと共に瓦礫が飛び散り、粉塵が立ち込める。

*「さあ、始めようか」*

　私は翼を広げ、舞い上がる地理の中をゆっくりと着地した。

　足元には瓦礫の山。その隙間から漏れる赤い炎が、まるで地獄の底を覗き込んでいるかのようだった。

「キヒッキハハハハ！」

　硝煙の匂いを纏った熱い風が顔を撫で、私は月光を浴びながら両手を広げて高笑いする。突撃してきたギルドメンバーたちの戦闘音が後方から聞こえてくるけど、私の声がそれら全てかき消すようだった。




　防衛陣地を壊滅させてすぐ、剛輪禍の中央に立つモニュメントを守るバリアが消滅する。

「やった……！」

　バリアの消失は、シュクレ、ヨイニ、シマーズさんの3人がそれぞれダンジョンを攻略したことを示している。

*「アニー、こっちは……なんとかなったよ……！」*

　ボイスチャットから聞こえるヨイニの声は、少し疲れているけど、どこか安心した響きを持っていた。

*「アニーさん、こっちも完了です！　あと一歩ですね！」*

　興奮した様子のシュクレ。

*「アニーちゃん、待たせたな！」*

　最後に飛び込んできたのはシマーズさんの声。キラーん、と効果音までつけて、余裕の笑みが目に浮かぶようだった。

　私は大きく息を吸い込み、拳を握り直す。そして、結構に包まれる合隣家の中止へと視線を向けた。

「さあ……こっからは私の出番だね！」