お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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熱の病 その3

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 ほんのランニング程度のつもりだったのだが、ビッシャリと汗をかくまで走らされた。三十分は走っていたと思う。後半は、人型に戻ったクルスに手を引かれて足だけ動かしていただけだけど。
 
「はぁっ、つぁ……はっ……ごほっ…はっ」
 
 四つん這いになって、呼吸を整える私に、クルスは膝を着いて、背中を摩ってくれる。
 手が大きくて、力が強すぎるが、心配してくれている事は、伝わってきた。
 
「大丈夫か?……まさか、こんなに病弱だったなんて……」
「はっ、はあっ」
 
 私は至って健康体だっ!
 それに、運動だってできる方だし、乗馬だって余裕なのよ?!
 
 言葉を発したいのに肺が痛くて、何も言えない。
 手の震えまで出て来て、その上、目が回る。

 というか、クルスの体力がおかしいのだ。

 私の前を常に走って居たし、最後の方なんて、私を引っ張って後ろ向きに走ってたからね。それなのに、呼吸はまったく乱れないし、汗ひとつかかない。
 
 いや、私が風邪を引いていると言うのも、あるんだろうけど。
 
「はぁ……っ、だっめだ、ぅ、立てない」
「部屋まで運ぶか?」
「だめ、っ、ゆらさないで、ケホ」
 
 今持ち上げられたりしたら、確実に出る。先程、全力で詰め込んだランチが胃の中で大暴れだ。
 
「俺に何か出来るか……?」
「……っ、……はぁ、はっ、…………わんこに、なれ、る?」
「いいぞ」
 
 ダメ元で聞いたのだが、すんなりと茶色い大きなワンコが目の前に現れる。それから、私を覗き込むように伏せのポーズを取る。
 
「あり、がと」
「わうっ」
 
 私は、彼を抱きしめるように体を埋める。
 柔らかいのに弾力のある体に、とくとくと小さくなる心臓の音。

 枕のようにしてしまって本当に申し訳ないが、芝生にうつ伏せは抵抗感があった。
 かと言って仰向けになれば、この場で嘔吐しそうである。
 
 歪んでクルクル回っていた視界が段々と元に戻ってくる。手の震えも収まった。
 
 もう少しだけ休みたい。
 
 ……しかしこの状況。

 なんというか……人間の状態のクルスで考えると、ものすごく変な体勢だ。王子様を芝生に転がして、私がしなだれかかっているなんて。
 
 シュールな絵面が頭の中で浮かんだ。
 なんで体調を崩している時ってこう、妙なことが思い浮かんでしまうのだろうか。
 
「あ、ははっ……ケンッ、コホッ」
 
 突然笑った私に、クルスは首を傾けてキューンだか、クーンだか、心配そうに鳴いて、ぺろっと私のほほを舐める。
 
 わわっ、大胆だな。

 ワンコの行動として捉えていいなら、心配しているって事だろうが、中身がクルスな事は、どう解釈したらいいんだろうか。
 
 




 症状が重症化したのは、言うまでもない。
 昨日、あれほど無茶をしたのだから仕方がない。けれど、今日こそは本当に、薬か医者が必要だと思う。
 
 布団の中で、荒い呼吸を繰り返す。熱があるとき特有の妙ちきりんな夢を見るのにも飽きてきた。
 
 体が酷く熱い。体感的には昨日の数倍は熱が上がっていそうだと思う。

 正直、段々とただの、風邪でこんな事になるのだろうか? 

 頭の中まで熱くて仕方がない、冷水にずっと浸っていたら、治りそうな気がしてきた。
 
「あ゛~……っ、ごほっ」
「姫さん、マティが湯浴みの時間ですよって言っます」
「あい」
 
 人間だったら、こんな高熱の人間を入浴させたりはもちろんしないが、昨日からわかっている事だ。

 獣人は、清潔を保って、健康に運動をして、しっかりご飯を食べる、それが一番の治療だと言う考えだ。
 
 ここで入浴を拒否すると、二人はとても心配する。甲斐甲斐しく病気の私の世話を焼いてくれていると言うのに、事情も説明せずに、その習慣を否定できない。
 
 だからといって、人間はこうなんだよ~と二人に説明するにしても労力がかかる。
 つまり、今は、それが出来るだけの気力もなければ、体力もない。
 
「リノ、ちょ、と手、かして」
「うん」
 
 リノに支えられながら、移動して、マティに面倒を見られて入浴を終える。
 ベットに戻ると、疲れで目が回ってしまい、目を瞑る。
 
 何気なく、ルカの意味深な言葉を思い出した。
 
 タリスビアについた途端に、謎の高熱を出して倒れた姫様は、五人ほどいた。その姫様達がその後どうなったかは聞いていないが、タリスビアの人間の用の宿で休息をとっていたはずだが、薬も医者もいない状況で助かっているとは、思えない。
 
 その姫様達の熱と私の熱は、なにか関係があるのだろうか。
 いや、あるんだろう。そんな感じの口ぶりだった。
 
 この熱が下がらなかったら一体どうなる?
 ……答えは明白だ、待っているのは、死だろうな。
 
 って、私は何を考えてるのやら、そんな簡単に死ぬはずない。ただの風邪だ。きっと明日には、治るはず……大丈夫。





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