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2 退屈
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クロイゼル国……、それがこの国の名だと知ったのはつい最近。
突然婚約破棄されたあの舞踏会は貴族が入学するという学園アカデミーの卒業記念パーティーだったそうで、あの婚約者だと言いながらも他の女性をつれていた元婚約者は、この国の第二王子らしい。
そして私は公爵家の令嬢、フィビヤール・フリミリィーだということも。
私は窓辺で朝の光を浴びながら、美しいカップで紅茶を傾ける。
あの後、手を引かれて馬車に乗り無言で実家である公爵家に連れられると、両親らしい人たちは私の様子にとても驚いていた。
私も何処なのか誰なのかさっぱりだったので、質問攻めにあってもなにも返すことが出来ず、ただ「記憶喪失になったのかもしれない」とだけ言った。
すると部屋に押し込められて、軟禁。
執事から知識の擦り合わせを行わされ、常識を叩き込まれ今に至っている。
流石に淑女の暗黙のマナー等までは終わっていないため、現在は執事からメイドに変わり授業が続いている。
その様子から疑わしいと思っていたらしい両親から、本当に記憶喪失なのだという認識を受けて、おそるおそると会話をし始める。
お陰さまで状況整理する時間はたっぷりあり、優雅に茶を啜っているのだが、此所のところは優雅すぎて退屈を感じていた。
「お嬢様」
「なんでしょうか?」
「ーーー敬語はお止めくださいと申しておりますのに……。いえ、お暇ならば本を読まれるのは如何でしょう?」
側仕えのメイドは長い付き合いだそうで、なんとメイド長である。
歳も相応なのでお小言も多いが、こうした気遣いを程度にしてくれるので過ごしやすい。
「あなたはいいお嫁さんになりそうね」
と茶化してみたこともあったが、無言の威圧で返された。
「ねぇ、私はこれからどうなるのでしょうね」
「……」
ふふふと笑いながら言うが無表情で黙認される。
一言で表すならば飼い殺しといったところ。
なにをするにも両親もしくはメイド長の許可が必要で正直肩身が狭い。
記憶喪失ということになっているが、一国の王族しかも第二王子に反抗したのだ、きっと私の立場は危ういものであるはず。
私はこうやって療養中が如くのんびりしているのだから、そのしわ寄せは公爵家がしているのだろう。
しかし、ここの人たちは現状や私が何をしたのかをく話さない。
私が会話をするのはメイド長とたまにやってくる公爵夫妻、一方的に言うだけだが扉の前の騎士たち。
皆が鉄壁の仮面を被っており、有力な情報はなにも得ることが出来ずにいた。
「……お嬢様はーーー」
考え込んでいるとメイド長が静かに語りかけてくる。
「リオネル殿下を今でも愛しておられますか?」
突然の質問に驚く。
なんだか含みがありそうだと思った。
メイド長の強い意思を持った瞳も印象的で軽口は叩けなそうな雰囲気だ。
「……好きかどうかを語れるほど、彼のことは知らないのだけれども。そうね、婚約者だったらしい私を差し置いて他の女を侍らせている男なんて好きなわけないじゃない?」
「ーーー左様ですか」
メイド長はお礼とばかりに茶菓子のクッキーを置く。
私はどれにしようかなと選んで取った一枚をさくりと噛った。
その行動にメイド長の眉間にシワが寄るが気にしない。
「そういえば、第二王子殿下と一緒にいたご令嬢って男爵令嬢なんでしょう?あなたはこの前、男爵は貴族の中でも最下位と言いました。あの様子からして第二王子殿下と男爵ご令嬢は恋人同士ってところでしょう?あの人たちは婚約できるのでしょうか、それとも一時的なお遊びの相手かしら?」
メイド長は一枚しか減っていないお菓子皿を持ち、
「私どもには高貴なお方のお考えは理解しかねます」
とだけ言い、部屋から出ていった。
