ある日突然、悪役令嬢になった神童魔法使い

ごーぐる

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む
事態が動いたのはここに閉じ込められて二ヶ月経った日。
私は飾り付けられて王城に呼びつけられた。

飾り付けられる際、メイドに「何色がよろしいでしょうか?」と聞かれて「赤以外で」と答えたのはご愛敬だ。
今日はこの前より軽量の装備でドレスの裾も短い。
そうしてメイド長が少し考えて持ってきたドレスは紺5碧色のAライン、落ち着いた色合いではあるが一目で高級品だと私でも分かった。
靴も「ハイヒール以外が良い」と言うと、メイドは嫌そうな顔でパンプスにする。

まあそんなこんなで王城に来たのだが、謁見の間までは距離があり、私は肘をついて外を眺める。
メイド長から厳しい叱咤が飛んでいるが知らんぷりだ。
「あっ」
ふと、昨日の舞踏会場が目にはいる。
「ねぇ、あれはなんて名前の場所なのかしら」
「……はぁ、エンゲルの間でございます」
(え、エンゲル係数?)
そんなことをボンヤリ思った。

「両陛下のおなーりー」
謁見の間についてようやく本日の要件、陛下とご対面である。
「面を上げよ」
金糸のお髭を蓄えた碧眼のおじ様は王冠を被っていていかにもな感じだ。
そのとなりに座る美しい女性が后妃様なのだろう。

「両陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。エンプティ・フリミリィー、長女フィビヤールを連れ、只今参上いたしました」
宰相である父は既に登城していたので現地合流だったのだが、まさかこちらがわにいるとは思わなかった。

「輝かしい我らが王国の太陽、お初にお目にかかります両陛下、フィビヤール・フリミリィーでございます」
習ったばかりのカーテシーだが、妙に体に馴染んだ。

「……ああ、初めましてフィビヤール・フリミリィー嬢。私がベルナルダン・ミルタリィア・サンだ。お前に会うのを楽しみに待っていた」
「ありがたきお言葉でございます」
どうやら国王陛下殿は私をいままでの私とは別人として扱ってくれるそうだ。

「ようこそ、フィビヤール嬢。……ふふっ、わたくし貴女が記憶喪失だと聞いて、心のどこかで疑っていたみたい。でも、貴女を見て確信が持てたわ」
王妃様は楽しそうに笑っている。
やはり、それほどまでに以前の私とは違うらしい。
今さら取り繕う気もないが。

「さてと、では本題に入ろうか。今日貴女に来てもらったのは他でもない私からお願いをしようと思う。おい、始めろ」
陛下の言葉に脇にいたのであろう従者が巻物を持って現れ「では」と切り出した。
「フィビヤール・フリミリィー公爵令嬢。此度、魔王討伐及び魔族殲滅のパーティーへ貴女に補助魔法使いとして参加を勅命す。選ばれし勇者たちと共に魔王を倒すべし。クロイゼル王国 国王ベルナルダン・ミルタリィア・サン」

読み終わりと同時に辺りはシーンとする。
私は空気に会わせることなく「つまりは?」と続きを催促した。
「……つまりは、公爵令嬢たる貴女に、我々の領地を脅かす、魔族どもを駆逐してほしいということだ。魔王についての説明は?」
「一応、物語形式であるものは読んだことがありますが、強さなどやどの辺りが脅威なのかはイマイチですね。領地を脅かすということは、侵略でもされているのですか?」
「ああ、魔族が住まうダーク大陸近くにある村が襲われている。大陸を挟むように壁があるお陰で今のところ被害は少ないが……時間のうちだろう」

公爵は表情を暗くする。
「成る程。取り敢えず分かりました。勅命慎んで承らせて頂きます、陛下」
「うむ、貴女の活躍に期待している」

辺りは突き刺さるような空気に呑み込まれていた。ここに集まっているのは正妃の息子である王太子第一王子派と側妃の息子第二王子派、そして我が家を中心とする中立派………とはいってもここ最近は私と第二王子との婚約により半第二王子派だったわけだが。
それも今回の件で元に戻り、また三つに分離均衡状態になる。あの男爵令嬢は聖女だったらしい。そのため私との婚約を破棄しても構わなくなったわけだ。
ところで、このパーティー。勇者はなんと第二王子である。私とついでにお払い箱にでもされるのだろうか。いやいや、南無三。

そうこうして、私の旅は始まったのであった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...