優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!

M・K

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1. ヤンキー君と優等生ちゃん

4. ヤンキー君の秘密

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 自分しかいなくなった教室で美琴はへなへなと腰砕けになった。今更になって震えがやって来る。校内一の不良わるというレッテルは張りぼてではなかった。

「……怖かった~~~~」

 安堵の息と共に肺に溜まった恐怖を吐き出す。力が抜けてしばらく立てそうにない。自分の体がいかに強張こわばっていたのか思い知らされた。

「でも、明日になっても絶対直してこないわよね、あの人。……ってことは何? こんな怖い思いしたっていうのに無駄骨だったってこと?」

 考えれば考えるだけ虚しくなってくるので、美琴は考えるのをやめる。やはり、楽して点数を稼ごうなんて浅はかだったのだ。久我山颯空、あの男は軽い気持ちで手を出していい相手ではなかった。

「…………帰ろ」

 一日を通して、生徒会に貢献した事はないが、今日はもう何かをする気にはなれない。また明日からいつものように見回りをして地道な努力を重ねて行こう。そんな風に考えた美琴は近くにあった机を支えにして何とか立ち上がり、自分の席へとふらふら歩いて行く。

「あら?」

 その途中で地面に黒いものが落ちている事に気が付いた。近づいてみると、それはとても見覚えのあるものであった。

「生徒手帳……誰のかしら?」

 手のひらサイズの黒い手帳を床から拾い上げ、名前を確認するため中を開いた瞬間、美琴は目を丸くする。そのまま氏名の欄に視線をずらし、名前を確認すると唖然とした表情を浮かべた。

「…………ふっふっふ。これは使えるわ」

 勢いよく手帳を閉じ、悪役よろしくニヤリと笑みを浮かべた美琴はその手帳をブレザーのポケットにしまう。そして、自分の席にある鞄を掴むと、大急ぎで教室から飛び出していった。



 黄昏時、夕暮れが照らし出す美しい住宅街を一人で歩いていた颯空はおもむろに立ち止まった。その理由はただ一つ。自分の進路を阻むかのように何者かが目の前に現れたからであった。その人物に見覚えがあった颯空は思わずため息を吐く。

「まだ俺になんか用があるのか? えーっと……」
「渚美琴よ! さっき名乗ったばかりなんだから忘れるんじゃないわよ!」
「あーわりい。で? なんか用?」

 まるで名前を覚える気がない颯空に怒りが湧き上がりそうになるが、それをグッと堪えて美琴は無理やり笑顔を作った。

「あなたにどうしても教えてあげたい事があったから追いかけてきたのよ」
「……そりゃご苦労なこって」

 僅かに頬が紅潮し、息が上がっているところを見るに、どうやら彼女は走って自分を探していたようだ。いくら教えたい事があるとはいえ、こんな風に追いかけてくるだろうか。そんな疑問を感じつつも、短い会話の中で美琴が普通ではない事を察した颯空はその疑問を飲み込んだ。

「じゃあその教えたい事ってのを教えたらすぐに消えてくれ。こう見えて忙しいんだよ、俺は」
「あ、相変わらず無礼ね……!!」

 ひくひくと頬を引き攣らせながら、それでも美琴は笑顔を崩さない。その方がより効果的なはずだからだ。

「あなたみたいに平気で校則を破る人は一度確認した方がいいわ。ところで、その校則がどこに書かれているかあなた知ってる?」
「あぁ? 知るわけねぇだろ」
「そうよね。知らないと思った。だから、それを教えてあげようと思ったのよ。……校則はこれに書かれているわ」

 自信満々の顔で美琴はブレザーのポケットから生徒手帳を取り出す。一方、颯空は美琴の話が予想以上にどうでもいい事だと知り、少しばかり立ち止まった事を後悔していた。いや、少しではない。かなり後悔している。

「なるほど分かった。手帳に校則が書かれているのな。明日までに目を通しておくからもう帰ってくれ」
「あらそう? でも、校則ってかなりの量があるのよねぇ。一日で読むのは大変なんじゃないかしら?」
「大丈夫だって。こう見えて俺は文字を読むのが速いんだ。だから、な?」

