4 / 60
4話 婚約破棄されたので便乗しました②
しおりを挟む
「なんだ!? 人が話しているのにさえぎ——」
「婚約破棄に異論はございませんが、そんなことで処罰するなど今さらですわ」
「なっ——」
「たかだか義妹に懸想する殿方を誘惑したくらいなんですの? 誘いに乗るお相手にも非があるでしょう? それに毎晩遊び歩いているとおっしゃいますが、結婚前に羽目を外しただけです。ロベリアをメイドのように扱っていたのも躾の一環ですわ。伯父様たちも口うるさいだけの古風な人間で窮屈に感じてましたの」
アマリリスがスラスラと肯定すると、ダーレンの顔がみるみる真っ赤になっていく。怒りを逸らすことができるなら、逆もまた然り。相手の逆鱗を突くことも簡単だ。
ダーレンは能力も自信もないがプライドが高く、弱い立場や見下している相手には横柄な態度を取る。だからアマリリスから馬鹿にされたような態度を取られるのは、耐えきれないくらいの屈辱を生むのだ。
(もう少し追い討ちをかけないと。たとえ国外追放までいっても、最悪、命さえあればなんとかなるわ)
誰もがうっとりするような妖艶な笑みを浮かべて、ダーレンを小馬鹿にするような言葉を続けた。
「あら、ここにいらっしゃる皆様がご存じのことですわよ?」
アマリリスの言葉にダーレンの視線は周囲をキョロキョロと見回した。概ね自分と同じ反応でホッとしたのも束の間、続いたアマリリスの毒舌に言葉を失う。
「それに皆様物足りませんでしたので、いいタイミングでしたわ。一番器が小さくてつまらなかったのはダーレン様ですけれど。本日はちょうど伯父様もいらしてるので、このまま冴えないおふたりで婚約でもなんでも結べばよろしいわ。私、もう疲れたのでこれで失礼いたします」
アマリリスは思いっ切り冷めた視線をダーレンに向け、そのまま会場を後にした。
ダーレンは怒りのあまりなにも言えず、その鬱憤をエイドリックへぶつけ、アマリリスの厳しい処罰を求めたのだった。
御者のサイモンはアマリリスを屋敷で降ろして、そのまま会場に逆戻りしていった。屋敷に戻ったアマリリスはすぐに一張羅のモスグリーンのワンピースに着替える。
脱いだドレスは二階の衣装部屋へと戻し、パーティーのための派手な厚化粧もすべて落として、ふうとひと息つく。
今頃はダーレンとロベリアの婚約を結ぶため、両家で話をしていることだろう。王族も参加していたパーティーでアマリリスは悪女でどうしようもないと印象付け、ダーレンも煽ったのできっと厳しい処罰が下される。
(……ここまでやれば、貴族籍から除籍か、王都追放、もしくは国外追放かしら? それとも、お金目当てで悪趣味な貴族に売り飛ばされる?)
