初恋は倒錯的

雨宮柚晏

文字の大きさ
2 / 6
1.出会い

1-2

しおりを挟む
「早く着いてしまった…」
 
 時計は18時半を指している。気が急いでいたのか、随分早くに着いてしまった。予定の時間までどうしようか、そんなことを考えていた矢先のことだった。
 
「あっ!」
 
 体がよろける。考え事をしていたせいか、つまずいてしまった。しかし、気がついた時にはどうすることも出来ず、前を歩いていた人へと吸い込まれていく。
 
「す、すいません!!」
 
 目の前を歩いていた人は楽曲ケースを背負っており、それにぶつかってしまった。振り向いた相手は20代後半くらいで黒髪のくせ毛、優しそうな顔をした男性だった。
 
「僕は大丈夫だよ。ゲガはない?」
「は、はい。大丈夫です!本当にすいません!!あの、その、楽器は大丈夫でしょうか…」

 パッと見で質の良さそうなケースだとわかる。楽器は高価なものも多い、壊してしまっていたらどうしようかという不安が過る。
 
「ああ、楽器なら心配しなくていいよ?怪我がなかったなら良かった。それじゃ。」
そう言って歩き出す相手に会釈をする。
 
 
「痛ッ…。」
 
 どうやら、変な足の付き方をして捻ってしまったようだ。
 歩き出した楽器の彼が振り返り、心配そうにこちらを見る。
 
「大丈夫?じゃなさそうだね。どこが痛いの?」
「あの。大丈夫です。ご迷惑を…」
「いいよ、時間もあるし、足が痛むの?そこのファミレスまで歩ける?冷やした方がいい。」
 
 どうやら、相手に左足を庇った動きから悟られてしまったようだった。
 
 彼はゆっくりと歩いて僕のペースに会わせてくれた。申し訳なさで何も言えないでいると、店にはすぐに着き、席まで案内されてしまった。楽器の彼は店員に言って氷の入った袋を持ってきてくれた。足は冷やしていると少しずつ痛みが引いていく。
 
「僕はお腹すいたから、なにか食べようと思うけど、君もどう?」
「えっと、すきました…。」
「それなら、一緒に食べよう。」
 
 その後、ご飯を食べながら何気ない会話をした。どうやら、この親切な人は八重坂やえさかさんという人で、普段は家でPCを使って仕事をしていているらしい。今日はちょっとしたショーの予定があるため、出てきていたそうだ。
 
 話していると楽しく、時間はあっという間に過ぎていった。ファミレスに着いたときは18時40分頃だったのに、既に一時間近くが経過していた。
 八重坂さんは時計を確認すると話を切り上げる。
 
「さて、そろそろ行かなきゃいけないから、東雲くんはゆっくりしていってね。」
「何から何までありがとうございました。」
 
 そう言うと微笑んで八重坂さんは伝票を持っていってしまう。
 
「あの!ご迷惑をお掛けしたのでお会計はっ」
「気にしなくていいよ。学生に奢ってもらうほど困ってないから安心して。」
「すいません。ありがとうございます。」
 
 
 彼は手を振り、店から出ていった。
 この頃になると、足の痛みも随分と良くなった。思いの外楽しい時間を過ごしたと東雲は一人笑みをこぼす。20分ほどのんびりすると、東雲も席を立った。
 もちろん、バーへ向かうためにだ。
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...