 鬱陶うっとうしそうにシッシッと颯空が手の平を振る。だが、美琴は不気味な笑みを浮かべているだけで帰ろうとはしなかった。

「そうだ! いい事を思いついたわ! あなたが読むべきところを私が今教えてあげる!」
「くだらねぇ。俺は帰るぜ」
「あれれ~? おかしいわ~」

 颯空が背を向けると、美琴がわざとらしく首を傾げながら不思議そうな声を上げた。

「これ、私の生徒手帳じゃないみた~い」
「あ? 何言ってんだお前……」

 半ばあきれ顔で振り返った颯空は美琴の手にしているものを見た瞬間、その場で凍り付く。その顔色は信号機よりも素早く赤から青へと変化していった。

「これ……誰の生徒手帳かしら?」

 勝ち誇った表情を浮かべながら、生徒手帳越しに颯空の様子を窺う。どうやら彼の周りだけ時間が止まってしまったようだ。

「それにしても、どうして生徒手帳にこんなものが入っているのかしらね?」

 底意地の悪い笑みとともに、対颯空用のリーサルウェポンを手に取る。それは写真だった。しかもラミネート加工までばっちり施されている代物。そこに写っているのは黒い髪を腰まで伸ばした大和撫子やまとなでしこを思わせる女性。柔和に笑いながら椅子に座っている姿で撮られている彼女は、颯空や美琴と同じ清新学園の制服を着ていた。

「この女性の事は知ってるわ。杠葉ゆずりは静流しずる……私達と同じ清新学園の三年生。そして、生徒会長補佐役を担う優秀な方であり、生徒会役員である私の尊敬すべき先輩ね」

 颯空は石像になってしまったの如く、全く動く気配がない。だが、大量に流れ出る汗が彼は無機物ではないことを示していた。益々美琴の笑みが深まる。

「その人の写真がどうしてこの生徒手帳に入っているのかしらね? 久我山君?」

 氏名の欄に書かれた『久我山颯空』という文字を指でトントンと叩きながら美琴が尋ねた。脳みそがゆっくり再起動していく。これまで生きてきてこれほどピンチに陥った事はあっただろうか、いやない。違う中学の不良三十人余りに囲まれた時ですら、ここまでの絶望感はなかった。硬直しながらも必死に頭を巡らせる颯空。どうすればこの場を乗り切る事が出来るだろうか。

「…………何が狙いだ?」

 ゴキゴキ、と右手の骨を鳴らしながら今にも襲いかかりそうな雰囲気を醸し出している颯空に、美琴は思わず二の足を踏む。だが、今更引き返す事などできるわけもなかった。

「お、脅したって無駄よ!! そ、そういうのには屈しないんだから!!」
「人の弱みをひけらかして脅してんのはそっちだろうが」
「しょうがないじゃない! だって、私は弱いもん! 力にモノを言わせるあなたみたいな人に真っ向から立ち向かうにはこういう手段しかとれないんだもん!」

 若干涙目になりながら喚き立てる美琴を見て、颯空は深々とため息をついた。流石に

「ちっ……よりによって一番厄介そうな奴に俺の秘密を知られちまうとは」
「ちょっと! 厄介そうってなによ!?」
「言葉通りの意味だ」

 ぶっきらぼうな口調で颯空が言う。その視線は美琴の持っている自分の生徒手帳に釘付けだった。彼女の手から手帳を取り戻す事など造作もない事だ。だが、それでは意味がない。重要なのは自分の手帳に杠葉静流の写真が入っている事実を知られた事だ。美琴の記憶を消す以外に解決策などない。

「それで? 望みはなんだ?」
「え?」
「だからこそ俺の後を追いかけてきたんだろ? むかつくお前を黙らせるために俺は何をすればいい?」

 だが、颯空に記憶を消す術などない。流石に存在を消すわけにもいかないので、ここは大人しく相手の要求を聞くほかなかった。あまりに往生際が良い颯空にきょとんとした美琴だったが、首をぶんぶんと横に振って、なんとかいつもの自信に満ちた顔へと戻す。

「ヤ、ヤンキーのくせに随分と聞きわけがいいわね! 話が早くて助かるわ!」
「うっせぇな、ヤンキーじゃねぇよ。それに足掻いても意味ねぇからな。もう覚悟は決まってる」

 見た目通りというか、ある意味思った通りの気風きっぷの良さに美琴は若干たじろぎつつも、内心ほくそ笑んだ。思い描いていたシナリオとは少々違う流れでここまで来たが、そんな事はどうでもいい。彼女の望みは校内一の不良わるを自分の手で更生させたという手柄。この手帳を人質ならぬ物質ものじちにすれば、大人しく言う事を聞かざるを得ないだろう。美琴は口端が上がりそうになるのを必死に堪えながら、美琴はピンっと人差し指を立てた。

