17 / 139
深夜の呼び出し その5
しおりを挟む感情を抑えるようにして、自分の手を握る。
子を産むことだとでも言うのだろう。確かにそれだって立派な仕事だ。大事な事だ。
けれどやっぱり、私で無くなっていいじゃないか。
私の意思に関わらず、それが、大事だと言われてしまえば、なすすべなどないのに。
「……はい」
「タリスビアで生き、我々に人を教えておくれ」
予想外の答えに、私はぱちぱちと瞬きをした。
人を教える?
それって……一体どういうことだろう。
「……どういう意味ですか」
「我々は、強者である。が同時に、人間と言う大きな敵をもつ弱者でもある」
エグバート様は、相好を崩し、そういう、人間を敵と言ったが、そう思っているようには見えない表情だ。
「人間もまた、獣人という、強力な種族を敵にしている弱者だ」
この人は、難しい言い回しをする。
つまりは、両方弱者の立場だという事か。
「お互いに、滅ぼされぬように牙を剥き出しにし、怯えておる。一個体の強さでは増されども、我らは、長い目で見れば、人間よりも劣等種だ」
「そ、そんなこと!」
「良いのだ、そういった事は有り得る」
否定しようとすると、制されてしまった。
私にはそんな風には思えない。というか、あまり、難しい話は得意ではない。
「故に、我々は人を敵ではなく、友にしなければならないであろう。人は我々を短い目でのみ見て、強力な敵だと思い込んでおる」
「……」
「歩み寄らなければ、人を知らなければ、友にはなれぬ」
「そう……ですね」
だから、私に人を教えて欲しいと。
けれど、具体的にどんな事が獣人と違って、何を教えればいいのか私には分からない。学者でもなければ、頭もそれほど良くない。
「でも、それでもやっぱり、私には……出来ない」
自分でも、駄々を捏ねてしまったと思った。こんなわがままを言ってしまうなんて、私はどうかしている。
ここでの役目を認めてしまえば、故郷を思って帰りたいと願うことが許されないような気がした。
「いつかでいいのだ、ロイネよ。この国にでも、ルカかクルスにでも、どれかに愛着が持てたら、我々に歩み寄ってくれれば良い」
暗く沈んた表情をしている私をエグバート様は優しく撫でた。
「ロイネ、其方は成人もしていない幼い娘なのだ、いつでも頼りなさい」
励ますようにエグバート様は、私の肩に触れる。
……優しすぎだよ。
今まで、誰にもこんな事を言われた事はなかった。幼い頃から、自分に仕える者達と生活していたからだろうか、頼れと言われた事は、初めてな気がする。
私にもし、父親がいるのならこんな人ならいいな。
「……ありがとうございます」
「ああ、それに私は、其方を買っているのだ」
「?……何故ですか」
エグバート様に見せた中で、そん風に思われる部分が思い浮かばず、聞き返すと、エグバート様はふと笑みを浮かべる。
「人間に月光浴の習慣がないことは、知っていたのでな」
「?」
「我らの風習だと気がついて、異を唱えず、合わせたのだろう?……心優しいのだな、其方は」
言い終わると、急にモフっと狼の姿になった。
知ってたのなら、説明ぐらいあってもいいのでは、と思ったが、もしかすると、最初の一時間の熱弁が説明だったのかもしれない。
そ、そんな分かりづらい事ある?なんか、少しおかしくて笑えてしまう。
エグバート様は、そのままソファから降りて、クルスの元まで駆けてゆき、隣に腰を下ろした。
それからすっと顔を上げて「ウォン」と小さく吠える。
何か言ってるなぁと思い、とりあえず、側まで私も歩いていくと、くんっと服の裾を引かれて、座り込む。
「ウォン」
「な、なんですか」
「わふっ」
背後で眠っていたクルスが起きて、眠たげに鳴いた。それから、バッと私に覆い被さってきて、床に押しつぶされるように、横になった。
納得したようにエグバート様は、目を瞑る。
もう、なんだか深く考えられない私は、そのまま眠気に任せて、目を閉じる。
大理石が冷たかったので、傍で眠っているクルスに引っ付いて暖を取った。
少しだけ……いや、結構触ってみたかった、わんこの体は想像よりも毛が柔らかくて、笑みが零れる。
やっぱり、月光浴は寝落ちまでがセットなのね。
1
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる