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1. ヤンキー君と優等生ちゃん
2. お行儀のいい学校
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つまらないわ。
渚美琴はイライラしながら、慣れ親しんだ廊下を歩いていた。もちろん顔に出すようなことはない。おそらく他の生徒の目には美琴が背筋をピンと伸ばし、優雅に歩いているように映っているだろう。だが、現実はもどかしさと焦りで腸が煮えくり返りそうだった。そんな彼女に一人の男子生徒が緊張した面持ちで近寄っていく。
「こ、こんにちは渚さん! きょ、今日も見回りですか?」
「こんにちは。えぇ、校内の風紀を乱す生徒がいないか見て回っているのよ」
内心のいら立ちなどおくびにも見せずに美琴が笑いかけると、話しかけてきた男子生徒の顔は一瞬で真っ赤になった。それもそのはず、渚美琴の容姿はかなり高いレベルで整っている。切れ長の目にぷっくりとした唇。雪のように白く美しい肌。完璧な比率で構成されたボディライン。肩にかかるかかからないかくらいの長さのナチュラルボブが、その可愛らしさをさらに際立たせていた。
「た、大変ですね生徒会の仕事は……お、応援してます!」
「ありがとう。嬉しいわ」
「っ!? そ、それでは! また!」
美琴の微笑みに堪えられなくなった男子生徒は軽く頭を下げると、出来る限りの早足でこの場を去っていく。その後姿を見ながら美琴は小さく息を吐いた。
「はぁ……人気者も大変ね」
話しかけてきた男子生徒の姿が見えなくなったところで、美琴は再び歩き始めた。ちなみに、先ほどの男子生徒の事を彼女は知らない。だが、それはいつもの事だった。成績も容姿もトップクラス、おまけに生徒会に所属している彼女は同じ高校二年の生徒だけでなく、学校中の有名人であった。だから、今のように見知らぬ生徒に声をかけられることなど日常茶飯事。唐突に話しかけられても動揺することなく普通に会話をすることなど、彼女にとって朝飯前の事だった。
「応援してくれるのは嬉しいけど、それなら校則違反の一つでもしてもらいたいものだわ」
思わず愚痴が零れる。生徒会役員としてはあるまじき発言。だが、紛れもない彼女の本心であった。そう願う理由はちゃんと存在する。
「二年になりたてだからって気を抜いてちゃだめね。こつこつ点数を稼いでおかないと、会長になんてなれない」
そう、渚美琴の願いとはこの学園の生徒会長になる事。全国でも有数の学校である清新学園高等学校のトップに立つという事がどういう意味を持っているのか彼女は知っている。いや、優秀な頭脳を持つ者でなくてもわかるだろう。そのため彼女は休み時間や放課後に校内を見回り、校則違反をしている者を取り締まる事で会長になるためのポイントを稼いでいるのだ。
「とは言うものの……」
美琴は通りかかった教室にちらりと目を向ける。中では授業を終えた生徒達が楽し気に談笑していた。机の上に座ったり、馬鹿みたいに騒いだりせず、お行儀よく椅子に座って建設的な会話を繰り広げている様を見て、美琴は大きくため息を吐く。
「いい子ちゃんばかりで本当につまらないわ。これじゃ全然取り締まれないじゃないの」
その可愛らしい顔を僅かに歪ませながら美琴は呟いた。新学期が始まってから一週間が経つというのに、美琴の検挙率はゼロ件。ライバルは既に何件か報告している事を考えると、焦りばかりがどんどんと募っていく。
だが、気持ちとは裏腹に学園はいたって平和だった。少なくとも今目の前で校則を破っている生徒など一人も見受けられない。
「結局、収穫なしで戻ってきてしまったわね……」
『2 - D』と書かれたプレートを見て、美琴はがっくりと肩を落とした。闇雲にとは言え、三年生の校舎も含めて歩き回ったにも拘わらず、なんの成果も得られずに自分の教室へと戻ってきたのだ。徒労に終わった事も重なり、背中に降りかかる落胆はかなりのものだった。
