転生したら髪の色がピンクだった。何かしらのヒロインじゃなかろうなと怯えている。

いさご

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「エ、エナ・・・・・・?」
 殿下が、混乱しきりという目で私を見遣る。
「婚約者でもない私の名前を、呼び捨てないで下さいませ!」
「なに、きゅ、急にどうしたんだい?」
「急にですって!? 私、何度も申し上げましたよね? 名を呼ぶのはお止め下さい、その様な気安いなさりようは、誤解を生みますと。」
「それは照れているだけだと・・・・・・。」
「照れたことなぞ一度もございません! 毎回血の引く思いでございました!」
 スーッと、息を吸う。
「他のご令嬢方から注意を受けた時もそうでした! 皆様は至らない私を少しでも良くしようと助言くださっているのに、元平民なのだから礼儀も作法もなっていなくて当たり前、そのままで良いなぞと貶めて! 平民出身では如何に学ぼうと、研鑽しようと、全て無駄だと仰るのですか!?」
 目頭にグッと力を入れて、涙を溜める。
「私が殿下に気があると、婚約者のいる殿方に無闇に近付いてはならないと諌められた時もそうでした! 私から近付いたことはただの一度もございませんが! そう思われても仕方の無い殿下のなさりように、私は謝罪しようとしました! それを! 殿下は!」
 溜めた涙がポロリと零れた。私ってば何たる女優!
「元平民だから婚約者の有無で対応を変えたりしない! 男女で気安いのは仕方がないと仰って!」
 ワアッと顔を両手に埋める際に、天を仰ぎ、手で顔を覆い、肩を震わせている兄の姿が視界に映った。
 妹の受けた仕打ちに泣いている? 否、モチのロンで爆笑しているのを誤魔化しているだけです。今に見ていろよ兄め。
「平民だって、恋人の居る異性に付き纏うような真似はいたしません! 婚約という確かな契約がない分、より気を使うくらいです! 殿下は平民を見境のない犬猫とでもお思いですか!?」
 酷い治世者が居たもんである。
 チロリと陛下を見遣れば、頬が少し痙攣していた。引き攣っているのか笑いを堪えているのか・・・・・・分からんな。さすがにポーカーフェイスが上手い。
「す、すまなかった。そんなつもりじゃ無かったんだ。」
 オロオロしちゃう殿下はまだまだだな!
 しかし謝罪をいただきましたー!
 言質をいただきましたー!
 これで今回の乙女ゲーム的な騒動の有責者は殿下!
「殿下、この中に私以上に傷付けられた方がいます。婚約者である殿下に蔑ろにされて。」
 クスンっと可愛らしく鼻を鳴らすつもりが、想定以上のサラサラ鼻水にズッと音を立てて啜ってしまった。可愛いが作れない、世のお嬢さん方はスゲェな。
「ヴェロニカ様に謝罪を。」
「ヴェ、ヴェロニカは嫉妬に狂って君に嫌がらせを・・・・・・!」
「そのような事実はございません。ヴェロニカ様に謝罪を。」
 さあさあさあ!
「――――!! ヴェロニカ、すまなかった。」
 はい、これで私とヴェロニカは無罪ー!
 ヴェロニカが胸に手を当て、ほっと安堵の息を吐く。
 ヴェロニカがいくら止めても、公爵家に忖度しまくった周りのご令嬢方に、多少の嫌がらせを受けていたのは事実だからね。
 まぁお育ちのいいご令嬢方のする嫌がらせなんざ、鼻息で吹き飛ばせる程度のモノだったけど。
「して、娘よ。」
 そこで陛下が口を開いた。
 最初に無礼講を宣言したとはいえ、王子に恥をかかせたと断罪できる立場のお方である。
「我が愚息が随分と迷惑を掛けたようだ。なにか望みはあるか? 詫びに多少の融通はしよう。」
 おおう、良かった。王様からもお詫びの言葉を貰っちゃったよ。
 でもこの人に出てこられると、話が大きくなり過ぎる。
「勿体なきお言葉です、陛下。ですが、ここは学園で、私たち子供が社交を学ぶ修練の場です。学園の中で起こったことは、学園の中で収めるのが妥当かと存じます。」
 うっそりと、微笑む。私は貴様ごときに負けんぞ!!
 子供の喧嘩に大人がでしゃばっちゃイカンよ。
「エナ! それでは私の気が済まない。宝石でもドレスでも、なんでも欲しいものを言ってくれ!」
「殿下・・・・・・!」
 ええい黙れ、この貢ぎ体質め! お前の使う金は税金だろうが!
 しかし、ふと思い付く。
「では、平民式のバツを受けていただくというのはどうでしょう。」
「平民式のバツ? そんな物があるのか。」
「はい、『デコピン』と言います。」
 ヴェロニカがヒュッと息を飲む。殿下に不敬か? でもコイツ、私に不敬を働かれるのが嬉しい変態だから大丈夫だよ。
「デコピン? 不思議な響きの名前だね。」
「はい、こう、額を指で弾くのです。デコはおでこのデコですね。」
「そんな物を受けるだけで良いのかい?」
「その程度の事でしたから。」
 婚約破棄さえ叫ばなければね。
 言ってチョイチョイと兄を呼ぶ。目尻に涙が浮いているが、笑いすぎだろう。
「私の代理で兄がデコピンをさせていただきます。」
「俺がするの!?」
「ああ、そうだね。エナの白魚のような指では、その指の方が折れてしまう。」
 一年畑仕事から離れていたとはいえ、私の指はそこらのご令嬢方よりも余程頑健なのだが。あと折れる程の威力は出せない、多分。
 兄は「えー」と嫌そうだ。王子殿下の額を打つなんて、そうそう体験出来るものではないのだから、楽しんでいけ。
「威力は?」
「母にオシオキする時レベルで良いよ。」
「マジかよ。」
 マジかよとか言いながら、殿下の顔面を鷲掴む兄。額に当たるよう中指の位置を調整し、左手の指に引っ掛けてスタンバイ。
 ちなみに、兄が私にするデコピンは親指に引っ掛けた人差し指を弾くだけの簡易バージョンだ。愛を感じるね! それでも悶絶するけどね!
「それじゃあいきますよ、殿下。」
「ああ、これはバツなのだから遠慮なくやってくれ。」
 兄と殿下の遣り取りに。
「あ、殿下。言い忘れた事が一つ。」
 一応言っておこう。
「兄のデコピンはスイカくらいなら軽く砕きます。」
 ――――ゴッ!!
「い゛づぅあッ!!!!」
 決してロイヤルが出してはいけない声をいただきました。

 その後、殿下の額は一週間程はエグい紫色で、半月程はオカシな黄色だったそうです(ヴェロニカ談)。
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