「私があなたに要求する事は一つよ!! 明日までに……!!」

 威勢よく決め台詞を言おうとしたところで、美琴の口がピタッと止まる。さっきまでは色々といっぱいいっぱいだったせいで目に入らなかったが、勝利を確信し、少しだけ落ち着きを取り戻した今、教室いた時との颯空の変化に気がついた。

「……ピアスは?」

 だから、無意識のうちに言葉が出る。さっきまでこれでもかと言わんばかりに主張していたピアスが一つもない。それどころか、シルバーアクセサリーも何一つ身につけてはいなかった。

「…………」
「ピアスはどうしたの? ネックレスは?」
「…………」
「……答えなさい」

 美琴が手に持っている生徒手帳を颯空に見せつけるように振る。それを見て颯空が顔を歪めた。

「…………捨てたよ。なんか文句あるのか?」

 むすっとした顔でしばらく黙り込んでいた颯空が聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言った。予想外の答えに美琴は驚きを隠せない。

「……もしかして私が言ったから?」
「はぁ? わけのわからん高飛車たかびしゃ女の言葉なんて適当に聞き流してるに決まってんだろ」
「……誰が高飛車女よ」

 さっきまでなら怒り心頭に達していたであろう颯空の暴言も、今の美琴には然して気にならないものになっていた。それよりも気になることがある。

「じゃあ、なんで捨てたのよ?」
「なんでってお前……!!」

 本来の目的を忘れ詰め寄ってくる美琴に若干気圧けおされる颯空。どうごまかしたもんかと考えていたが、射貫くように自分を見つめてくる美琴を前に、諦めたようにため息を吐いた。

「別に大した理由じゃねぇよ。好きな恰好しようが誰にも迷惑をかけてないって思ってるし、その考えが変わることは絶対にねぇ」
「…………」

 美琴は颯空の言葉を何も言わずに真剣な表情で聞いている。それを見て、颯空はガシガシと自分の頭をかいた。

「……けどよ、お前の言うようにそれで俺にビビッて学校に来なくなる奴とかいたら寝覚めがわりいじゃねぇか」
「……!!」

 まさかの発言に美琴は言葉を失い、大きく目を見開く。そんな視線から逃げるように、颯空は顔を背けた。

「……まぁ、その程度で学校に来なくなるような奴の方が悪いけどな。それでも、言いがかりとかつけられたら鬱陶しいんだよ。お前みたいに」
「……別に私は言いがかりなんてつけないわよ」

 颯空の軽口に答えた美琴の声にはいつものような強気な色はまるでない。その原因は自分の思い描いていた『久我山颯空』と実際の彼とに大きな乖離かいりを感じているからだ。他人の事なんてどうだっていい、気に入らない奴は排除する。そんな害をなす存在でしかないと思っていた美琴は正直困惑していた。
 もしかしたら颯空は自分が思っているような人物ではないのかもしれない。普通の男子学生のように秘密がばれたことを恥じている颯空を見て、美琴はくすっと笑った。

「なによ、ヤンキーのくせに可愛いところあるじゃない」
「ヤンキーじゃねぇって言ってんだろ……つーか、俺のことはどうだっていいんだよ。早く秘密を守る条件を教えろ」
「……そういえばそういう話だったわね」

 颯空の言われてようやく自分の目的を思い出す。とはいうものの、別に秘密を握らなくても颯空を更生させるという美琴の目的は達成できそうであった。かといって、これで終わりというのはなんとなくもったいない気がする。自分の思い描いてた像と違う姿を見せた颯空に、美琴は少しだけ興味を抱いていた。

 どうすれば一番いいのか頭を悩ませる美琴だったが、不意に妙案が浮かぶ。

「……決めたわ。私の命令を一つだけ聞いてくれたら、生徒手帳の事は誰にも言わないであげる」
「あーわかったよ。だから、さっきからそれを教えろって言ってんだろうが」

 面倒くさそうに答えながら、自分の頭をかく颯空を見ながら美琴は不敵な笑みを浮かべた。そこに教室で見せたような恐怖の色はまるでない。自信に満ちあふれた顔でビシッと颯空を指差した彼女を夕日が鮮やかに照らし出した。

「──久我山颯空。生徒会に入りなさい」
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