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メイドの二人 その3
しおりを挟む「それじゃあ、マティ。改めてよろしくね」
「はいっ。あぁ、姫様に名前で呼んでもらえるなんて、感激です」
マティは、ふにゃっと優しい笑顔を浮かべ、耳を下に向けて感動に打ち震えている。
リノはそんなマティの頭を背伸びして、よしよしと撫でた。先程まであんな喧嘩していたのに、もうすっかり仲良しに戻っている。この二人の中ではあのぐらいの口論は、喧嘩に入らないのだろうか。
「あ!……そうだった、あの、二人に聞きたいんだけど、このアクセサリーの付け方を教えて欲しいんだけど……」
私は改めて、ペンダントを出した。
リノとマティはピコンと耳を立てて、私の手元のアクセサリーをじっと見る。
「リノ、姫様に色々教えるので、席を外して貰えますか」
マティがペンダントを手に取りながらそう言うと、リノはこくんと頷いて、掃除用具を持って部屋を出ていく。
「……なんで、リノを?」
「ええと、リノは……男性ですので、姫様のお洋服や装飾の話を聞かせるのは……」
あ、やっぱり、男性なんだ。
それなら納得だ、私もそろそろ、トランク一個分の私物で生活するのは限界を感じているし、衣類について話さなければならないだろう。
しかし、新しく必要な物はこちらで調達するとして、資金や、婚姻の話などは、どこの誰に聞いたら良いのだろう?
……やっぱりこの国の国王様?
それと、私が婚約者になってここに残ったということは、もうマナンルークに伝えられただろうか。
それほど私物は多くなかったけれど、嫁入りするとなれば送って貰わなければならない物もある。
うむむと、考えを巡らせると、マティは、私がリノが男性である事に付いて思案しているように見えたらしく、慌てて口を開く。
「あっええと!あのようなりをしていますけれど!妙な獣人では無いのです!戦闘力も高いですし!それに!男性ですが既婚者です!」
「お、おお!結婚してるんだ……」
「はいっ!ですから姫様は安心してください」
……リノが男性として結婚しているのか、女性として結婚しているのか、という謎が頭に浮かんだが、まぁ気にしない事としよう。
しかしなるほど既婚者であれば、異性であっても問題は無いだろう。
理由は、やはり獣人だからという事だ。獣人は生涯一人の異性しか愛さないという話は有名である。
ロマンティックだと思うし、そういった夫婦間に憧れはあるが、それ故に、人口の減少が進んでいるとも言われている。
なんとも悲しい話だけど、まぁ、今はリノ個人の話だ。
「……リノの奥さんが私に仕えていても不満がなければ、私はそれで大丈夫だけど」
「あ、え、はいっ!私は不満などありません」
「ン……うん?もしかして、マティは」
「リノとは夫婦関係にあります」
お、お前かーい!
え、ええ?目の前に奥さんがいるとなると、なぜに夫婦で私のメイドをやってるのか気になるし、何より、旦那さんの格好についてお聞きしたいが……我慢だ。ロイネ。
人間にはデリケートな部分というものが存在するのよ。いや、相手は人間では無いけれども。
「あ、そう、なんだ」
あまり間を開けるものどうかと思い、私の口からは、適当な言葉が滑り出た。
「ええ、もし姫様に不貞な行為でもしようものなら、その場でリノの腸を引きずり出してご覧に入れますから。……さあ、姫様、こちらへ」
「うん」
何かマティが妙な事を言った気がするが、それは……うん、聞かなかったことにしよう。
マティに手を引かれ、ドレッサーの方へと連れていかれる。私は素直に鏡の前に座った。
「少し髪を整えても?」
「うん、お願いします」
先程の痴話喧嘩で乱れた私の髪をマティは軽くブラシで梳かしていく。
一度、ハーフアップにしている、バレッタを外して、それから綺麗に整え
器用に編み込みを入れてから止め直す。とても慣れた手つきだ。
乱れていた服の襟を直されて、獣人なら耳のある場所を物珍しそうに、触れられる。
なんだか不思議な気分だ。
「姫様、利き手はどちらですか?」
「右かな」
「では、左手を」
左手をあげると、背後からマティは手を伸ばして、ロケットペンダントをぐるぐると私の手首に二周まきつけて、金具を止める。
「姫様これはどこで……」
「あ、クルスに貰ったんだ。使い方がわからなかったんだけど、せっかくの貰い物だから、付けとこうと思って」
「そうでしたか……クルス様はお優しいのですね」
「優しい?」
「ええ、マジックアイテムです。姫様は、魔法道具とマジックアイテムの違いをご存知ですか?」
「えっと、使い切りかどうか……かな」
「はい、魔法道具は、魔力を通せば何度でも使用できますが、マジックアイテムは、指定条件がそろうと自動的に魔力結晶の内包している魔力を使って一度きりの魔法を発動します」
「へぇー、そうなんだ」
……豆知識を聞いているような気分だったが、とんでもない事に気がつく。
魔力結晶って、装飾用の宝石だと思ってたが、マジックアイテムの原料だったらしい。
そんな話、一度たりとも聞いた事無かったんだけど……。
マジックアイテムは高級品ではあるが、人間にも使えるので、屋敷にもいくつか置いてあった。タリスビアで作成されていて、それなりに数があったので、珍しいものでは無かったと記憶している。
しかし、なにで出来ているかなんて、考えた事が無かった。私の知識が浅いのか、それとも、マナンルークでは誰も知らないのか……。
どっちだろ。
「ですので、こちらは……特殊な防御の魔法がクルス様の設定した条件を満たした時に、一度だけ発動します。体の邪魔にならない場所に身につけておけば、役に立つはずです」
「そっか……ありがとうマティ」
なるほど、首につけなくても良かったというわけか。
鈍く光るペンダントを服の袖の下にしまう。いつ発動するか分からないけれど、御守りという気分で持っていよう。
それからマティと、この部屋での生活について、話をして、その日は勉強に精を出した。
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