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ソルトのこと
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一階層へと戻る道のりで、魚人や迷宮角付きトドには多少手こずるものの、中鬼などの水棲系ではない魔物相手なら問題なく戦えている。
とは言え、アタッカーが一人減ったのだから無理はしない。敵の数が多ければやり過ごすし、一戦毎に体力と魔力を回復させて常に万全の状態で進んでいた。
ただ、ソルトがいた行きよりも、倍近い時間をかけての移動になってしまっているのだが。
「なあ、ラングル。もうすこーしペースアップせえへんか?」
「いや、堅実にいくぞ。今はちゃんと休むんだ」
「そうだよ~、小さな傷なら私の《回復》で治せるけど、疲れまでは癒せないんだから。それに今だってスルフを治すのに使った魔力、回復しておきたいし~」
「はぁ、さよか」
スルフの態度の端々に「ソルトがいなくても自分達は同じようにできるだろ」と言う思いが見てとれる。
彼がソルトの力に嫉妬するのは仕方ないことだ。だって、俺自身もソルトの力には嫉妬するし、それに憧れもする。
「なあミント。ソルトは前からあんなにつよかったのか?」
「え?」
パーティーの雰囲気があまり良くないことと、ソルトの力の事を考えていたら、つい、ミントにソルトのことを聞いてしまった。
「あいつは前からあんなに強かったのか?」
「あ~、それ私も聞きたいわ~」
「聞き、たい」
「……まあ、聞いたるわ」
「えっと……そうですね……」
ミントがパーティーを組んでいた時の話は、自分にも経験のある話だった。
一階層で一回戦っただけで街に戻る事になったり、スキルを手に入れて一気に探索や戦いの幅が広がったりといった、初心者なら誰でも経験するような話ばかりだった。
ただ、その中でソルトだけがスキルを手に入れることがなかったのだという。
スキルは迷宮内で生きていく為には必須の力だ。もし探索者を辞めたとしても、迷宮の街サウススフィアで暮らしていくなら、何らかの役立つ力があった方が生きやすい。
レベルが一〇を超えてもスキルを手に入れられなかったとしたら……ラングル達は改めてその恐ろしさを思って恐怖した。
その頃から、ソルトは二刀流の真似事を始めたのだそうだ。パーティーの構成上、アタッカーがいないのだからスキルのない彼が、スキルがなくてもできるのはそのポジションだけだったのだ。
長剣を片手で振る、と言うのは実はなかなか難しい事だ。何キロもある重くて長い棒など構えるだけでも大変だし、振れば両手で持っていても体が持ってかれるほどの反動がある。
ただ、剣士や戦士などのスキルを手に入れると、その重たいはずの剣を、自分の手足のように振ることができるようになる。
それなしで両手で剣を自由自在に振れるようになったのだとしたら、ソルトの地力はとんでもないものだろう。
もちろん、訓練さえ積めば重たい物を持てるようになるだろうし、剣だって戦いで使えるレベルにする事はできるだろう。迷宮に入ることのできない、外にいる者達だって武器を手にして戦っているのだから。
「ソルトの奴、もしかして気がついてなかっただけで実は《剣士》のスキルを持ってたんじゃないのか」
「それはないと思います。ずっと悩んでましたし、その……レベルアップしてもスキルが手に入らなくて泣いてる所も見たことがあるから……」
「そ、そうか……」
「じゃあ、ソルトのあの二刀流や異常なまでの威力のあの一撃は努力の結果、ってことかいな……」
「確かに魔法以外のスキルは努力で身に付けられない事もないんだろうが……想像を絶する話だな」
「ソルト、私達とパーティーを解散してから他の人とパーティーを組んでたことがあるんです。その時にもスキルがないことが原因で解散する事になったって聞きました。その「能無し」って言葉で……その時、色々な事、その、私達の最初のパーティーの解散とか、そういうのが重なってのことだと思うんですけど、ショックで耳が聞こえなくなってしまったらしくて……そういうことがあったって聞いてるので、だから、本当に最近になって《水魔法》を手に入れたんだと思います」
「え~……ソルト可哀想~」
「ミツキさんの前にもパーティーを組んでた奴がいたのか」
「ソルト……楽して強くなったわけやなかったんか……」
「ソルト、凄い。私も分か、る、少しだけ」