教室へと入り、中を見回す。帰りのホームルームが終わってからそれなりの時間が経過しているため、部活動へと行ってしまった生徒が殆どで、教室には片手で数えられる程度にしか生徒が残っていなかった。当然、誰もが校則を遵守している。
「ん?」
遵守していると思っていた。教室の端っこにある自分の席で腕を枕にして気持ちよさそうに居眠りしている男子生徒を見るまでは。
「あ、あれは……」
美琴はごくりと唾を飲み込む。寝ている男子の髪型、髪色、装飾品、制服の着方、上履きの履き方に至るまで、全てが校則に違反していた。まさに宝の宝庫。取り締まるべき対象として、これほどまでに適した人物も中々いないだろう。まさか自分のクラスに答えがあったとは。
「いえ……」
その「答え」については二年になってクラス替えをした時から知っていた。だが、手を出す事なんて出来ない。なぜなら相手は"狂犬"と恐れられた不良の中の不良、校内一の問題児として名高い男だからだ。強気な性格をしている美琴でも、やはり恐怖が勝ってしまう。それは彼女だけではなく、他の者も同様だった。結果として、清新学園に相応しくない不良が誰にも取り締まられる事なく野放しになっている。
「けれど……!!」
誰も手出しができない不良を自分が更正させたら、会長からの絶大な評価を得られるのではないだろうか? いや、得られるに違いない。まさにハイリスク・ハイリターン。この場合、ハイの度合いが限りなく臨界点に近い気がする。それでも、これ以上ライバルとの差が開くらいならばいっそ……。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、一歩ずつ目標へと近づいていった。足を前に出すたびに鼓動のギアが上がっていく。他人と話すのにこれほどまで勇気が必要だった事はいまだかつてない。
やっとの思いで机の前にたどり着いた美琴はもう一度深く深呼吸をしてから、意を決したように口を開いた。
「起きなさい! 久我山颯空!!」
渚美琴はイライラしながら、慣れ親しんだ廊下を歩いていた。もちろん顔に出すようなことはない。おそらく他の生徒の目には美琴が背筋をピンと伸ばし、優雅に歩いているように映っているだろう。だが、現実はもどかしさと焦りで腸が煮えくり返りそうだった。そんな彼女に一人の男子生徒が緊張した面持ちで近寄っていく。
「こ、こんにちは渚さん! きょ、今日も見回りですか?」
「こんにちは。えぇ、校内の風紀を乱す生徒がいないか見て回っているのよ」
内心のいら立ちなどおくびにも見せずに美琴が笑いかけると、話しかけてきた男子生徒の顔は一瞬で真っ赤になった。それもそのはず、渚美琴の容姿はかなり高いレベルで整っている。切れ長の目にぷっくりとした唇。雪のように白く美しい肌。完璧な比率で構成されたボディライン。肩にかかるかかからないかくらいの長さのナチュラルボブが、その可愛らしさをさらに際立たせていた。
「た、大変ですね生徒会の仕事は……お、応援してます!」
「ありがとう。嬉しいわ」
「っ!? そ、それでは! また!」
美琴の微笑みに堪えられなくなった男子生徒は軽く頭を下げると、出来る限りの早足でこの場を去っていく。その後姿を見ながら美琴は小さく息を吐いた。
「はぁ……人気者も大変ね」
話しかけてきた男子生徒の姿が見えなくなったところで、美琴は再び歩き始めた。ちなみに、先ほどの男子生徒の事を彼女は知らない。だが、それはいつもの事だった。成績も容姿もトップクラス、おまけに生徒会に所属している彼女は同じ高校二年の生徒だけでなく、学校中の有名人であった。だから、今のように見知らぬ生徒に声をかけられることなど日常茶飯事。唐突に話しかけられても動揺することなく普通に会話をすることなど、彼女にとって朝飯前の事だった。
「応援してくれるのは嬉しいけど、それなら校則違反の一つでもしてもらいたいものだわ」
