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学園編

50 今度は上から

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男の子……、サウラスはそれだけ言うと「そ、そういうことだからっ!」とどこかへ走って行ってしまった。
「自分勝手」その言葉が彼に一番似合うなと少し黄昏て、私は気分転換に外へ出た。

学園の庭は広いのに綺麗に整えられている。
維持費にどれだけかかるんだろうかと令嬢らしさの欠片もないことを考えつつ、花や木の香りを楽しんだ。

ちびちゃんずの深緑色の子は、森の妖精らしいので、草木が大好き。
そのため、こうやって外に出ればふよふよと半径二メートル圏内で遊んでいるのを目にする。

他の子達もそれぞれ好きなもの、場所があるようで、気がつけば誰かいないということもしばしば。
しかし、すぐに戻ってくるので、気にしたことはない。

今日も森ちゃん(森の妖精だから)が花や木々たちに誘われてふらふらと飛んでいく。
私は可愛いなと思いながら近くの木の下に座り込み、その様子を眺めていた。

私が座ったことを確認した他のちびちゃんずは、内二人を残して一緒に遊びにいく。
これが毎回のパターンで、今は光ちゃんと、闇ちゃんが側にいる。
謎のローテーションだが、遊びにいってもいいよ?と言っても首を横に降るので、放置していた。

私も一人寂しくいるのは嫌なので、寄り添ってくるちびちゃんたちになでなでしたり、歌を歌ったりした。
歌は妖精たちが好きな行動の一つらしく、歌うときには遊んでいるちびちゃんたちや、ふらりと通りかかった妖精たちが集まってくる。

「~♪」
何気なく前世で好きだった、演歌やポップスを鼻歌で歌って、気分を良くしていたその時、上から声がかかった。

「ーーーそれ、なんの歌?」
「うわっ、っと」

驚いて思わず手の上に乗っかっていた妖精たちを落としそうになる。
危ない、危ない。
ふうーと妖精たち放って冷や汗を拭った私は、見上げた。

そこには薄いオリーブグリーンの髪を持つ美少年がいる。
目が青を透かしたような色で印象的だ。

「えっと、失礼ですが、誰でしょうか?」
なぜ、木の上そこにいる?
彼は肩透かしを食らったように目を開く。
「僕のこと、知らないの?」
「いえ、残念ながら」

すると今度はくつくつと笑いだした。
もう、一体なんなんだ今日は……。
私が疲れてため息をつきそうになったのを感じたのか、彼は笑うのをやめた。
「ごめんね、バカにした訳じゃない」
しかし、口元は笑顔のままである。

彼は「よっ」と木から降りて、華麗に着地した。
手慣れた様子である。
もしかして、いつも木に登っているのだろうか……。

「はじめまして、サラちゃん。僕はジーク。君の一つ上」
「はじめまして」
名前は……入学式かな?

それにしても、気配が全くなかったところをみると、強者だろうか。
見た感じ、ひょろりとしているので、強そうには見えないが。
しかし、お兄様も同じ体躯だけど力は強いので侮れない。

「君は妖精が見える?」
ジークの視線が私の膝や肩、回りを飛ぶ妖精たちに移る。
「……そうですわ、あなたも見えるのですね。妖精は好きでしょうか?」

「ん。僕は彼らによくお世話になるから、大切」
そう言う には森ちゃんと同じ色の妖精たちが寄り添う。
ジークはその子たちと戯れるように指先で遊んだ。

私は嬉しくて目を細める。
「そうですの。私もお友達ですから、大切ですわ」
私の言葉にちびちゃんずと妖精たちは嬉しそうにした。
あー可愛いなぁ。

「……」
「あ、そういえばなぜ木の上に?」
「…寝てた」
ーーー器用だな~。
秘密基地みたいで楽しそうだ。

なんだか、間の開くこの会話の感じが懐かしい気がする。
そう、実家の大好きだったおじいちゃんと会話している時みたいな……。
私は優しかったおじいちゃんを思い出した。

「……ねぇ」
「はい」
ジークがうずくまった姿勢をとって、見上げるようにして聞いてくる。

「猫、好き?」
「えーと、好きですわ」
犬か猫かと聞かれれば、どちらかというと猫派だろうか。

「じゃあ、鳥は?」
「鳥さんも好きですわ」
はっ!これはいつもにない会話のパターン。
よし、ここは押せ!
「あの、お友だちになりませんか?私、お恥ずかしながらまだお友だちがいませんの」
私は恥ずかしさでモジモジとするのを堪えて、にこりと笑いながら問う。

い、言えたぁ!!
「いいよ、お友だち。僕も欲しいし」
ジークはじゃれてくる妖精たちと戯れながらそう言った。
ーーーやったーぁ!!!
私は内心ガッツポーズをする。

「ありがとうございますわ。お昼休みが終わってしまいますもの、私はここで。またお喋りしましょうね」
「うん、明日ここで待ってるから」

手を振ってくれるジークを背に、私はいい気分で校舎へと舞い戻った。

「……サラ・デューク・ニコラス、ニコラス領の才女。……なかなか面白そうだな。ねぇ、君たちもそう思うんでしょ?」
一人残されたジークは誰に話しかける訳でもなく、ひっそりとそう呟いた。
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