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お見合いパーティー その4

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 私が土を蹴り、大股で近づいたのと同時に、ルカ王子の付き人がスっと前に出て、スラリと銀色の剣を抜く。
 
 刀身が陽光を反射して煌めく、ルカ王子は未だに退屈そうに、椅子の柄に頬杖をついているだけだ。
 
 獣人は、流れるような所作で、カトリーナ姫に剣をつきつける。
 
 カトリーナ姫は一瞬状況が把握出来なかったようで数秒固まりそれから、数歩、後退り腰が抜けたように、地面にストンと座り込んでしまう。
 
「……っひ」
 
 引き攣った悲鳴とも取れる吐息に、彼女を止めるべく、駆け寄った私は、厄介事に首を突っ込んでしまった事を自覚する。
 
 けれど今更、止まれない。
 ここで、知らん顔をしたとしても不自然すぎる、ほんのもう二、三歩と言うところまで来てしまったのだから。
 
 仕方ない!
 
 彼女に駆け寄って、支えるように肩に手を添える。
 
「どうしたのですか?」
 
 剣を構えて忌々しそうに、こちらを見やる彼に問いかける。
 
「その木天寥(もくてんりょう)の香水は、タリスビアでは禁じられている!その香りの付いた服を今すぐ、燃やせ。出来ないのなら今すぐ切り伏せるっ!」
「そ、そのようなもの、わたくし」
「ルカ様を惑わそうなどと……っ!この劣等種族が!!」
 
 付き人は、牙を剥き出しにして、吠えるように怒鳴る。
 カトリーナ姫は突然のことに、ガタガタと体を震わせ、瞳に涙を溜める。
 
 木天寥の香って……タリスビアに来る前に何度も注意されたあの香水か!
 あの姫様達、性根悪すぎでしょ!
 それにこの付き人も、服を燃やせって、そんなことできっこない。
 
「わっ、わたくしでは、ないのです!……ほ、本当に、心当たりが」
「ではなぜ、その香りを纏っている?誤魔化せると思っているか!」
 
 大きな怒鳴り声に、周りの姫様達も異変に気が付き、遠巻きにしてこちらの様子を伺って、ヒソヒソと言葉を交わす。
 彼はは、勢いに任せて、剣を構えたままカトリーナ姫に迫る。
 
 ……そりゃそうだ、カトリーナ姫には心当たりがないだろう。犯人はあの二人の姫だ。でも、あの二人が今もあの香水を持っているという確証はない、何より、もしあの二人の姫を私が告発しても、身分の低い人間の言葉など、言いがかりだと笑われるだけだろう。
 
 カトリーナ姫は、気が動転しているのか、しどろもどろに「違いますっ」「わかりません!」と否定だけしている。

 本当なら、彼女はとにかく謝罪をして、この場からすぐに離れるべきだ。騒ぎが大きくなれば、誰かが罰されないと収集がつかなくなってしまう。

 それに獣人も獣人である。この脅えようから、彼女が犯人ではない事はわかるだろう。
 冷静な人はいないのかと視線を巡らす。奥で、控えているルカ王子は、様子を見ているだけで、口出ししてくれそうな感じはない。
 クルス王子も遠巻きから見ているだけだ。
 
 だ、だめか。ここは私が……。
 
「落ち着いてください。二人とも。その、王族方々の前です。一度、この場を離れて、湯浴みでもしてくれば、香水は落ちるでしょう……?だから」
「其方は、この者を庇うのだな?木天寥の持ち込みは重罪だぞ!」
 
 そういう事を言ってるんじゃない!一旦下がらせてくれと言ってるのに!

 心情では、たかが香水がなんだってんだ!と言ってやりたいが、相手をこれ以上興奮させてはいけない。それにそもそも、本当に獣人に害のある物の可能性だっであるのだ。
 
 ハラハラと涙を零し泣き出してしまったカトリーナ姫に気持ちが焦る。
 泣いてる場合じゃないのよ!
 
「承知しています、ですが、彼女には心当たりがないと先程……」
「ならば、別の姫が持ち込んだと言うのだな?その者の名を言ってみろ!そして私の前に引きずり出せ!斬り捨ててくれる!」
 
 ……一向に話が進まない、この付き人一体なんなのだろうか。このトラブルを収める気がない?…………私達が人間だから?

 こうして、嫁入り候補の人間の姫がこの国に招かれているが、獣人側にも色々な考えを持った人がいる。王族は、私達を呼んでいるホストなのでわかり易い差別はしないが、それ以外の獣人の目は私たちに厳しく向けられている。

 ……獣人は、人間を劣等種だと思っている人が大半だとも聞いたことがあるし。

 でも、呼んだのはそちらなのに、そんな扱いってないよ!
 
 苛立ちから、カトリーナ姫を差し置いて、剣を向けて威嚇する彼と喧嘩したい気分になったが、そういうわけにはいかない。
 
 もう一旦、罪を認めて謝ってでも、この状況を打開しないと!
 私が思考を巡らせているうちに、カトリーナ姫は涙を拭う。それから少し周りの状況を確認して、目の前の獣人を見る、そしてゆっくりと……私に視線を向ける。
 
 彼女は目を見開いて、私の手を振り払った。
 
 バシッという音が響く。
 
 今度は、私が目を白黒させる番だった。
 
「ろ、ロイネが、後ろから私に振りかけたのです!」
「なっ」
 
 カトリーナ姫は、おもむろに立ち上がる。
 彼女を支えるために膝立ちになっていた私を両手で突き飛ばした。
 
「この子が私をはめたんだわっ」
 
 背後に尻もちをついた私は、その光景を呆然と眺めた。
 カトリーナ姫は怯えに歪んだその顔で、獣人の彼に、涙ながらに訴える。
 
「わ、私に恩を売るつもりだったのよ!」
 
 その行動は、全くの想定外だった。

 人間、予想もしていない事が起こると、こんなにも混乱して動けなくなるものなんだな、と心の隅っこの方で思う。
 
 けれど、どう考えても彼女の言い分は、苦し紛れの言い訳にしか見えない。カトリーナ姫の言葉を信じる人なんて……。
 
「わたくし達も見てましたわっ!」
「カトリーナは悪くないのよ、許してあげてくださいませ!」
 
 野次馬の中から意を決したという風に声を上げたのは、真犯人の二人の姫だった。
 
 お前らじゃん、やったの。
 
 二人は、如何にも怯えているような、無害そうな表情をしながら、訴える。
 周りも彼女達が言うのなら、そうなのだろうと、咎人を見る目で私を睨む。
 
 今度は、私が弁明しなければならない立場になった。

 カトリーナ姫は難を逃れた喜びに顔を綻ばせ、自分を貶めた姫たちの方へと駆けていく。私は、ただ、目の前の剣を構えた付き人を見ていた。




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