2 / 139
お見合いパーティー その2
しおりを挟む失礼があってはマズイと思い、手についたお菓子の粉をパタパタと払って、椅子からガタンと立ち上がる。
なな、なんて言うんだっけ!挨拶!ま、まて!その前にお辞儀だ、女性式のアレ!とりあえず足を引け!
カーテシーをしようとした私の足は、あらぬスピードで後ろへと引き下がり、思い切りバランスを崩す。
前方に転げると思った瞬間に、そばまで来ていた、クルス王子は、私の手をとるでも、体を支えるでもなく、両手で頬を潰すように、バシッと私の顔面を掴んだ。
「んぐっ」
「……、……」
お辞儀に大失敗して、一人で転倒しそうになった挙句に、ブサイクに潰された顔をクルス王子に凝視される。
無様にも程がある!!
……?
どうしたんだろう。
クルス王子は私の顔をじっと見て、眉間に皺を寄せて、目を細める。
そんなにじっと見なくたって、こんなに至近距離に居るんだ、私のへちゃむくれた顔は、よく見えてるんじゃないだろうか。
……!まさか食べカスでもついてる?さっき食べたクッキーか?!
ちくちょう。
「あ、あの……」
「……っ!すまない」
私が声をかけると我に帰ったように、クルス王子はパッと手を離す。
私は何とか体勢を立て直し、口元をパッと払って、改めてニッコリ笑ってお辞儀をする。
「失礼いたしました。私はロイネ・フォン・テラストと申します、この度はお招き頂き、感謝致します」
もっと長く丁寧な初対面の挨拶はあったが、失態の後だと決まりが悪い。恥ずかしさから、上品な笑顔とは程遠く、口を開けてえへへと笑ってしまう。
「あぁ、挨拶はいい。……こちらも失礼した、女性の顔に触れるなど不躾であったな」
そう言いつつも、クルス王子は、私の手を取って、右手の聖痕を確認する。
その、いきなり聖痕を確認する行為の方が余程不躾であるような気がするが、それはいいんだろうか。
もっと地位の高い王族にやったら、大変な事だ。絶対やめた方がいい。
まぁ、私の手の甲などは、見られて困るものはないので、そのままにしていると、クルス王子は私の手を擦るように指の腹で撫でる。
「……なぜ」
「なぜって……さすっても聖痕は、出てきませんよ」
「そんな事は知っている」
本当に残念そうな顔をする彼に、私は適当にそう言った。知っているなら、手を離して欲しい。
……しかし、クルス王子は、どうして、こんな事をしているのだろう。こうやって、私の手を見て落胆するという事は、聖痕のはっきりとした身分の高い結婚相手でも探しているのだろうか。
でも、はっきりとした聖痕を探したところで、身分が高いとは限らない、タリスビアに来ている時点で、マナンルークの中でも立場の弱い姫達だ。
そのぐらいは、わかっていると思うだけど……?
「……お前は他の者とは、反応がずいぶん違うのだな」
心臓がドキッと鳴る。砕けた言葉で喋ってしまったことだろう。
仕方ないじゃないか!
こんなところに田舎住まいの公爵令嬢を引っ張り出して、礼儀作法に乗っ取れと言われても無理だ!社交の経験など数える程しかないのに!
「…………揺れる宝石も、香水の香りもしない。……今日、見つからなければ、俺は婚約しなければならない」
「……え?」
「お前には、面影があるような気がする。……華奢で、すぐにへし折ってしまいそうな姫たちよりは、マシか」
ひ、独り言多くない?
意味不明だよ!
ただ、意味が分からないからと言って、適当に返事をするわけにはいなない。「見つからなければ」「面影がある」と言う事は人でも探しているのか……?
……それもはっきりとした聖痕のある人を探しているのでは無く、聖痕を目印にして、人を探しているのか?そしてお見合いパーティの場で探しているということは、若い女性……。好きな人かな。
そして、口ぶりからすれば、その相手はいなかったことになる。
そんでもって、想い人は居なかったけれど、他の人間よりも私の方がマシかと言っている。え、えぇ……そんな展開は、困るんだけど……?