物置部屋だったアマリリスの私室には、小さなクローゼットと机とベッドがひとつあるだけだ。
クローゼットにかけられたワンピースをボストンバッグへ詰めていく。机には使用人たちからもらった誕生日プレゼントのガラスペンや、花柄のしおりと、それからアマリリスの花が刺繍されたハンカチ。
アマリリスは持っているものを全部売って隣国まで行くつもりだった。隣国に着いたら住み込みで働けるところを探して雇ってもらおうと考えている。
小さなボストンバッグでも余るくらいの荷物をまとめて、休む間もなく部屋を出た。
(ふふっ、ここは進んで国外追放されましょう)
もうダーレンの婚約者でないから、エミリオに見つかる前に姿を消すため、今夜のうちにクレバリー侯爵家から出ていくつもりだった。
優しくしてくれた使用人たちが心配しないように、ケヴィンのもとを訪れる。今日は伯父たちがパーティーだから、私室で仕事をしながら帰りを待っているはずだ。
アマリリスはケヴィンの部屋の扉をそっとノックする。
「ケヴィン、忙しいところごめんなさい。今大丈夫かしら?」
「婚約破棄に異論はございませんが、そんなことで処罰するなど今さらですわ」
「なっ——」
「たかだか義妹に懸想する殿方を誘惑したくらいなんですの? 誘いに乗るお相手にも非があるでしょう? それに毎晩遊び歩いているとおっしゃいますが、結婚前に羽目を外しただけです。ロベリアをメイドのように扱っていたのも躾の一環ですわ。伯父様たちも口うるさいだけの古風な人間で窮屈に感じてましたの」
アマリリスがスラスラと肯定すると、ダーレンの顔がみるみる真っ赤になっていく。怒りを逸らすことができるなら、逆もまた然り。相手の逆鱗を突くことも簡単だ。
ダーレンは能力も自信もないがプライドが高く、弱い立場や見下している相手には横柄な態度を取る。だからアマリリスから馬鹿にされたような態度を取られるのは、耐えきれないくらいの屈辱を生むのだ。
(もう少し追い討ちをかけないと。たとえ国外追放までいっても、最悪、命さえあればなんとかなるわ)
誰もがうっとりするような妖艶な笑みを浮かべて、ダーレンを小馬鹿にするような言葉を続けた。
「あら、ここにいらっしゃる皆様がご存じのことですわよ?」
アマリリスの言葉にダーレンの視線は周囲をキョロキョロと見回した。概ね自分と同じ反応でホッとしたのも束の間、続いたアマリリスの毒舌に言葉を失う。
「それに皆様物足りませんでしたので、いいタイミングでしたわ。一番器が小さくてつまらなかったのはダーレン様ですけれど。本日はちょうど伯父様もいらしてるので、このまま冴えないおふたりで婚約でもなんでも結べばよろしいわ。私、もう疲れたのでこれで失礼いたします」
アマリリスは思いっ切り冷めた視線をダーレンに向け、そのまま会場を後にした。
ダーレンは怒りのあまりなにも言えず、その鬱憤をエイドリックへぶつけ、アマリリスの厳しい処罰を求めたのだった。
御者のサイモンはアマリリスを屋敷で降ろして、そのまま会場に逆戻りしていった。屋敷に戻ったアマリリスはすぐに一張羅のモスグリーンのワンピースに着替える。
脱いだドレスは二階の衣装部屋へと戻し、パーティーのための派手な厚化粧もすべて落として、ふうとひと息つく。
今頃はダーレンとロベリアの婚約を結ぶため、両家で話をしていることだろう。王族も参加していたパーティーでアマリリスは悪女でどうしようもないと印象付け、ダーレンも煽ったのできっと厳しい処罰が下される。
(……ここまでやれば、貴族籍から除籍か、王都追放、もしくは国外追放かしら? それとも、お金目当てで悪趣味な貴族に売り飛ばされる?)
物置部屋だったアマリリスの私室には、小さなクローゼットと机とベッドがひとつあるだけだ。
クローゼットにかけられたワンピースをボストンバッグへ詰めていく。机には使用人たちからもらった誕生日プレゼントのガラスペンや、花柄のしおりと、それからアマリリスの花が刺繍されたハンカチ。
アマリリスは持っているものを全部売って隣国まで行くつもりだった。隣国に着いたら住み込みで働けるところを探して雇ってもらおうと考えている。
小さなボストンバッグでも余るくらいの荷物をまとめて、休む間もなく部屋を出た。
(ふふっ、ここは進んで国外追放されましょう)
もうダーレンの婚約者でないから、エミリオに見つかる前に姿を消すため、今夜のうちにクレバリー侯爵家から出ていくつもりだった。
優しくしてくれた使用人たちが心配しないように、ケヴィンのもとを訪れる。今日は伯父たちがパーティーだから、私室で仕事をしながら帰りを待っているはずだ。
アマリリスはケヴィンの部屋の扉をそっとノックする。
「ケヴィン、忙しいところごめんなさい。今大丈夫かしら?」
応援ありがとうございます!
8
お気に入りに追加
3,523
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる