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三階層の門番 五竜
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三メートルもある魔人像を百体。
更に十メートル以上もある空飛ぶ巨大な魔人像。
それを討伐できる強さを持つ上位探索者パーティー三組、十六人。
その十六人でも倒せないほどに強いという五竜という魔物。
僕らは今、その五竜がいる三階層に降りる螺旋状の斜面を歩いている。
「新人よ、手はず通りにな」
カインが僕の肩を叩きながら気安く言う。
カインの言った「手はず」と言うのは、言うだけなら非常に簡単なものだ。
重戦者隊とカインのところのタンカー(マーモ)の五人が五竜のそれぞれの首を引き付ける。
五竜が一斉に炎の息吹を吐いたら、その吐き終わりにアタッカーが突撃して首を全て落とす。アタッカーはカイン、ミレニア、レッティ、ゴードン、ソルト。
アタッカーは落とした首にとどめを刺す。
残りの者は、首がなくなった五竜本体の首の付け根に攻撃をし続けて首を生やさせないようにする。
落ちた首にとどめを刺したアタッカーは、五竜本体に攻撃をする。
五竜が吐くブレスは、白い炎で麻痺と毒の効果があるので要注意。
首は落ちてからの方が動きが速いから気をつけろ。
あまりにも簡単な事のように説明するので、つい疑問に思って聞いてしまったのは失敗だった。
「そこまで分かっててなんで勝てないんですか」
「勝てないのではないよ。今までは情報を集めていただけだからね。はぁ、凡人はこれだから困る」
「あ、すみません」
僕は反射的に謝ってしまった。今の言い方は彼らのプライドを傷付ける言い方だったかも知れない。
「なぁに言ってんだい。あんたらはもう五回目の挑戦なんだろ? だいたい最初の戦いで三人も死なせてんだろうに。ってことは何かい、その三人は情報集めで死なせたってことかい?」
「くっ、彼らの死を馬鹿にするのか? 許さんぞ!」
「あたしゃ、「死んだ奴らを馬鹿にしてんのはお前だろ」って言ってんだよ。何が英雄だい、馬鹿馬鹿しい」
「「カイン様!」」
立ち上がって背中の大剣の柄を握ったカインを、スマッシャーズの二人が必死に押さえる。
「ラナ、ケイシャ、どきたまえっ!」
「そこら辺でいい加減にしておけ」
更にカインを止めたのはサブマスだ。
「どのパーティーが挑んでも勝てなかった五つの首を持つ竜にもう一度挑もうと言うんだ、ピリピリするのは分かる。お前が仲間の敵を討ちたいのも分かる。だが、今、お前がレイドパーティーを組む仲間に向かって剣を抜こうとするのは認められん」
「しかしこの女はザイード達の死を馬鹿にしたのだぞ」
「俺もお前の言った言葉はどうかと思うぞ。お前は自分が「情報収集の為に仲間を死なせた」と言ったようなものだと気がついてないのか?」
「くっ、そんなつもりで言ったのではない」
「なら、力が足りずに撤退したんだってことを認めなってんだよ」
「それを言ったらお前達だって」
「ああ、あたしらは五竜の首一本切り落とすのがやっとだったよ。落ちた首が蛇みたいに動き回って、そいつを倒すまでの間に、切り落としたはずの首が生えてきたのを見て無理だと判断して撤退した。自分達が無敵だなんて馬鹿な事は思ってないからね。そんな馬鹿は迷宮で長生きできないだろ」
「我等もだ。何とか攻撃は押さえられたものの、きゃつを削り落とす事はできなかった。だが、自惚れではなく、一人一本の首を押さえ込むことはできると把握している。今回の作戦通り、あと一人にも我等と同じように一本を抑えてもらえるのなら、そしてアタッカーがその役割を果たせるのなら勝ち筋があると考えている。だが、それは余裕などない戦いの果てにあるだろう」
「やってみせますよ」
重戦者隊リーダーのザイアンが言うと言葉が重い。そして、その言葉に、もう一人のタンカーとなる予定のスマッシャーズのマーモが真面目に返事をした。
「俺もだよマーモ。首一本は確実に落としてやるさ。そして落とした首は確実にとどめを刺してやる。俺が真ん中の首をやる。いいな?」
「ああ、既に決まった話に文句は言わないよ。あたしはその向かって左の首だ」
「わたしは一番左端~」
真ん中をカイン、その左をミレニア、一番左端はレッティだ。
「悪いんだが、拳で戦う俺が首を落とすのは、正直な所無理だからな。イリヤかデンドルッフが担当した方がいいと思うんだがな」
「ギルドもたまにま働きな」
「ロートル引っ張り出しておいて何を偉そうに」
「まあ、ソルトがサクッと右端の首を片付けて手伝ってくれんだろうよ。な?」
「いやいや、見たこともない魔物と戦うのに僕からは何とも言えないですよ。ただ、右端の首が僕の担当だ、ってことは理解してますとしか……」
「大丈夫だよ。さっきの戦いを見た限りじゃ、ソルトなら下手したら一撃で首落とすって~」
「うわ、やめて下さい」