フォレストは《探索者》と言うスキルを持っているが、それには戦闘で使えるような攻撃的なものがない。魔物の攻撃を避けるのも、弱ってる魔物にとどめを刺すのも全部自分自身の力でやらなければならない。
パーティーに非常に役に立ってくれているが、戦闘面でのことを考えると、ソルトの苦労が理解できるのかも知れない。
「実はな、情けない話なんだが、俺は少しソルトの強さに嫉妬してたんだ。なんであいつはあんなに強いんだろう、ってな」
俺は自分の醜い部分をみんなに話すことにした。
「俺よりもレベルが低いはずなのに、明らかに俺よりも強いことに苛つく時もある。何か隠してるんじゃないか、ってな。でももう、隠してるなら隠してるでもいいし、努力で強くなったっていうならそれも信じることにする。うじうじして自分の弱さ自体に苛つくのも疲れるだけだしな。こんなのがリーダーですまん」
そう言って、俺はあぐらをかいたまま、地面に頭が付くくらい頭を下げた。
「そんなん言われたら俺もそうや……あとから来た奴に抜かれたような気がして腹立つ時がなんべんもあったわ。でもまあ、ソルトの昔のつらくて情けない頃の話聞いたら、そんなん思ってた自分のが情けなくなってきたわ」
「へぇ~、抜かれたような「気がする」だけなの~?」
「むぐっ」
「ニーシム、いじめ、だめ」
「いや、ええんや。確かにな。認めといた方が後々やりやすいからな。そやね、俺はソルトよりも弱いんやろな」
「スルフさん……」
「でも、俺にもパーティーでできることがある。だからもう、ソルトと自分を比べたりせん」
「ん。えらいえらい」
そう言ってスルフの頭を撫でるニーシム。いや、俺が言った事、全部スルフに持っていかれてしまったな。
「ラングルも、えらい。鈍感、だけど」
そう言って、フォレストが俺の頭をポンポンと叩いた。何年かぶりに誰かに子供扱いされた気分だ。
しかし、スルフも俺と同じようなことを思ってたんだな……ああ、もしかして鈍感ってこのことか?
つまり俺だけ気づけてなかったってことか。
ってことはソルトも気づいてたってことなのか?
ミントとのパーティーの解散、スキルが手に入らなかったことで耳が聞こえなくなる程のストレス、ミツキさんとの別れ。
俺はそんな奴に嫉妬して、それが周りから見て分かるような態度をソルトに対してとってたってのか。
自分の拳で自分の顔を思い切り殴ってみた。
ソルトはこれよりも痛い思いをしてたんだろうな。勝手に晴れ晴れとした気分になってる場合じゃないな、これは。くそっ。
とは言え、アタッカーが一人減ったのだから無理はしない。敵の数が多ければやり過ごすし、一戦毎に体力と魔力を回復させて常に万全の状態で進んでいた。
ただ、ソルトがいた行きよりも、倍近い時間をかけての移動になってしまっているのだが。
「なあ、ラングル。もうすこーしペースアップせえへんか?」
「いや、堅実にいくぞ。今はちゃんと休むんだ」
「そうだよ~、小さな傷なら私の《回復》で治せるけど、疲れまでは癒せないんだから。それに今だってスルフを治すのに使った魔力、回復しておきたいし~」
「はぁ、さよか」
スルフの態度の端々に「ソルトがいなくても自分達は同じようにできるだろ」と言う思いが見てとれる。
彼がソルトの力に嫉妬するのは仕方ないことだ。だって、俺自身もソルトの力には嫉妬するし、それに憧れもする。
「なあミント。ソルトは前からあんなにつよかったのか?」
「え?」
パーティーの雰囲気があまり良くないことと、ソルトの力の事を考えていたら、つい、ミントにソルトのことを聞いてしまった。
「あいつは前からあんなに強かったのか?」
「あ~、それ私も聞きたいわ~」
「聞き、たい」
「……まあ、聞いたるわ」
「えっと……そうですね……」
ミントがパーティーを組んでいた時の話は、自分にも経験のある話だった。
一階層で一回戦っただけで街に戻る事になったり、スキルを手に入れて一気に探索や戦いの幅が広がったりといった、初心者なら誰でも経験するような話ばかりだった。
ただ、その中でソルトだけがスキルを手に入れることがなかったのだという。
スキルは迷宮内で生きていく為には必須の力だ。もし探索者を辞めたとしても、迷宮の街サウススフィアで暮らしていくなら、何らかの役立つ力があった方が生きやすい。
レベルが一〇を超えてもスキルを手に入れられなかったとしたら……ラングル達は改めてその恐ろしさを思って恐怖した。
その頃から、ソルトは二刀流の真似事を始めたのだそうだ。パーティーの構成上、アタッカーがいないのだからスキルのない彼が、スキルがなくてもできるのはそのポジションだけだったのだ。
長剣を片手で振る、と言うのは実はなかなか難しい事だ。何キロもある重くて長い棒など構えるだけでも大変だし、振れば両手で持っていても体が持ってかれるほどの反動がある。
ただ、剣士や戦士などのスキルを手に入れると、その重たいはずの剣を、自分の手足のように振ることができるようになる。
それなしで両手で剣を自由自在に振れるようになったのだとしたら、ソルトの地力はとんでもないものだろう。
もちろん、訓練さえ積めば重たい物を持てるようになるだろうし、剣だって戦いで使えるレベルにする事はできるだろう。迷宮に入ることのできない、外にいる者達だって武器を手にして戦っているのだから。
「ソルトの奴、もしかして気がついてなかっただけで実は《剣士》のスキルを持ってたんじゃないのか」
「それはないと思います。ずっと悩んでましたし、その……レベルアップしてもスキルが手に入らなくて泣いてる所も見たことがあるから……」
「そ、そうか……」
「じゃあ、ソルトのあの二刀流や異常なまでの威力のあの一撃は努力の結果、ってことかいな……」
「確かに魔法以外のスキルは努力で身に付けられない事もないんだろうが……想像を絶する話だな」
「ソルト、私達とパーティーを解散してから他の人とパーティーを組んでたことがあるんです。その時にもスキルがないことが原因で解散する事になったって聞きました。その「能無し」って言葉で……その時、色々な事、その、私達の最初のパーティーの解散とか、そういうのが重なってのことだと思うんですけど、ショックで耳が聞こえなくなってしまったらしくて……そういうことがあったって聞いてるので、だから、本当に最近になって《水魔法》を手に入れたんだと思います」
「え~……ソルト可哀想~」
「ミツキさんの前にもパーティーを組んでた奴がいたのか」
「ソルト……楽して強くなったわけやなかったんか……」
「ソルト、凄い。私も分か、る、少しだけ」
フォレストは《探索者》と言うスキルを持っているが、それには戦闘で使えるような攻撃的なものがない。魔物の攻撃を避けるのも、弱ってる魔物にとどめを刺すのも全部自分自身の力でやらなければならない。
パーティーに非常に役に立ってくれているが、戦闘面でのことを考えると、ソルトの苦労が理解できるのかも知れない。
「実はな、情けない話なんだが、俺は少しソルトの強さに嫉妬してたんだ。なんであいつはあんなに強いんだろう、ってな」
俺は自分の醜い部分をみんなに話すことにした。
「俺よりもレベルが低いはずなのに、明らかに俺よりも強いことに苛つく時もある。何か隠してるんじゃないか、ってな。でももう、隠してるなら隠してるでもいいし、努力で強くなったっていうならそれも信じることにする。うじうじして自分の弱さ自体に苛つくのも疲れるだけだしな。こんなのがリーダーですまん」
そう言って、俺はあぐらをかいたまま、地面に頭が付くくらい頭を下げた。
「そんなん言われたら俺もそうや……あとから来た奴に抜かれたような気がして腹立つ時がなんべんもあったわ。でもまあ、ソルトの昔のつらくて情けない頃の話聞いたら、そんなん思ってた自分のが情けなくなってきたわ」
「へぇ~、抜かれたような「気がする」だけなの~?」
「むぐっ」
「ニーシム、いじめ、だめ」
「いや、ええんや。確かにな。認めといた方が後々やりやすいからな。そやね、俺はソルトよりも弱いんやろな」
「スルフさん……」
「でも、俺にもパーティーでできることがある。だからもう、ソルトと自分を比べたりせん」
「ん。えらいえらい」
そう言ってスルフの頭を撫でるニーシム。いや、俺が言った事、全部スルフに持っていかれてしまったな。
「ラングルも、えらい。鈍感、だけど」
そう言って、フォレストが俺の頭をポンポンと叩いた。何年かぶりに誰かに子供扱いされた気分だ。
しかし、スルフも俺と同じようなことを思ってたんだな……ああ、もしかして鈍感ってこのことか?
つまり俺だけ気づけてなかったってことか。
ってことはソルトも気づいてたってことなのか?
ミントとのパーティーの解散、スキルが手に入らなかったことで耳が聞こえなくなる程のストレス、ミツキさんとの別れ。
俺はそんな奴に嫉妬して、それが周りから見て分かるような態度をソルトに対してとってたってのか。
自分の拳で自分の顔を思い切り殴ってみた。
ソルトはこれよりも痛い思いをしてたんだろうな。勝手に晴れ晴れとした気分になってる場合じゃないな、これは。くそっ。
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