お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
21 / 139

熱の病 その4

しおりを挟む





 風邪を引いてから、何日目だろうか。
 
 相変わらず、すごく体が熱い、全身が熱湯に浸かっているかのようで、目を瞑ることもできずに、ベットの天蓋を見つめていた。
 
 あぁー……本当に死にそうだな……。
 
 熱は上がり続けて、次第に食事は取れなくなり、水分補給もままならない。こんな唐突に病気になるなんて、誰が予想できただろうか。
 
 急に訃報が届いたら、屋敷の皆は驚くだろう。
 私自身だって、まだ、夢が叶っていないというのに。
 
 ……つらい。
 
 ぐしゃっと顔を歪めて、涙を我慢する。
 泣きだしたらキリがないだろう。何から悲しんだらいいのか分からない。
 
 慣れ親しんだ場所に、もう二度と戻れないと言う悲しみ?
 船で大変だった長旅?
 助けようとした姫に裏切られたこと?
 ルカの酷い言葉?
 誰にも常識が通用しない息苦しさ?
 
 ……、……。

 ……本当は、全部悲しかった。
 一つの事でも、本当は、すごく悲しいんだ。
 だから、こんな状態で泣き出せば止まらない事は、わかっている。
 
 何とか体を起こす。部屋の電気はついている、けれどメイド二人は居ない。
 窓の外を見れば、日が暮れて真っ暗なので、夜ということは間違いないだろう。
 
 何か、気が紛れるものないかな。
 
 ふと真横に顔を向けると、そこに座っていたルカとパチッと目が合った。彼の耳がピクッと反応する。
 
「……、」
 
 何しに、来たんだ。
 
 今まで、顔を出さなかったくせに。
 
「体調はどう?」
 
 見ればわかるだろう、何故そんなことをわざわざ聞くの。

 ルカは薄ら笑って、首を傾げた。
 
「このまま熱が続いたらどうなるか、考えた?」
 
 考え無いわけ無いじゃないか。不安で仕方ないって言うのに……なんでそんな楽しそうに、私に聞けるの。
 
「熱で倒れた姫達、帰りの船上で、息を引き取ったらしいよ。死ぬ直前まで、熱い、怖い、苦しいって泣いてたってさ」
「……」
「姫なんて所詮、都合のいい交渉道具だからね。親の庇護がなければ、何されても一人じゃ解決できない」
「……だから、なによ」
「可哀想だなって。獣人の国にお嫁に行かされるなんて、親に見捨てられたも同然でしょ?人間はすぐに子供を見捨てるから、君みたいな可哀想な子供が増える。大切にできないなら、馬鹿みたいに繁殖しなければいいのに、……っあはは!」
 
 ルカは我慢できないと言った感じに、しっぽをふわりと揺らして、軽快に笑う。
 
「そ、んな、事。……この風邪に、関係ない、でしょ」
「どうして?その熱の原因は、ここに来た事だって検討がついているでしょ、それなら連れてこられたという事に因果関係があるのは必然だ。そして君が無様に苦しむのには、ちゃんと理由があるんだよ」
「……りゆう」
「そう、理由ね……君が人間だから。苦しんで怖かって怯えて、当たり前。わかった?」
 
 ……。
 
 楽しげに話す彼の方へ、体を引きずって移動し、すぐ目の前まで寄る。

 起き上がるだけで辛いと言うのに、どうして、ルカはこんな事ばかり言うのか。悲しいし、不安だ。こんな風に悪意で言葉を吐かれたら、誰だって傷つくに決まってる。
 そしてルカは、わざとやっている。私を傷つけたくてやっている。でも、まったくそんな事をされる心当たりなんか無くて、そして、ルカは何か、違うような気がした。

 悪戯にそんな事をして楽しんでいるだけのただの酷い人だとは、上手く思えない。いや、思いたくない、だって怪我したときは助けてくれたし、それにこの人が私を選んだんだ。だからきっと……。
 
 倦怠感ですぐに呼吸が乱れる。生理的の涙なのか、悲しみなのか、じんわりと視界が歪んだ。
 
 ……彼の本音は違うって思いたい。
 
「……ルカ。は……何が言いたいの」
「は、話聞い───
 
 もうひどい言葉を聞きたく無くて、両手でルカの口を塞いだ。
 
 今は、聞いていられるほどの精神力がないのだ。
 それに、ルカはわざわざ私の部屋にきたのなら、一方的に罵るのではなく、私と話をするべきだ。ちゃんと、相手の言葉を汲み取って交わすこと、これが話をするってことだ。
 
 それなのにルカは一人で話して、私を傷つけて、自分が求めている反応だけを欲していて、私に暴言を吐く。
 
 そんなものは、会話とは言わない。
 
 それに、相変わらず彼が私に望んでいることはよくわからない。罵るのではなく素直に私にどうして欲しいのかを言って欲しい。
 
 泣き崩れるところが見たいの?それとも激昂して殴りかかればいいのかな?わからない。
 
「ルカ、思って、ること、言ってくれないと……なんにも、わかんない」
 
 口に手を押し当てただけじゃ、喋れるのに、ルカは私の言葉を遮らなかった。
 やはり驚いたように私を見ている。
 
「意味のない、事、ばっかり、言ってないで、ちゃんと話をするなら、ごほっ……聞くから」
 
 手を離しても彼は、口を開かない。
 また、何も言葉が出なくなってしまったルカを見ていると、子供みたいで、自分自身が何をしたいのかわかっていないようで、あどけなく見えた。
 
「……、辛いから、寝るね、おやすみ」
「……」
 
 横になって、布団をかけると、縦長の瞳孔を真ん丸にして私を見ている。その観察するような瞳を見つめ返す。
 
 ……やっぱりルカは不自然なかんじ、アンバランスとも言うのか。
 だって良く考えれば、ルカは、私が起き上がるまで、ベットの隣でじっと待っていたわけでしょ。
 今だって同じように観察しているだけだ。
 
 出会った時からおしゃべりで毒舌な王子様だと思っていたが、もしかすると本来は、物静かな人なのかも。
 
 まぁ……わからんけどね。
 
 それでも、気は紛れた。先ほどまでの陰鬱とした気持ちは幾分ましになり、泣かずに済んだのだ。
 ……もうちょっとだけ頑張れそう。
 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...