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レイドモンスター 赤虎のしっぽ
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《剣使い》の《剣速上昇》
《斧使い》の《筋力強化》
《重戦士》の《一撃》
これらのスキルをまとめて使った長剣の一振りが、タイガーボルの尻尾の根元に傷を付けた。
赤や黒の毛と共に、燃えるような赤い血が飛び出た。尻尾の根元の半分くらいは斬れたようだ。
内心、「やった」と思ったけど声には出さずにいられた。
ただ、タイガーボルは尻尾が千切れかけているのも構わず、尻尾で虫を振り払うかのようにソルトを狙ってきて焦った。なんとか後ろに飛んでギリギリで躱す事ができた。
そしてすぐさま《水弾》を根元に撃つ。
僕が攻撃されたのを見て、他の前衛アタッカーが下がり始め、後衛の矢と魔法もピタリと止まった。
そしてタンカーのみんながタイガーボルを挑発し、近接攻撃を繰り出す。
これでまた、タイガーボルの攻撃をタンカー、と言うかサナムさんが止めてくれるまでは待ちだ。
と思ったのだけど。
なんと、タイガーボルが巨体を反転させ、その顔を僕の方に向けてきた。
そして、十メートルほどの距離をまさに一瞬、たったの一跳躍でゼロにして、その大きな右前脚を振り下ろしてきた。
巨大な肉球と爪が僕に近付いてくる。
何故か、肉球部分に当たったら、意外に生き残れそうだな、とか考えるくらいの余裕があった。
《剣使い》の《避け勘》が引く線を避けながら、剣じゃ《鉄壁》は無理だろうけど、《反射》はいけるんだろうか、なんて無茶な事を考えていた。
長かった一瞬が終わった時、タイガーボルの爪を躱した僕は、その風圧でバランスを崩して尻もちをついていた。
すぐさま追撃が来たので、地面を転がってそれを避ける。
地面を叩きつけた前脚が大きな音を立てた。
「こっちだ!」
「こっち向けこの野郎!」
前衛タンカーが怒声を上げながら、タイガーボルの前に回り込もうとする。
装備が重いからか、《重装備》を持ってるサナムさん以外の移動速度が遅いんだ。
そういう訳で、サナムさんがやって来てくれて、次の一撃をガードしてくれた。
「ソルトくん、何をやった!?」
「はいっ?」
「たぶんだが、キミが一番ダメージを入れたから狙われてるんだよ!」
なんとなくそうじゃないかな、とは思ってたけど、やっぱりそういうわけだったのか。
だとしたら、タイガーボルの狙いがタンカーの人に移るまでは逃げに徹した方がいいのかな。
僕は、とりあえず簡潔に、トラの尻尾を攻撃したのだと答えた。
サナムさんが横に移動して尻尾を確認する。
「なあっ! コイツとは何度も戦ってるが、実はまだ尻尾を切り落とした事はないんだ!」
「スペシャルドロップか!」
「いいな!」
「やれるんならやってくれよ!」
サナムさんと、追いついてきたタンカー達がなんだか盛り上がってる。
「あれならあと二回くらいでいけんじゃねーか?」
「ソルトくん、俺らが絶対に盾になるからやってみないか?」
スペシャルドロップって言うのは、特定の条件を満たして魔物を倒した時に手に入る物だ。レアアイテムより上のドロップが期待できるっていうやつだ。
既に「どうせならスペシャルを狙おう」と言う流れができあがってきてしまっていて、至る所から気合の声が上がり始めていた。
こんな流れになったら、流石に断る事なんてできるはずが無い。
「さっきの、顔を下からガツンてするやつ、お願いします!」
だから僕は、サナムさんにもお願いする事にした。「やります」とは言いきれなかったけど、考えは伝わったと思いたい。
「「「おう!」」」
「やるぞっ!」
「「「おう!」」」
なんだか、レイドに参加してる全員が一丸になった気がして、体が熱くなってきたのだった。
「ぐ、ごぉおおおおおおおおおぉぉぉ……」
あの後、二回の全力攻撃を尻尾の根元に打ち込んだことで、見事に尻尾を切り落とす事ができたんだけど、その後が大変だった。
尻尾を失ったタイガーボルは、今まではしなかった跳躍や、その跳躍で壁を蹴ってからの攻撃などをしてきて、タンカーがまったく追いつけなくなってしまった。
その結果、探索者側は怪我人が続出し、前衛後衛入り乱れて無差別で攻撃を行う状況になったのだった。
でも、たった今、とうとう長かった戦いが終わった。
タイガーボルの断末魔が空洞内に響き渡り、そして、その巨体が割れて、赤と黒のパネルになっていく。それはタイガーボルが現れた時の逆再生のようで不思議な光景だった。
探索者達が次々に地面に座り込んでいく。仰向けになって、天井に向かって手を突き上げる者もいた。
安堵の声と、やった、勝ったと言う声が、それぞれの居場所から聞こえてくる。
そして、少しすると、タイガーボルが消えたその場所から、金貨や銀貨が噴水のように噴き上がる。
その光景を見て、探索者達からも大歓声が湧き上がった。
《斧使い》の《筋力強化》
《重戦士》の《一撃》
これらのスキルをまとめて使った長剣の一振りが、タイガーボルの尻尾の根元に傷を付けた。
赤や黒の毛と共に、燃えるような赤い血が飛び出た。尻尾の根元の半分くらいは斬れたようだ。
内心、「やった」と思ったけど声には出さずにいられた。
ただ、タイガーボルは尻尾が千切れかけているのも構わず、尻尾で虫を振り払うかのようにソルトを狙ってきて焦った。なんとか後ろに飛んでギリギリで躱す事ができた。
そしてすぐさま《水弾》を根元に撃つ。
僕が攻撃されたのを見て、他の前衛アタッカーが下がり始め、後衛の矢と魔法もピタリと止まった。
そしてタンカーのみんながタイガーボルを挑発し、近接攻撃を繰り出す。
これでまた、タイガーボルの攻撃をタンカー、と言うかサナムさんが止めてくれるまでは待ちだ。
と思ったのだけど。
なんと、タイガーボルが巨体を反転させ、その顔を僕の方に向けてきた。
そして、十メートルほどの距離をまさに一瞬、たったの一跳躍でゼロにして、その大きな右前脚を振り下ろしてきた。
巨大な肉球と爪が僕に近付いてくる。
何故か、肉球部分に当たったら、意外に生き残れそうだな、とか考えるくらいの余裕があった。
《剣使い》の《避け勘》が引く線を避けながら、剣じゃ《鉄壁》は無理だろうけど、《反射》はいけるんだろうか、なんて無茶な事を考えていた。
長かった一瞬が終わった時、タイガーボルの爪を躱した僕は、その風圧でバランスを崩して尻もちをついていた。
すぐさま追撃が来たので、地面を転がってそれを避ける。
地面を叩きつけた前脚が大きな音を立てた。
「こっちだ!」
「こっち向けこの野郎!」
前衛タンカーが怒声を上げながら、タイガーボルの前に回り込もうとする。
装備が重いからか、《重装備》を持ってるサナムさん以外の移動速度が遅いんだ。
そういう訳で、サナムさんがやって来てくれて、次の一撃をガードしてくれた。
「ソルトくん、何をやった!?」
「はいっ?」
「たぶんだが、キミが一番ダメージを入れたから狙われてるんだよ!」
なんとなくそうじゃないかな、とは思ってたけど、やっぱりそういうわけだったのか。
だとしたら、タイガーボルの狙いがタンカーの人に移るまでは逃げに徹した方がいいのかな。
僕は、とりあえず簡潔に、トラの尻尾を攻撃したのだと答えた。
サナムさんが横に移動して尻尾を確認する。
「なあっ! コイツとは何度も戦ってるが、実はまだ尻尾を切り落とした事はないんだ!」
「スペシャルドロップか!」
「いいな!」
「やれるんならやってくれよ!」
サナムさんと、追いついてきたタンカー達がなんだか盛り上がってる。
「あれならあと二回くらいでいけんじゃねーか?」
「ソルトくん、俺らが絶対に盾になるからやってみないか?」
スペシャルドロップって言うのは、特定の条件を満たして魔物を倒した時に手に入る物だ。レアアイテムより上のドロップが期待できるっていうやつだ。
既に「どうせならスペシャルを狙おう」と言う流れができあがってきてしまっていて、至る所から気合の声が上がり始めていた。
こんな流れになったら、流石に断る事なんてできるはずが無い。
「さっきの、顔を下からガツンてするやつ、お願いします!」
だから僕は、サナムさんにもお願いする事にした。「やります」とは言いきれなかったけど、考えは伝わったと思いたい。
「「「おう!」」」
「やるぞっ!」
「「「おう!」」」
なんだか、レイドに参加してる全員が一丸になった気がして、体が熱くなってきたのだった。
「ぐ、ごぉおおおおおおおおおぉぉぉ……」
あの後、二回の全力攻撃を尻尾の根元に打ち込んだことで、見事に尻尾を切り落とす事ができたんだけど、その後が大変だった。
尻尾を失ったタイガーボルは、今まではしなかった跳躍や、その跳躍で壁を蹴ってからの攻撃などをしてきて、タンカーがまったく追いつけなくなってしまった。
その結果、探索者側は怪我人が続出し、前衛後衛入り乱れて無差別で攻撃を行う状況になったのだった。
でも、たった今、とうとう長かった戦いが終わった。
タイガーボルの断末魔が空洞内に響き渡り、そして、その巨体が割れて、赤と黒のパネルになっていく。それはタイガーボルが現れた時の逆再生のようで不思議な光景だった。
探索者達が次々に地面に座り込んでいく。仰向けになって、天井に向かって手を突き上げる者もいた。
安堵の声と、やった、勝ったと言う声が、それぞれの居場所から聞こえてくる。
そして、少しすると、タイガーボルが消えたその場所から、金貨や銀貨が噴水のように噴き上がる。
その光景を見て、探索者達からも大歓声が湧き上がった。
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