お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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お見合いパーティー その2

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 失礼があってはマズイと思い、手についたお菓子の粉をパタパタと払って、椅子からガタンと立ち上がる。
 
 なな、なんて言うんだっけ!挨拶!ま、まて!その前にお辞儀だ、女性式のアレ!とりあえず足を引け!
 
 カーテシーをしようとした私の足は、あらぬスピードで後ろへと引き下がり、思い切りバランスを崩す。
 
 前方に転げると思った瞬間に、そばまで来ていた、クルス王子は、私の手をとるでも、体を支えるでもなく、両手で頬を潰すように、バシッと私の顔面を掴んだ。
 
「んぐっ」
「……、……」
 
 お辞儀に大失敗して、一人で転倒しそうになった挙句に、ブサイクに潰された顔をクルス王子に凝視される。
 
 無様にも程がある!!
 
 ……?
 どうしたんだろう。
 
 クルス王子は私の顔をじっと見て、眉間に皺を寄せて、目を細める。
 
 そんなにじっと見なくたって、こんなに至近距離に居るんだ、私のへちゃむくれた顔は、よく見えてるんじゃないだろうか。

 ……!まさか食べカスでもついてる?さっき食べたクッキーか?!
 ちくちょう。
 
「あ、あの……」
「……っ!すまない」
 
 私が声をかけると我に帰ったように、クルス王子はパッと手を離す。

 私は何とか体勢を立て直し、口元をパッと払って、改めてニッコリ笑ってお辞儀をする。
 
「失礼いたしました。私はロイネ・フォン・テラストと申します、この度はお招き頂き、感謝致します」
 
 もっと長く丁寧な初対面の挨拶はあったが、失態の後だと決まりが悪い。恥ずかしさから、上品な笑顔とは程遠く、口を開けてえへへと笑ってしまう。
 
「あぁ、挨拶はいい。……こちらも失礼した、女性の顔に触れるなど不躾であったな」
  
 そう言いつつも、クルス王子は、私の手を取って、右手の聖痕を確認する。

 その、いきなり聖痕を確認する行為の方が余程不躾であるような気がするが、それはいいんだろうか。
 
 もっと地位の高い王族にやったら、大変な事だ。絶対やめた方がいい。
 まぁ、私の手の甲などは、見られて困るものはないので、そのままにしていると、クルス王子は私の手を擦るように指の腹で撫でる。
 
「……なぜ」
「なぜって……さすっても聖痕は、出てきませんよ」
「そんな事は知っている」
 
 本当に残念そうな顔をする彼に、私は適当にそう言った。知っているなら、手を離して欲しい。

 ……しかし、クルス王子は、どうして、こんな事をしているのだろう。こうやって、私の手を見て落胆するという事は、聖痕のはっきりとした身分の高い結婚相手でも探しているのだろうか。

 でも、はっきりとした聖痕を探したところで、身分が高いとは限らない、タリスビアに来ている時点で、マナンルークの中でも立場の弱い姫達だ。
 
 そのぐらいは、わかっていると思うだけど……?
 
「……お前は他の者とは、反応がずいぶん違うのだな」
 
 心臓がドキッと鳴る。砕けた言葉で喋ってしまったことだろう。

 仕方ないじゃないか!
 こんなところに田舎住まいの公爵令嬢を引っ張り出して、礼儀作法に乗っ取れと言われても無理だ!社交の経験など数える程しかないのに!
 
「…………揺れる宝石も、香水の香りもしない。……今日、見つからなければ、俺は婚約しなければならない」
「……え?」
「お前には、面影があるような気がする。……華奢で、すぐにへし折ってしまいそうな姫たちよりは、マシか」
 
 ひ、独り言多くない?
 意味不明だよ!
 
 ただ、意味が分からないからと言って、適当に返事をするわけにはいなない。「見つからなければ」「面影がある」と言う事は人でも探しているのか……?

 ……それもはっきりとした聖痕のある人を探しているのでは無く、聖痕を目印にして、人を探しているのか?そしてお見合いパーティの場で探しているということは、若い女性……。好きな人かな。

 そして、口ぶりからすれば、その相手はいなかったことになる。

 そんでもって、想い人は居なかったけれど、他の人間よりも私の方がマシかと言っている。え、えぇ……そんな展開は、困るんだけど……?
 私は、ここにお勤めに出てきただけなのだ。血筋の義務を果たすだけ。そして帰らなければならない場所がある。
 
 私は、彼の空色の瞳を見つめ返す。
 
「……クルス王子」
 
 ……他にもっと可愛い子がいるじゃないとか、もう少しじっくり考えた方がいいとか、何かしら、思いとどまらせようと言い訳を思い浮かべた。
 けれど、今ここにいる彼は、真剣に悩んで結婚を考える相手を探しているのだ、やんわりと拒否したり、先延ばしにするよりも、誠実に私の意見を伝えておいた方がいい。
 
「……帰らなければならない場所があるのです。誰かの代わりに嫁入りなど、出来ません」
 
 私が言い切ると、クルス王子は感心したように言う。
 
「お前は、怯えないのだな」
「……今の言葉、聞いてました?」
「我々は獣人だ、お前達より大きな力を持っている。お前は、触れても体が緊張していない、身分違いの相手に、意見するもの躊躇がない」
 
 その大きな耳は、お飾りなの?
 私はあからさまに眉を潜めるがクルス王子は気にしていない様子だ。
 
 彼は、掴んでいた右手を離して、良く手を見るために屈んでいた姿勢を正すと、大きくて威圧感があり、目を合わせようとすると、見上げるような形になる。
 
「……探し人の代わりでなくとも、一目でお前にしようと決めたと言えば、答えは変わるか」
 
 どうやら、私の言葉は届いていたようで、考慮された返事が返ってくる。話が通じることに、少し安堵したが……私をお嫁に、か。
 
 ……よく、さっきから今までの私の言動を見ていて、そんなことが言えるなと思う。私は、社交の役にだって立ちはしないし、容姿が特別整っているということも無い。

 それに、貴族の令嬢がみんな綺麗に伸ばしている髪だって無いのだ。一目惚れと言うには無理があるだろう。
 ……でも、本当にそうだったのなら嬉しい。がしかし、そう言ったら、答えは変わるかと問われただけだ。
 
 ……。
 
「魅力的ですけれど、そう言われたとしても、答えを変える気はありません。さっきまで、あんなに熱心に想い人を探していたのに、私にも一目惚れしていたなんて、ありえない話ですから」
 
 どうせ、もしもの話だ。クルス王子はどう聞いても、私だから求婚しようとしているのではなく、その面影があると言った、想い人の代わりにしたいだけだ。その事実は、どんな言葉を重ねようとも変わらない。
 
 代わりと分かっていても、こうして好意のようなものを向けてもらえて、嬉しいような……悲しいような。
 
 ……屋敷を出る時に言われたのだ、もしも結婚するのなら、何があっても私を尊重してくれる人にしなさいと。
 尊重してくれると言うのは、私の実家になる、公爵邸へそれ相応の支援をしてくれる人にしろと言うことだ。
 
 私も、面倒を見てもらっていたのだから、異存はない。でも私を結婚相手にするというのは、そういう面倒事も付きまとう。
 
 単なる勘だけど、クルス王子は悪い人では無さそうだし。……こういう私の事情も告げないで、媚びを売るような発言はしたく無かった。
 
 私が彼の目を真剣に見つめるとクルス王子も私の真意を確かめるようにじっと見つめ返してくる。

 彼の宝石のような海色瞳は、陽光を反射させて、キラキラと輝いている。

 数秒の沈黙の後、クルス王子はふっと笑い、耳を下げて、ふわっとしっぽを揺らす。
 
「だろうな。……すまない。もう少し考える事にする」
「はい……急いで決めなくても、私よりいい子は沢山いますよ。ほら、こっちをチラチラ見てます」
「あぁ、知ってる」
 
 まだまだ、相手を選ぶまでには、時間がある。
 実はこのお見合いパーティーは王子の相手が決まるまで、何日でも開催されるのだ。一人一人と話していけば、この子が良いと言う子に出会えるだろう。
 
 想い人がいなかったのなら、焦る必要はないのだ。
 いい相手が見つかるといいな。
 
 去っていく彼の大きな背中を見送って、私は椅子に座る。
 


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