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第3章
第29話 言わぬが華、されど気付かぬと歪みに
しおりを挟む「ただいま~」
「……お、おかえり~……ごめんね、引越しのこと忘れてて~……」
とりあえず今日のところはミコさんと別れて1人で帰宅したところ、申し訳無さそうな顔をした真里愛が出迎えてくれた。
詳しい事情はわからないけど、とりあえず頭を撫でてあげよう。
「よしよし、反省できて偉いねぇ~。怒ってないから元気をお出し」
「……わん♪」
わん? 何故に犬? しかし確かに尻尾と耳が幻視できる。
「おかえりなさいませ凜音様! どうぞこちらへ!」
フランの呼び声に応じ、リビングへと向かう。
そこには真世さんとまひるちゃんもいた。
「おかえりなさいませ。先にお風呂にしますか?」
「ありがとう、真世さん。とりあえず引っ越しのことを軽く聞いてからお風呂をいただこうかな」
「かしこまりました」
そう、引っ越し。
一体全体何がなんやら……。
「では、まずは前提のお話を私から。この世界では男性は存在してるだけで様々な公的支援が受けられるのは知っての通り。しかしそれは保護区で生活し、働かないことを前提としています。つまり、全ては安全に種を提供させ続けるための支援という訳でございますね」
真世さんが説明してくれたように、恵まれていると思いきや飼い殺し状態なんだよね、男って。
「そして男性が自ら別の道を選ぶ場合――特に、命の危険がある探索者を志す場合は、それまで支給された物全て返還する義務が生じるのです」
「……まじ?」
「制度の存在理由を考えれば仕方がないと言えますね。加えて探索者を志す男性への最後の砦ということになります。返還すべき金額を知ることで、考え直させるという。ちなみに返済期限は概ね1か月ほどです」
つまり……施設にいた時のアレコレや真里愛が貰っていた支度金名目の補助金や今住んでる家やら何やらまで……?
「ざっと見積もって2億。当初は真里愛様は凜音様にはお伝えせずに1人で背負うつもりだったそうですよ」
「……えへへ~、でもそれをフランちゃんが解決してくれたから結果オーライだったのぉ♪」
何といじらしくて何と無謀な……まぁ真里愛はそれだけ覚悟して俺の将来を考えていてくれたってことだと思っておこう。忘れていたらしいけど。
「しかし、家に関しては立地条件や治安などの点から次の代のために引き渡さなければいけない決まりになっているのです」
「ごめんねぇ~、すっかりそのまま住んでていいと勘違いしちゃってて……」
何だ、勘違いだったのか。
「ならしょうがないよ。いろいろありがとね、真里愛」
「……ううん!♪」
「そこで本題の引っ越し先ですわ! 実はかねてより土地の購入や家の建設など準備は進んでおりまして……」
「そうなの?」
俺が施設を出てからまだ1か月とちょっと。準備が早い。
「……いつから準備してたと思う?」
「え? いつからって言うと……」
「まひる、それは言わぬが華ですわ」
どうやら、もっと前から準備してくれたようだ。もしかしてスポンサー契約の話のもっと前からかも知れない。
「凜音様は何もお気になさらず、わたくしからの贈り物だと思って受け取られればよろしいのですわ! そして『フランありがとう』と言って頂ければ万事解決なのですわぁ~~~!」
「もちろん、何から何まで感謝しかないよ。フランありがとう、愛してる。本当にフランと出会えて俺は幸運だ」
「……ほぁ~……」
突如、フランの目が虚ろになって視線が宙をさまよい始め、口が半開きのまま時が止まってしまったかのような状態に。
「お嬢様が宇宙に旅立たれましたのでお話はここまでですね。という訳ですので、今週末までに引っ越しの準備をお願いします」
「わかった。卵のこともあるしちょうどいいね」
10日間も安静にしていなきゃいけないだなんて……世界中のお母さん鳥はすごいや。
「しょ、しょうがないから引越し準備手伝ってあげるけど……か、勘違いしないでよね!」
「何を?」
まさか『引っ越しの手伝いしてくれる……もしかして俺のこと好きなんじゃ(トゥンク)』的な? するか。
「手伝うのはメイドだからだし! 別に……好きだからって訳じゃないんだから!」
「えっ……違うの……?」
上目遣いがコツだ!
「ち、違わない……こともない……かもしれない、けど……――バカぁーーー!!!」
走ってどこかに行ってしまった。
「凜音様、まひるをからかうのがおもしろいのはわかりますが、ほどほどにしてあげてください。時に強く激しく抱きしめて『お前は俺のものだ』と囁いてあげることも忘れずに」
「あ、はい」
まひるちゃん、強引に攻められるの好きだもんね。
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