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朝ですよ(1)
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私はベットを覗きこむと、そこに寝ている人に声をかけた。
「榛瑠、おはよー、朝ですよ」
彼は包まっていた布団から半分顔を出す。
「お嬢様? いつからそこに?」
「今、来たところ。玄関に出てこないから勝手に入っちゃった」
榛瑠は私の言葉を聞きながら壁の時計に目をやっていた。
「まだ八時台じゃないですか。こんな時間にあなたが来るなんて……。何かあったんです?」
そう言いながら榛瑠の目が再びとじかける。眠そうだなあ。
「何にもないけど。だって久しぶりに一緒にいられる休日だよ。起きて」
彼、四条榛瑠と付き合いだして——といったって、子供の時は一緒に住んでいたんだし、私としてはどっちかっていうと元に戻った気がしてるんだけど——知ったんだけど、彼は意外に寝起きが悪い。
一度起きてしまうと平気みたいなんだけど、起きるタイミング、みたいのがあるらしく……。
言ってる端から榛瑠は布団を被ってしまう。
「もう。昨日何時に寝たのよ」
「何時かな。帰ったのが5時くらいだったから……」
「5時って朝の? 何してたの? 仕事?」
「飲んでた……」
珍しい、と思った。そんなに外で遅くまで飲んだりしないのに。私が珍しく早起きしたのになあ。
それでなくてもよく仕事が入っちゃって、1日しっかり空いた日なんてこのところなかったのに。
「タイミング合わないなあ。浮気してたりしたら許さないからね」
もちろん、本気で疑ってなんていないんだけど。
「あー、どうだったっけ。忘れました」
榛瑠が布団の中でモソモソ言ってる。何よそれ! 冗談にならないんだから。あなたの場合、特に!
「もう、怒れちゃう! 起きて!」
私はうつ伏せで丸まっていた榛瑠の布団を無理やり剥がした。が、
「ちょっと、なっ、わっ」
我ながらわけわかんない言葉を発して、もう一度布団をかける。というか、彼の上に投げた。
「また服着てない! ちゃんと着て寝てよ!」
「だってめんどくさい……」
榛瑠は一応起き上がって、ベットの上で布団をまとったまま座り込んだ。
そうなのだ。彼とつきあってこれも知ったんだけど、この人普段、服着て寝ないの! 面倒くさいって、わけわかんないし。
「べつに今さら恥ずかしがらなくてもいいと思うんですけど」
榛瑠が立膝に頭を乗せたまま、まだどこか眠そうに言う。
そういう問題じゃないし。というか、絶対慣れそうにない。慣れるには、彼はなんというか、えーと。
「もう、しらない。リビング行ってるから適当に起きてきてね。まったく、いつもと逆になっちゃった」
私はぶつぶつ言いながら彼に背を向けた。
「怒った?」
榛瑠が後ろから言った。しらない、と言って、私はドアに向かう。
「お嬢様」
私はとりあえず足を止めた。
「いーちーか」
もう一度呼ばれてちらっと後ろを向く。
榛瑠は眠そうながらもどこか楽しそうな顔をしていた。相変わらず膝の上に頭を乗せていて、片側の白い肩が布団がはずれて露わになっている。
これも付き合って、その、えっと、知ったのだけれど……彼はどうやら着痩せするらしい。
実は太ってる、という意味じゃなくて。背広だと背も高いせいか、どっちかというと細身に見えるのだけど、実際はきちんと筋肉がついている。
昔はもっと華奢だった印象があるんだけど……。
あーもー、慣れないよ! 無駄に、本当に、ドキドキするんだから。
私が視線を外してまた歩き出そうとしたとき、もう一度呼ばれた。
「一花お嬢様」
ちらっとまた振り返る。
金色の瞳が私をじっと見つめている。口元には笑みを浮かべて。
あーもう! どうしろっていうのよ。
私はため息をつくと、ふてくされながら再び榛瑠に近づいた。
「榛瑠、おはよー、朝ですよ」
彼は包まっていた布団から半分顔を出す。
「お嬢様? いつからそこに?」
「今、来たところ。玄関に出てこないから勝手に入っちゃった」
榛瑠は私の言葉を聞きながら壁の時計に目をやっていた。
「まだ八時台じゃないですか。こんな時間にあなたが来るなんて……。何かあったんです?」
そう言いながら榛瑠の目が再びとじかける。眠そうだなあ。
「何にもないけど。だって久しぶりに一緒にいられる休日だよ。起きて」
彼、四条榛瑠と付き合いだして——といったって、子供の時は一緒に住んでいたんだし、私としてはどっちかっていうと元に戻った気がしてるんだけど——知ったんだけど、彼は意外に寝起きが悪い。
一度起きてしまうと平気みたいなんだけど、起きるタイミング、みたいのがあるらしく……。
言ってる端から榛瑠は布団を被ってしまう。
「もう。昨日何時に寝たのよ」
「何時かな。帰ったのが5時くらいだったから……」
「5時って朝の? 何してたの? 仕事?」
「飲んでた……」
珍しい、と思った。そんなに外で遅くまで飲んだりしないのに。私が珍しく早起きしたのになあ。
それでなくてもよく仕事が入っちゃって、1日しっかり空いた日なんてこのところなかったのに。
「タイミング合わないなあ。浮気してたりしたら許さないからね」
もちろん、本気で疑ってなんていないんだけど。
「あー、どうだったっけ。忘れました」
榛瑠が布団の中でモソモソ言ってる。何よそれ! 冗談にならないんだから。あなたの場合、特に!
「もう、怒れちゃう! 起きて!」
私はうつ伏せで丸まっていた榛瑠の布団を無理やり剥がした。が、
「ちょっと、なっ、わっ」
我ながらわけわかんない言葉を発して、もう一度布団をかける。というか、彼の上に投げた。
「また服着てない! ちゃんと着て寝てよ!」
「だってめんどくさい……」
榛瑠は一応起き上がって、ベットの上で布団をまとったまま座り込んだ。
そうなのだ。彼とつきあってこれも知ったんだけど、この人普段、服着て寝ないの! 面倒くさいって、わけわかんないし。
「べつに今さら恥ずかしがらなくてもいいと思うんですけど」
榛瑠が立膝に頭を乗せたまま、まだどこか眠そうに言う。
そういう問題じゃないし。というか、絶対慣れそうにない。慣れるには、彼はなんというか、えーと。
「もう、しらない。リビング行ってるから適当に起きてきてね。まったく、いつもと逆になっちゃった」
私はぶつぶつ言いながら彼に背を向けた。
「怒った?」
榛瑠が後ろから言った。しらない、と言って、私はドアに向かう。
「お嬢様」
私はとりあえず足を止めた。
「いーちーか」
もう一度呼ばれてちらっと後ろを向く。
榛瑠は眠そうながらもどこか楽しそうな顔をしていた。相変わらず膝の上に頭を乗せていて、片側の白い肩が布団がはずれて露わになっている。
これも付き合って、その、えっと、知ったのだけれど……彼はどうやら着痩せするらしい。
実は太ってる、という意味じゃなくて。背広だと背も高いせいか、どっちかというと細身に見えるのだけど、実際はきちんと筋肉がついている。
昔はもっと華奢だった印象があるんだけど……。
あーもー、慣れないよ! 無駄に、本当に、ドキドキするんだから。
私が視線を外してまた歩き出そうとしたとき、もう一度呼ばれた。
「一花お嬢様」
ちらっとまた振り返る。
金色の瞳が私をじっと見つめている。口元には笑みを浮かべて。
あーもう! どうしろっていうのよ。
私はため息をつくと、ふてくされながら再び榛瑠に近づいた。
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