後ろからレッティに抱きつかれた僕は、体を振って彼女を振りほどいた。
更に十メートル以上もある空飛ぶ巨大な魔人像。
それを討伐できる強さを持つ上位探索者パーティー三組、十六人。
その十六人でも倒せないほどに強いという五竜という魔物。
僕らは今、その五竜がいる三階層に降りる螺旋状の斜面を歩いている。
「新人よ、手はず通りにな」
カインが僕の肩を叩きながら気安く言う。
カインの言った「手はず」と言うのは、言うだけなら非常に簡単なものだ。
重戦者隊とカインのところのタンカー(マーモ)の五人が五竜のそれぞれの首を引き付ける。
五竜が一斉に炎の息吹を吐いたら、その吐き終わりにアタッカーが突撃して首を全て落とす。アタッカーはカイン、ミレニア、レッティ、ゴードン、ソルト。
アタッカーは落とした首にとどめを刺す。
残りの者は、首がなくなった五竜本体の首の付け根に攻撃をし続けて首を生やさせないようにする。
落ちた首にとどめを刺したアタッカーは、五竜本体に攻撃をする。
五竜が吐くブレスは、白い炎で麻痺と毒の効果があるので要注意。
首は落ちてからの方が動きが速いから気をつけろ。
あまりにも簡単な事のように説明するので、つい疑問に思って聞いてしまったのは失敗だった。
「そこまで分かっててなんで勝てないんですか」
「勝てないのではないよ。今までは情報を集めていただけだからね。はぁ、凡人はこれだから困る」
「あ、すみません」
僕は反射的に謝ってしまった。今の言い方は彼らのプライドを傷付ける言い方だったかも知れない。
「なぁに言ってんだい。あんたらはもう五回目の挑戦なんだろ? だいたい最初の戦いで三人も死なせてんだろうに。ってことは何かい、その三人は情報集めで死なせたってことかい?」
「くっ、彼らの死を馬鹿にするのか? 許さんぞ!」
「あたしゃ、「死んだ奴らを馬鹿にしてんのはお前だろ」って言ってんだよ。何が英雄だい、馬鹿馬鹿しい」
「「カイン様!」」
立ち上がって背中の大剣の柄を握ったカインを、スマッシャーズの二人が必死に押さえる。
「ラナ、ケイシャ、どきたまえっ!」
「そこら辺でいい加減にしておけ」
更にカインを止めたのはサブマスだ。
「どのパーティーが挑んでも勝てなかった五つの首を持つ竜にもう一度挑もうと言うんだ、ピリピリするのは分かる。お前が仲間の敵を討ちたいのも分かる。だが、今、お前がレイドパーティーを組む仲間に向かって剣を抜こうとするのは認められん」
「しかしこの女はザイード達の死を馬鹿にしたのだぞ」
「俺もお前の言った言葉はどうかと思うぞ。お前は自分が「情報収集の為に仲間を死なせた」と言ったようなものだと気がついてないのか?」
「くっ、そんなつもりで言ったのではない」
「なら、力が足りずに撤退したんだってことを認めなってんだよ」
「それを言ったらお前達だって」
「ああ、あたしらは五竜の首一本切り落とすのがやっとだったよ。落ちた首が蛇みたいに動き回って、そいつを倒すまでの間に、切り落としたはずの首が生えてきたのを見て無理だと判断して撤退した。自分達が無敵だなんて馬鹿な事は思ってないからね。そんな馬鹿は迷宮で長生きできないだろ」
「我等もだ。何とか攻撃は押さえられたものの、きゃつを削り落とす事はできなかった。だが、自惚れではなく、一人一本の首を押さえ込むことはできると把握している。今回の作戦通り、あと一人にも我等と同じように一本を抑えてもらえるのなら、そしてアタッカーがその役割を果たせるのなら勝ち筋があると考えている。だが、それは余裕などない戦いの果てにあるだろう」
「やってみせますよ」
重戦者隊リーダーのザイアンが言うと言葉が重い。そして、その言葉に、もう一人のタンカーとなる予定のスマッシャーズのマーモが真面目に返事をした。
「俺もだよマーモ。首一本は確実に落としてやるさ。そして落とした首は確実にとどめを刺してやる。俺が真ん中の首をやる。いいな?」
「ああ、既に決まった話に文句は言わないよ。あたしはその向かって左の首だ」
「わたしは一番左端~」
真ん中をカイン、その左をミレニア、一番左端はレッティだ。
「悪いんだが、拳で戦う俺が首を落とすのは、正直な所無理だからな。イリヤかデンドルッフが担当した方がいいと思うんだがな」
「ギルドもたまにま働きな」
「ロートル引っ張り出しておいて何を偉そうに」
「まあ、ソルトがサクッと右端の首を片付けて手伝ってくれんだろうよ。な?」
「いやいや、見たこともない魔物と戦うのに僕からは何とも言えないですよ。ただ、右端の首が僕の担当だ、ってことは理解してますとしか……」
「大丈夫だよ。さっきの戦いを見た限りじゃ、ソルトなら下手したら一撃で首落とすって~」
「うわ、やめて下さい」
後ろからレッティに抱きつかれた僕は、体を振って彼女を振りほどいた。
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