私はため息をついて、手に残ったクッキーを口に放り入れる。
本当につまらない。
突然婚約破棄されたあの舞踏会は貴族が入学するという学園アカデミーの卒業記念パーティーだったそうで、あの婚約者だと言いながらも他の女性をつれていた元婚約者は、この国の第二王子らしい。
そして私は公爵家の令嬢、フィビヤール・フリミリィーだということも。
私は窓辺で朝の光を浴びながら、美しいカップで紅茶を傾ける。
あの後、手を引かれて馬車に乗り無言で実家である公爵家に連れられると、両親らしい人たちは私の様子にとても驚いていた。
私も何処なのか誰なのかさっぱりだったので、質問攻めにあってもなにも返すことが出来ず、ただ「記憶喪失になったのかもしれない」とだけ言った。
すると部屋に押し込められて、軟禁。
執事から知識の擦り合わせを行わされ、常識を叩き込まれ今に至っている。
流石に淑女の暗黙のマナー等までは終わっていないため、現在は執事からメイドに変わり授業が続いている。
その様子から疑わしいと思っていたらしい両親から、本当に記憶喪失なのだという認識を受けて、おそるおそると会話をし始める。
お陰さまで状況整理する時間はたっぷりあり、優雅に茶を啜っているのだが、此所のところは優雅すぎて退屈を感じていた。
「お嬢様」
「なんでしょうか?」
「ーーー敬語はお止めくださいと申しておりますのに……。いえ、お暇ならば本を読まれるのは如何でしょう?」
側仕えのメイドは長い付き合いだそうで、なんとメイド長である。
歳も相応なのでお小言も多いが、こうした気遣いを程度にしてくれるので過ごしやすい。
「あなたはいいお嫁さんになりそうね」
と茶化してみたこともあったが、無言の威圧で返された。
「ねぇ、私はこれからどうなるのでしょうね」
「……」
ふふふと笑いながら言うが無表情で黙認される。
一言で表すならば飼い殺しといったところ。
なにをするにも両親もしくはメイド長の許可が必要で正直肩身が狭い。
記憶喪失ということになっているが、一国の王族しかも第二王子に反抗したのだ、きっと私の立場は危ういものであるはず。
私はこうやって療養中が如くのんびりしているのだから、そのしわ寄せは公爵家がしているのだろう。
しかし、ここの人たちは現状や私が何をしたのかをく話さない。
私が会話をするのはメイド長とたまにやってくる公爵夫妻、一方的に言うだけだが扉の前の騎士たち。
皆が鉄壁の仮面を被っており、有力な情報はなにも得ることが出来ずにいた。
「……お嬢様はーーー」
考え込んでいるとメイド長が静かに語りかけてくる。
「リオネル殿下を今でも愛しておられますか?」
突然の質問に驚く。
なんだか含みがありそうだと思った。
メイド長の強い意思を持った瞳も印象的で軽口は叩けなそうな雰囲気だ。
「……好きかどうかを語れるほど、彼のことは知らないのだけれども。そうね、婚約者だったらしい私を差し置いて他の女を侍らせている男なんて好きなわけないじゃない?」
「ーーー左様ですか」
メイド長はお礼とばかりに茶菓子のクッキーを置く。
私はどれにしようかなと選んで取った一枚をさくりと噛った。
その行動にメイド長の眉間にシワが寄るが気にしない。
「そういえば、第二王子殿下と一緒にいたご令嬢って男爵令嬢なんでしょう?あなたはこの前、男爵は貴族の中でも最下位と言いました。あの様子からして第二王子殿下と男爵ご令嬢は恋人同士ってところでしょう?あの人たちは婚約できるのでしょうか、それとも一時的なお遊びの相手かしら?」
メイド長は一枚しか減っていないお菓子皿を持ち、
「私どもには高貴なお方のお考えは理解しかねます」
とだけ言い、部屋から出ていった。
私はため息をついて、手に残ったクッキーを口に放り入れる。
本当につまらない。
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