思わず愚痴が零れる。生徒会役員としてはあるまじき発言。だが、紛れもない彼女の本心であった。そう願う理由はちゃんと存在する。
「二年になりたてだからって気を抜いてちゃだめね。こつこつ点数を稼いでおかないと、会長になんてなれない」
そう、渚美琴の願いとはこの学園の生徒会長になる事。全国でも有数の学校である清新学園高等学校のトップに立つという事がどういう意味を持っているのか彼女は知っている。いや、優秀な頭脳を持つ者でなくてもわかるだろう。そのため彼女は休み時間や放課後に校内を見回り、校則違反をしている者を取り締まる事で会長になるためのポイントを稼いでいるのだ。
「とは言うものの……」
美琴は通りかかった教室にちらりと目を向ける。中では授業を終えた生徒達が楽し気に談笑していた。机の上に座ったり、馬鹿みたいに騒いだりせず、お行儀よく椅子に座って建設的な会話を繰り広げている様を見て、美琴は大きくため息を吐く。
「いい子ちゃんばかりで本当につまらないわ。これじゃ全然取り締まれないじゃないの」
その可愛らしい顔を僅かに歪ませながら美琴は呟いた。新学期が始まってから一週間が経つというのに、美琴の検挙率はゼロ件。ライバルは既に何件か報告している事を考えると、焦りばかりがどんどんと募っていく。
だが、気持ちとは裏腹に学園はいたって平和だった。少なくとも今目の前で校則を破っている生徒など一人も見受けられない。
「結局、収穫なしで戻ってきてしまったわね……」
『2 - D』と書かれたプレートを見て、美琴はがっくりと肩を落とした。闇雲にとは言え、三年生の校舎も含めて歩き回ったにも拘わらず、なんの成果も得られずに自分の教室へと戻ってきたのだ。徒労に終わった事も重なり、背中に降りかかる落胆はかなりのものだった。
教室へと入り、中を見回す。帰りのホームルームが終わってからそれなりの時間が経過しているため、部活動へと行ってしまった生徒が殆どで、教室には片手で数えられる程度にしか生徒が残っていなかった。当然、誰もが校則を遵守している。
「ん?」
遵守していると思っていた。教室の端っこにある自分の席で腕を枕にして気持ちよさそうに居眠りしている男子生徒を見るまでは。
「あ、あれは……」
美琴はごくりと唾を飲み込む。寝ている男子の髪型、髪色、装飾品、制服の着方、上履きの履き方に至るまで、全てが校則に違反していた。まさに宝の宝庫。取り締まるべき対象として、これほどまでに適した人物も中々いないだろう。まさか自分のクラスに答えがあったとは。
「いえ……」
その「答え」については二年になってクラス替えをした時から知っていた。だが、手を出す事なんて出来ない。なぜなら相手は"狂犬"と恐れられた不良の中の不良、校内一の問題児として名高い男だからだ。強気な性格をしている美琴でも、やはり恐怖が勝ってしまう。それは彼女だけではなく、他の者も同様だった。結果として、清新学園に相応しくない不良が誰にも取り締まられる事なく野放しになっている。
「けれど……!!」
誰も手出しができない不良を自分が更正させたら、会長からの絶大な評価を得られるのではないだろうか? いや、得られるに違いない。まさにハイリスク・ハイリターン。この場合、ハイの度合いが限りなく臨界点に近い気がする。それでも、これ以上ライバルとの差が開くらいならばいっそ……。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、一歩ずつ目標へと近づいていった。足を前に出すたびに鼓動のギアが上がっていく。他人と話すのにこれほどまで勇気が必要だった事はいまだかつてない。
やっとの思いで机の前にたどり着いた美琴はもう一度深く深呼吸をしてから、意を決したように口を開いた。
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