私は、ここにお勤めに出てきただけなのだ。血筋の義務を果たすだけ。そして帰らなければならない場所がある。
私は、彼の空色の瞳を見つめ返す。
「……クルス王子」
……他にもっと可愛い子がいるじゃないとか、もう少しじっくり考えた方がいいとか、何かしら、思いとどまらせようと言い訳を思い浮かべた。
けれど、今ここにいる彼は、真剣に悩んで結婚を考える相手を探しているのだ、やんわりと拒否したり、先延ばしにするよりも、誠実に私の意見を伝えておいた方がいい。
「……帰らなければならない場所があるのです。誰かの代わりに嫁入りなど、出来ません」
私が言い切ると、クルス王子は感心したように言う。
「お前は、怯えないのだな」
「……今の言葉、聞いてました?」
「我々は獣人だ、お前達より大きな力を持っている。お前は、触れても体が緊張していない、身分違いの相手に、意見するもの躊躇がない」
その大きな耳は、お飾りなの?
私はあからさまに眉を潜めるがクルス王子は気にしていない様子だ。
彼は、掴んでいた右手を離して、良く手を見るために屈んでいた姿勢を正すと、大きくて威圧感があり、目を合わせようとすると、見上げるような形になる。
「……探し人の代わりでなくとも、一目でお前にしようと決めたと言えば、答えは変わるか」
どうやら、私の言葉は届いていたようで、考慮された返事が返ってくる。話が通じることに、少し安堵したが……私をお嫁に、か。
……よく、さっきから今までの私の言動を見ていて、そんなことが言えるなと思う。私は、社交の役にだって立ちはしないし、容姿が特別整っているということも無い。
それに、貴族の令嬢がみんな綺麗に伸ばしている髪だって無いのだ。一目惚れと言うには無理があるだろう。
……でも、本当にそうだったのなら嬉しい。がしかし、そう言ったら、答えは変わるかと問われただけだ。
……。
「魅力的ですけれど、そう言われたとしても、答えを変える気はありません。さっきまで、あんなに熱心に想い人を探していたのに、私にも一目惚れしていたなんて、ありえない話ですから」
どうせ、もしもの話だ。クルス王子はどう聞いても、私だから求婚しようとしているのではなく、その面影があると言った、想い人の代わりにしたいだけだ。その事実は、どんな言葉を重ねようとも変わらない。
代わりと分かっていても、こうして好意のようなものを向けてもらえて、嬉しいような……悲しいような。
……屋敷を出る時に言われたのだ、もしも結婚するのなら、何があっても私を尊重してくれる人にしなさいと。
尊重してくれると言うのは、私の実家になる、公爵邸へそれ相応の支援をしてくれる人にしろと言うことだ。
私も、面倒を見てもらっていたのだから、異存はない。でも私を結婚相手にするというのは、そういう面倒事も付きまとう。
単なる勘だけど、クルス王子は悪い人では無さそうだし。……こういう私の事情も告げないで、媚びを売るような発言はしたく無かった。
私が彼の目を真剣に見つめるとクルス王子も私の真意を確かめるようにじっと見つめ返してくる。
彼の宝石のような海色瞳は、陽光を反射させて、キラキラと輝いている。
数秒の沈黙の後、クルス王子はふっと笑い、耳を下げて、ふわっとしっぽを揺らす。
「だろうな。……すまない。もう少し考える事にする」
「はい……急いで決めなくても、私よりいい子は沢山いますよ。ほら、こっちをチラチラ見てます」
「あぁ、知ってる」
まだまだ、相手を選ぶまでには、時間がある。
実はこのお見合いパーティーは王子の相手が決まるまで、何日でも開催されるのだ。一人一人と話していけば、この子が良いと言う子に出会えるだろう。
想い人がいなかったのなら、焦る必要はないのだ。
いい相手が見つかるといいな。
去っていく彼の大きな背中を見送って、私は椅子に座る。
1
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる