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熱の病 その2
しおりを挟む「ロイネ!迎えに来たぞ」
あなた、何時も物静かで、そんな大声出さないじゃない!なぜそんなに、今日に限ってやる気満々な声で私を呼ぶの?!
彼は、ズカズカと近づいてきて、さわやかに私に笑いかける。
「むり」
「そうして布団の中にいるから、体調が悪くなるんだ」
私は枕にしがみついて、きつく抱きしめる。
クルスはピンッと耳を立てて、掛け布団を取り払った。
もう意味が分からない。
布団の中にいるから体調が悪いのではなく、体調が悪いから布団の中にいるのだ。布団は正義である。
「軽く走れば、すぐに良くなる」
「そんなわけあるか!ケホッ……ごほっ」
「ほら、行くぞ、今日は天気もいい」
「姫さん、僕も付き合う?」
「私も行きましょうか?……心配です、すぐに良くなって欲しいのです、姫様」
タコのように枕を離さない私を、クルスは勝手に私を抱き上げた。
腕の中で暴れると、メイドの二人が、仕事を放棄してでも私を走らせようと、必死に提案をする。
「む、無理だよ、走れない」
「姫様……」
「辛そうにゃの、僕かにゃしいです、姫さん」
なんでそんな目で見るの。
二人とも、非行に走った娘を必死に引き留めようとしている、親みたいな顔だ。
屋敷の執事がこんな顔をしながら娘の話をしていた記憶がある。
そ、そんなに悪いこと?風邪ひいてるのに食後に走らないのって、そんなに良くないの?
私だけ?たっかい布団で薬を飲んで眠った方がいいって思うの!
「そんな、顔されても……」
「ほら、メイドに心配かけてはいけないだろう、大丈夫、俺が責任を持って、連れていく」
煮え切らない返答をすると、クルスがメイド達にそう言う。
「クルス様っありがとうございます!」
「姫さん、頑張って」
抱えられたまま部屋を後にする。メイドの二人は、一安心と二人で笑いあっていた。
「はぁぁ~」
大きくため息を着く。
結局、なすすべも無く、城の庭へと連行された。
お見合いパーティが開かれた、庭園の方ではなく、城の裏にある、芝生に噴水、備え付けのベンチがあるだだっ広い公園のような場所だった。
私は部屋にいることが多いし、城の構造も把握していなかったので、こんな場所があるなんて驚きだ。
庭園の二倍以上は広い場所だった。
到着したのでクルスに降ろしてもらい、当たりを回す。
ベンチにはルカが腰掛けており本を読んでいる、彼は耳だけこちらに向けて、私たちがいる事に反応はしない。
「ルカ、お前も走りに来たのか?」
クルスは彼に近づいていき、快活に話しかける。
ルカはパッと視線を上げて、少し微笑む。
「いや、天気がいいから外で読書だよ。君は人間の……さんぽ?」
「ははっ違うぞ、風邪を引いたらしいからな、治しにきた」
「そっか、風邪、ね」
人間のさんぽって……はぁ。この間、助けてくれた時は、少し見直したと言うのに、またこれだ、わざわざ私を煽る言葉を使う。
私もクルスの側へと歩いていくと、それだけで呼吸が荒くなる。
日差しが強くて、熱が上がっている気がする。気だるい体を何とか突き動かした。
「ロイネ、走るぞ、汗をかけばすぐに良くなる」
パッと私を見て、クルスはしっぽを振った、そのままふっと獣の姿へと変わる。
ちょこんと座って、上目遣いで私を見る。
本当にこれが善意でしかないのだから、タチが悪い。
「はいはい、走ればいいんでしょ!走ればっ」
「ねぇ人間……タリスビアの土地を踏んだ瞬間に、高熱で倒れた姫達の事……君は覚えてる?」
駆け出そうとした瞬間に、ルカが背後から声をかけた。私は質問の意味がわからず、立ち止まる。
彼は、私を見て冷ややかな笑みを浮かべた。
「君のその熱……下がるといいね」
ゾクッと嫌な予感がする。
何が言いたいの。ルカ。
「ガウッ!!」
隣にいた、クルスがドスの効いた低い声でルカに吠えた。そばにいた私は、その声に驚いてビクッと身体が反応する。
こんな怖い声出せるのか。威嚇なんてされたら腰が抜けそうだ。
「……ごめんて、軽いジョークだ」
クルスはふいっとそっぽ向いて、走り出し、「わふっ」とついてきてとばかりに一鳴きした。私は、ルカの言葉の意味を考えるのを止めて走り出した。
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