プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
61 / 118

三階層の門番 ヒュドラ

しおりを挟む
 三本以上の首を持つドラゴンの伝説はいくつか聞いたことがある。
 その伝説のどれもが、最終的には人間の勇者や英雄が打ち倒すハッピーエンドだったはずだ。
 だからと言うわけではないけど、英雄カインのいるこのレイドパーティーが負けるはずが無いのだと、カインは自信満々に語った。
 それに賛同の声を上げたのはスマッシャーズの面々だけだったが、それでも声が上がった事で、その場の士気が上がったような気がした。

 だが、ほんの少し先にヒュドラの姿がみえたその時。
「では行くぞ!」
 先陣を切るのはカインではないはずなのだが、何故かカインがヒュドラの前まで駆け出て行ったのだった。

「手はず通りにな」

 そう言った本人が、手はずを守らず敵に突撃し、タンカーがヒュドラに辿り着く前に、唐突に戦闘が始まったのだった。

あんたらスマッシャーズの責任であの馬鹿を下がらせてきな。そうしないと死ぬよ、あのクソ馬鹿は」
「なっ、カイン様をクソ馬鹿呼ばわりなど」
「ラナ、今はそれどころじゃないよ。マーモ、お願い」
「りょーかい」
 スマッシャーズの存在は、傍から見てると最早出来の悪いコメディだ。リーダーのカインはパーティーの仲間ラナとケイシャからはご主人様のように思われているようだけど、マーモや他の人達は少し呆れて「またか」と言った顔でフォローに動き出した。
 ちなみに、これがコメディの舞台だった場合、ミレニアはカインの良き相棒であり、僕らは全員観客などではなく、ヒュドラにドカンと派手にやられてブレスでまっ黒焦げになる役割だ。
 そしてこれは現実であり、つまり、コメディであろうが現実であろうが、僕らの命はカインの理解できない突撃に翻弄されているわけだ。

「自分で言ったことくらい守ろうよ」
「すみませんです……」
 誰にも聞こえないくらいの声で呟いたつもりだったんだけど、いつの間にか僕の横を歩いていたスマッシャーズの剣士デンドルッフが、申し訳無さそうに返事をしてきて驚いた。そう言えばこの人も《気配消し》を持ってるんだったっけ。
「あー、いえ、こちらこそ、新人風情が生意気なこと言ってすみません」
「いえいえこちらこそすみませんです」
 お互いに謝りながら、僕達はヒュドラとの距離を詰めていったのだった。



「ラナ、回復を」
「分かってるわ。《中位回復》!」
「くっ……ふぅ、すまない。助かった……が、体の痺れが取れてない……」
 案の定と言うか何と言うか。
 カインはヒュドラの攻撃を受け、ダメージを負うと共に麻痺の状態異常までもらってきたようだ。ラナとケイシャが彼をヘルプしている。
「麻痺解除は……重戦者隊のグファーダさんかヴァイオレットレインのイリヤしか」
「グファーダさんはもう前に出てヒュドラと戦い始めてるわ」
 ラナは光魔法を使えるが、《麻痺解除》は覚えていない為、他のパーティーに頼らざるを得ないのだが、どうにもヴァイオレットレインには頼りたくないようだ。
「ラナ、麻痺解除のポーションはどうしたのよ」
「もう使い切ってしまったのよ!」
「なんでさっき言わなかったの」
「カイン様がそんな物なくても行けるって……」



 戦いは続いていた。
 ミレニアとサブマスの方で、とりあえずこのままやってみる事を決めたからだ。
「マーモはこのまま前で仕事をしてくれるとして、ラナとケイシャ達が作戦通りに動いてくれるかどうかだな」
「カインさんの麻痺、解除してあげなくていいんですか?」
「まあ、撤退する事が決まった時にイリヤに頼むとするさね。今はヒュドラに集中しな」
「は、はい」
 ミレニアさんは堂々としてて迫力がある。ついつい緊張してしまう。
「そろそろだね」
「ああ」
「ソルト~、出し惜しみはなしで全力でやるんだよ?」
「え? あ、はい。もちろんですよ」
 レッティに全力でやれ、と言われて、《一撃》を使うかどうか迷ってたのを見透かされてしまった気がした。
 そうだよね。みんなが全力で戦うって時に、僕なんかが手を抜いて突っ込むのは愚の骨頂だよね。自分の身も危険だし、戦線崩壊に繋がる可能性もあるんだから、全力でやろう。
 手を抜いたりしたら、麻痺解除ポーションをいらないと言ったカインと同じになってしまう。

 その時、竜の五つの首が天井を見上げ、喉を大きく膨らませたのが見えた。
「来るぞ!」
「「「「おう!」」」」
 ザイアンの声に他の四人のタンカーが大きな声で応える。

「いいかい、ブレスの吐き終わり、だからね」
「ああ」
「は~い」
「はい!」
 アタッカーもミレニアの言葉に応える。

「私達は首が落ちた箇所に魔法と矢で追撃するからね。スマッシャーズの皆さんもも分かりましたか?」
「「オーケー!」」
「分かりましたわ」
「仕事はきっちりします。ですから後でカイン様の麻痺を」
「分かってます。でも後でね。今は魔力をタンカーの回復の為に無駄にできないから」
「分かってるわ。でも約束よ? ムゴール、デンドルッフは後衛の位置まで首が来た時に備えなさい。ワッキーは《火弾》よ」
「「「はっ!」」」
 後衛の人達もなんとか作戦通りに動いてくれるようだ。

 そして、白く眩くブレスが五本の首から吐き出された。
 タンカー達は頭上に大きな盾を持ち上げ、後ろにいる僕らにブレスの余波が届かないように前や横に反らしてくれている。
「あと少しである!」
「「「「おう!」」」」
 タンカー達の気合の声が、細くなりつつあるブレスの音を掻き消さんばかりに、三階層最初の空洞に響き渡った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...