転生したら髪の色がピンクだった。何かしらのヒロインじゃなかろうなと怯えている。

いさご

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 さて、卒業パーティーである。
 ちなみに、私のではない。私にはあと一年、学園生活が残されている。
 私のお仲間――つまりは転生者であり、王太子殿下の婚約者であり、悪役令嬢の役割を担う公爵令嬢であるヴェロニカいわく、今日で卒業する攻略対象者は殿下、騎士団長の息子、宰相の息子の三人だ。
 王太子殿下は超初心者モード。笑顔を向ければ惚れてくれる、乙女ゲームに不慣れなビギナーへの救済キャラである。
 私がどれだけ拒否っても強制で惚れてくるスタイルはこのためか! 迷惑な!!
 騎士団長の息子はイージーモード。これも適当に賛辞を送り、食べ物を差し入れていれば惚れてくれるそうだ。
 宰相の息子がノーマルモード。上の二人に比べれば難易度は上がるが、一年をきっちりこなせば、そう難しい相手でもないとの事。
 以上の三人は比較的簡単に攻略出来るため、ヒロインが入学の時点で二年生、用意された攻略期間は一年だ。
 私と同学年にいる大商人の息子と天才ヴァイオリニストはハードモードで、この二人を攻略するには二年みっちり頑張らなければならないらしい。
 しかしこの二人さえ一年で抑え、この王太子達の卒業パーティーまでに五人全員を攻略――つまりはハーレムエンドに持っていければ、二年目に超ハードモードの隣国の王太子が留学してきて、隠しルートが開放されるらしい。
 ・・・・・・なんだそれ、どクズじゃないか。
 まぁそれは今はいい、私、王太子以外の攻略対象者知らないし。
 卒業パーティーではあるが、一年生も見送る側として出席する。学外からでもパートナーを連れて来て良いので、中々に大規模な催しだ。
 そのパートナーだが、婚約者が居れば当然婚約者だが、いない場合は家族や親戚を呼ぶことになる。
 男爵様が来たがっていたのだが、私は兄を召喚した。兄の婚活が優先である。
 めぼしいお嬢さん方は既に続々と売約済みとなっているが、残り物には福があるとも言うし、ぜひ頑張っていただきたい。私? 当然残り物の方である。
 兄の腕をとり、会場に入る。
 顔だけが取り柄、全パラメータを見た目に極振りと名高い母と生き写しなだけはあり、兄も私も見た目は悪くない。
 何かにつけこのパーティーで着る、ドレスだのアクセサリーだのを贈ってこようとする殿下の完全阻止に成功した私は、男爵家に相応しい非常にシンプルなドレスに身を包んでいる。
 しかし髪色と顔立ちが派手なので、このくらいが丁度いいのだ。
 兄もその端正な顔立ちから、お嬢さん方にキャーキャー言われていたので、そちらに向かって背中を押す。
「兄上、趣味を聞かれたら『狩り』と答えるのですよ。間違っても『ジャガイモの品種改良』と言ってはなりません。」
「俺の狩りは趣味じゃなくて単なる食料確保なんだが・・・・・・。」
「良いから。あとどういった狩りをするのか聞かれても、飛んでいる鳥の目を射貫くといった、グロテスクな想像を誘発するような話をしてはいけませんよ。」
 鹿といった大物を獲ると解体が大変だと言って、兄の獲物は専ら鳥である。
 さあ行った、とばかりに背中を叩く。貴方の妹は王太子殿下のせいで女子から避けられまくっているので、せいぜい自分で頑張ってきてくれたまえ!
 そんな事をしていると、会場がざわりと沸いた。
 ついに王太子殿下がご入場なさったらしい。
 ヒョコヒョコと覗き込めば、殿下の腕に手を添えて、その花のかんばせを蒼く強ばらせたヴェロニカの姿が見えた。
 視線が絡んでニッコリ笑えば、ヴェロニカも小さく頷く。大丈夫、任せておけ。
 殿下も来たことで、国王陛下も壇上へとご臨席する。
 ちなみに今回の卒業生に王太子が居るからという訳ではなく、この国の貴族や高額納税者の子女が通う学園ということで、毎年陛下は訪れるのだ。
 お偉い方の御挨拶にありがちで、長々としたご高説が続く。が、私が待っていたのは末尾のこの言葉。
「卒業すれば、言葉を交わすのが難しい者もいよう。今宵は大いに語らい、後顧の憂いを断ち、未来の希望に繋げてくれ。無礼講である! 皆楽しめ!!」
 わあ! と沸く空間。
 もちろん無礼講の意味を履き違える者なぞ、この場には居ない。
 真に受けて無礼を働けば、白い目は避けられない。礼儀と配慮は必要だ。
 ――しかし無礼講と口にした以上、咎めれば器が小さいと思われるのも事実。
 壇上にいる王太子が立ち上がった。
「私には、ここに宣言したい事がある! ・・・・・・エナ=イゴール男爵令嬢、此処へ。」
 呼ばれ、静々と歩み寄る。拒否権とかないからね!
 しかし、ヴェロニカの言っていた通りになっちゃったな。わりと全力で、シナリオクラッシャーしていたのに。
 王太子の傍によった私を、肩に手を掛け抱き寄せる。さぶいぼエグいから止めてくれ。
「ヴェロニカ=ハーヴェルング公爵令嬢! 君との婚約をは――」
 言 わ せ ね ぇ よ 。
「陛下! 発言をお許しいただけますでしょうか!!」
 王太子殿下が驚きに目を見張って、私を見下ろす。
 国王陛下は面白気に頬杖をついて、私を見遣る。
 王も気に食わないことが判明。容赦はナシだ。
「陛下は無礼講と仰りました! 後顧の憂いを断てとも! そのお言葉を信じ、勇気をもって此処で告発したき事がございます!!」
 会場が、私に注目する。
「王国の、この誇り高き学び舎で、入学から一年、私はずっと虐められて来ました!!」
 会場が、ザワリと揺れる。
 殿下の顔が、グッと引き締まる。
 頑張れとでも言うように、俺が守ってやるとでも言うように、肩の手が背中に回されようと――したのを、パシンっと音を立てて振り払う。
 距離を取った私は困惑する王太子の目を、キッと睨み据えて。
「ずっと虐められて来ました! 王太子殿下に!!」

 
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