お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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深夜の呼び出し その4

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 時計がないので、正確な時間は分からないが、私は一時間程、話を聞きながらうとうとしていた。
 
 クルスは、床に置いてあるクッションに寄りかかって既に眠っている。
 もしかして、月光浴って、寝落ちするまでがセットなのか?だとすると、もっと暖かい格好をしてくればよかった。

 私には、豊かな体毛がないから仕方ないけれど、夜は冷えるのだ。
 
 ───故に、今日の浴室の上部ガラスは従来のしきたりに乗っ取り、グラスリッツェンにより装飾を施している」
「……うん」 
「図案に付いても、古来より使われてきた、魔法陣を元にした四大元素を使った図案と動植物などを───
 
 いい加減、眠ってしまいそうになりながら返事をする。
 三十分前までは、背筋をピンと伸ばして座っていたが、現在はソファに沈み込むように、だらりと背もたれに体を預けている。
 
 それほど若く無いのに、これほどまでの熱量でしゃべり続けるのはられるのは、大した事だ。
 
 ……さすが王様。
 いや、まったく関係ないか……。
 
 ───すると、マーガフィンの歴史書の話をせねばならぬな」
「……そうね」
「が、しかし、それはまたの機会としよう」
「それがいいわ」
 
 いよいよ、眠れると思い、エグバート様の方を見やれば、彼はこちらを向いた。
 
 今まで、月に語りかけるように話をしていたのに、ふと私と目が合う。
 
「して、ロイネ。其方、どちらと子を成すつもりだ」
「……?」
 
 急に名前が呼ばれて、意味のわかる問いかけをされた。
 眠たげな頭で、真剣な事を問われているのだから、ちゃんと貴族らしく答えなければ、と思ったが……このおじいちゃん、語りの最中にふざけた返答をしても怒る事はなかった。
 
 正直に答えてもいいかな。
 
「……二人とも、私と家族になる気など無いようなので、実家に帰りたいです」
「ほう」
「私より……ここに来る事を望んでいる姫がマナンルークには沢山居いるのです……その人達ならきっと、上手くやります。私には、この国の王妃なんて荷が重すぎる」
「だが……やらねばなるまい」
 
 エグバート様は、少し、悲しいような表情で私を見た。

 可哀想な子供に同情する目だ。
 養父様にも同じように、見られていたっけ。
 
「……もう一度、姫様達を呼べないのですか」
「出来ぬな」
「どうして……?」
「其方には、わかるだろう」
「……」
 
 それは、私が誰一人として、馴染みの使用人をタリスビアに呼び出す事が出来ない理由と近いだろうか。
 
 私の呼び掛けで来てくれるかは別として、仮にも王族が嫁入りするとなれば、側近や、専属の職人、料理人などは連れていくものだ。

 先に姫が嫁入りしていたとしても、あとから追いかけてくるのが定石。

 でも、それは、私は出来ない。呼び寄せるなんて出来っこない。
 
「分かりません」

 その理由に心当たりがあったのに嘘をついた。エグバート様は優しく答える。

「……人は脆く、高貴なものであればあるほど、か弱く、簡単に命を落とす。マナンルークからタリスビアへの船旅は過酷な旅であったろう。人である其方であれば、やり直しなど出来ぬことを理解できるだろう」
「…………」
 
 理解出来る。わかっている。
 
 けれど認めたくない。
 
 出航した数日後に、船内の厳しい環境に、床に伏せるものが大勢現れた。

 船員の多くが、うら若い姫であった事、屋敷の庭だけで大切に育てられた少女であった事、このふたつが理由で、あっという間に身体の弱い数名が命を落とした。
 常に波に揺られるストレスと、視界の何処までも続くただ青いだけの海に、精神的に追い詰められ、上位から下位の姫まで多く集められているせいで、過酷な環境での、厳しい上下関係、体調を崩さない方が珍しい程だった。
 
 それ以外にも、転落したり、タリスビアに到着した直後に高熱で死亡した者も若干名。
 
 あのパーティーに参加していたのは、三分の二程の人数だった。
 帰路でも、必ず死者は出るだろう。
 
 屋敷のみんなには、あんな思いさせるような事は出来ない。私が呼ばなければ……それで済む話だ。だから、呼ぶことが出来ない。
 
「……じゃあ……でも、どうしたらいいのですか。……私は……」
「其方の仕事は決まっておる」




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