プレーヤープレイヤー

もずく

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三階層の門番 ヒュドラ

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 三本以上の首を持つドラゴンの伝説はいくつか聞いたことがある。
 その伝説のどれもが、最終的には人間の勇者や英雄が打ち倒すハッピーエンドだったはずだ。
 だからと言うわけではないけど、英雄カインのいるこのレイドパーティーが負けるはずが無いのだと、カインは自信満々に語った。
 それに賛同の声を上げたのはスマッシャーズの面々だけだったが、それでも声が上がった事で、その場の士気が上がったような気がした。

 だが、ほんの少し先にヒュドラの姿がみえたその時。
「では行くぞ!」
 先陣を切るのはカインではないはずなのだが、何故かカインがヒュドラの前まで駆け出て行ったのだった。

「手はず通りにな」

 そう言った本人が、手はずを守らず敵に突撃し、タンカーがヒュドラに辿り着く前に、唐突に戦闘が始まったのだった。

あんたらスマッシャーズの責任であの馬鹿を下がらせてきな。そうしないと死ぬよ、あのクソ馬鹿は」
「なっ、カイン様をクソ馬鹿呼ばわりなど」
「ラナ、今はそれどころじゃないよ。マーモ、お願い」
「りょーかい」
 スマッシャーズの存在は、傍から見てると最早出来の悪いコメディだ。リーダーのカインはパーティーの仲間ラナとケイシャからはご主人様のように思われているようだけど、マーモや他の人達は少し呆れて「またか」と言った顔でフォローに動き出した。
 ちなみに、これがコメディの舞台だった場合、ミレニアはカインの良き相棒であり、僕らは全員観客などではなく、ヒュドラにドカンと派手にやられてブレスでまっ黒焦げになる役割だ。
 そしてこれは現実であり、つまり、コメディであろうが現実であろうが、僕らの命はカインの理解できない突撃に翻弄されているわけだ。

「自分で言ったことくらい守ろうよ」
「すみませんです……」
 誰にも聞こえないくらいの声で呟いたつもりだったんだけど、いつの間にか僕の横を歩いていたスマッシャーズの剣士デンドルッフが、申し訳無さそうに返事をしてきて驚いた。そう言えばこの人も《気配消し》を持ってるんだったっけ。
「あー、いえ、こちらこそ、新人風情が生意気なこと言ってすみません」
「いえいえこちらこそすみませんです」
 お互いに謝りながら、僕達はヒュドラとの距離を詰めていったのだった。



「ラナ、回復を」
「分かってるわ。《中位回復》!」
「くっ……ふぅ、すまない。助かった……が、体の痺れが取れてない……」
 案の定と言うか何と言うか。
 カインはヒュドラの攻撃を受け、ダメージを負うと共に麻痺の状態異常までもらってきたようだ。ラナとケイシャが彼をヘルプしている。
「麻痺解除は……重戦者隊のグファーダさんかヴァイオレットレインのイリヤしか」
「グファーダさんはもう前に出てヒュドラと戦い始めてるわ」
 ラナは光魔法を使えるが、《麻痺解除》は覚えていない為、他のパーティーに頼らざるを得ないのだが、どうにもヴァイオレットレインには頼りたくないようだ。
「ラナ、麻痺解除のポーションはどうしたのよ」
「もう使い切ってしまったのよ!」
「なんでさっき言わなかったの」
「カイン様がそんな物なくても行けるって……」



 戦いは続いていた。
 ミレニアとサブマスの方で、とりあえずこのままやってみる事を決めたからだ。
「マーモはこのまま前で仕事をしてくれるとして、ラナとケイシャ達が作戦通りに動いてくれるかどうかだな」
「カインさんの麻痺、解除してあげなくていいんですか?」
「まあ、撤退する事が決まった時にイリヤに頼むとするさね。今はヒュドラに集中しな」
「は、はい」
 ミレニアさんは堂々としてて迫力がある。ついつい緊張してしまう。
「そろそろだね」
「ああ」
「ソルト~、出し惜しみはなしで全力でやるんだよ?」
「え? あ、はい。もちろんですよ」
 レッティに全力でやれ、と言われて、《一撃》を使うかどうか迷ってたのを見透かされてしまった気がした。
 そうだよね。みんなが全力で戦うって時に、僕なんかが手を抜いて突っ込むのは愚の骨頂だよね。自分の身も危険だし、戦線崩壊に繋がる可能性もあるんだから、全力でやろう。
 手を抜いたりしたら、麻痺解除ポーションをいらないと言ったカインと同じになってしまう。

 その時、竜の五つの首が天井を見上げ、喉を大きく膨らませたのが見えた。
「来るぞ!」
「「「「おう!」」」」
 ザイアンの声に他の四人のタンカーが大きな声で応える。

「いいかい、ブレスの吐き終わり、だからね」
「ああ」
「は~い」
「はい!」
 アタッカーもミレニアの言葉に応える。

「私達は首が落ちた箇所に魔法と矢で追撃するからね。スマッシャーズの皆さんもも分かりましたか?」
「「オーケー!」」
「分かりましたわ」
「仕事はきっちりします。ですから後でカイン様の麻痺を」
「分かってます。でも後でね。今は魔力をタンカーの回復の為に無駄にできないから」
「分かってるわ。でも約束よ? ムゴール、デンドルッフは後衛の位置まで首が来た時に備えなさい。ワッキーは《火弾》よ」
「「「はっ!」」」
 後衛の人達もなんとか作戦通りに動いてくれるようだ。

 そして、白く眩くブレスが五本の首から吐き出された。
 タンカー達は頭上に大きな盾を持ち上げ、後ろにいる僕らにブレスの余波が届かないように前や横に反らしてくれている。
「あと少しである!」
「「「「おう!」」」」
 タンカー達の気合の声が、細くなりつつあるブレスの音を掻き消さんばかりに、三階層最初の空洞に響き渡った。
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