お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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熱の病 その6

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 次に目が覚めると、体調不良は完治していた。体が軽くて、熱を無くなっている。突然の回復に昨日のことが思い浮かぶ。
 
 ……まさか……あの薬、治療薬だったなんてことは、ない……よね?
 
 考えつつ、久しぶりにベットから自分の足で降りて伸びをする。
 
 最っ高に気持ちいい朝だ。
 病み上がりではあるが、今日クルスが走ろうと言ってきたら、喜んでついて行きたい。ついでに、クルスのかっこいいワンコボディを撫で回させてもらおうじゃないか!
 
「んふふ」
「姫さん、おはよう」
「おはよう!リノ!見てよ、なぜだか急に快調だよ」
「そうですね、何よりです。姫様」
 
 その場で元気な事を見せようと、ぴょんこぴょんことはね回ると、リノに優しく抱きしめられ、そのままベットへと戻された。
 
 リノの大きなお耳は、ヘタりと下がっており、強気なお目目は、暗い色に陰っていた。
 マティの方も確認すると、やはりしょんぼりと言った感じに、お部屋の掃除を始める。
 
「……喧嘩でもした?」
「いいえ、いたって仲良しですよ。私達」
「うん、二人揃ってにゃかよく怒られただけです」
「怒られた……ってなぜ?」
 
 二人は思い出したように、はぁっとさらに肩を落として、手だけはテキパキと動かす。
 
 なんだか想像していた反応と大違いだ。治ったぞーってなったら……こう、その。クルスのように、喜びで駆け回ると思ったのだが。いや、クルスもさすがに喜びで駆け回ったりはしないのだけど。
 
「勉強不足で、です」
「怒ってたにゃ」
「そ、そうなの?」
 
 なんだろう、昨日中にメイドの講習会でもあったのだろうか。
 私は、二人に対して文化の違い以外で困っている事は無いので、凹むまで怒るのは、やめてあげて欲しい。一体、誰だそんな事した人は。
 
「お薬は、かにゃらず飲むようにと言ってました」
「……誰が?」
「それから、体調が良くなってもすぐには、布団から出ないようにとも言いつけられております」
「……誰から?」
 
 コトっとサイドテーブルに食事が出される。それはいつものお料理ではなく、お野菜のスープに少しのお肉とよく煮たお豆が入ってる、朝食だった。
 
 お腹に優しそうな上に、しっかりと栄養が取れるよう配慮されている料理だった。その料理の隣には小皿に薬が三粒、見覚えのあるものが乗っかっている。
 
 スープに口をつけると、優しい味付けで、ほっこりと体が温まる。
 
「……おいしい」
「姫さん、ごめんにゃさい」
「私達、ロイネ姫様が人間だということ、重々承知した上でお世話をしているつもりだったのです」
「……うん?」
 
 マティとリノはベットのそばで、片膝をついて、両手を床につけて私を見上げる。
 急なことに、まじまじと見つめていれば、耳を伏せて、言葉を続ける。
 
「不快な思いをさせてしまい。大変、申し訳ございませんでした」
「え」
 
 かしこまった謝罪に動揺してしまう。私は、何も説明していなかった、二人だって分からない事をやれと言われても、出来るわけがないだろう。人間用の看病なんて出来なくて当たり前だ。
 それをわざわざ謝罪されると思っていなかったので、声を出して驚いてしまう。
 
「や、え?……あー、その、言わなかった私にも、責任が」
「いえ、そのような事はございません。専門の者に確認を取ってから行動に移すべきでした」
「そう、なの?」
 
 よく分からない。
 けれど、二人が専門家?に確認したり、努力をするのなら私だって、努力をする義務があるだろう。自分の事を知ってもらえて当たり前だとは思わない。
 今回は、文化に大きな違いがあったが、それは人間の使用人だとしても同じことだ。
 新しく入った新入りが、私の好みや習慣を理解出来るはずが無い、そんな事で怒っていたら、私のお世話をする仕事などやってられないだろう。
 
「ううん……やっぱり、責任は、私にもあるよ」
「姫さん、そんにゃこと」
「あるんだよ、リノ。私、毎日、自分の気持ちの整理に手一杯で、これからのここでの生活の事は、正直よく考えてなかったの」
 
 帰りたいだとか、自信が無いだとか、私は言い訳ばかりしていて、ただでさえ種族が違うのに、世話をしてくれようとする二人の負担や、不安の事を考えていなかった。
 
 そんな状態だったのにもかかわらず、方向性は間違っていても、私の事を大事にしてくれる気持ちで動いてくれていて嬉しかった。あとは、手段さえ人間用にしてくれれば、私はきっとこの国でも頑張っていけるだろう。
 
 いよいよ、言い訳が効かなくなってきた。うじうじしてばかりでは、私もリノやマティも大変になる一方だ。
 
 やるしかないのだ。
 
「だから、謝らないで、リノ、マティ。私ね、二人に看病してもらえて、心配してくれる人がいて、すごく救われたよ」
「っ、でも」
「それと!……これから私が人だから二人と違うこと、出来ない事があった時に、真剣に聞いてくれる?そうして貰えると、謝られるよりすごく嬉しい」
 
 掛け布団をどかして、ベットの縁に腰掛ける。
 
 やっぱり私は、二人を責める事なんて出来ない。二人が誰に何を言われたか知らないが、そんなに落ち込む様な事を私はされたと思っていないのだから、それで充分だろう。
 
 微笑みかけると、リノがとんと立ち上がる。すると、通常よりだいぶ大きいフェネックになって私の懐に飛び込んでくる。
 
 体毛がもうフワッフワで、どんな最高級なお布団も敵わないような、感触だった。
 
「こらっ!……リノっ、私だって、っ、」
 
 ベットに上がって、ほほを擦り着けるように、私にじゃれるリノに、マティは涙を堪えて、声を震わせた。
 
「マティも……ぎゅてしよ」
 
 私に頬擦りするリノを片手に抱きしめて、もう片方の手を広げた。
 するとマティも私に飛びかかるように獣の姿になった。
 
 もちろん巨大な虎である。獣になったクルスより少し小さいぐらいの虎が私を抱え込む様にきつく抱きしめて泣き出した。
 
 獣の姿で泣けるの?!喋りはしないのに、どういう事だっ。
 
「ガゥル」
 
 にゃーと猫が鳴くのと似たようなニュアンスで、マティは鳴いた。牙が大きくて、迫力がもの凄いが、体は柔らかい。さすがネコ科。
 
 両サイドをふわふわに包まれて私は、天国のような心地である。
 
 しばらく、その天国を味わっていると、ゴルゴルと野太い音で、マティが喉を鳴らした。するとピコンとリノが耳を立てて、ストンっと人間の姿になって、マティを私からひっぺがす。
 
 んふふ、なんだろう。嫉妬だろうか、何だかんだいって、二人は夫婦らしいので、そうだったら微笑ましい。
 
「もう、ハグしないの」
 
 一日中、仕事をほっぽり出してでも、ずっとハグしていたいぐらいだったのでリノにそう言った。
 
「姫さんダメにゃの、マティ噛み癖あるから」
「え、へぇ……」
「失礼なっ、少しパクッとしただけでしょう!リノ!」
 
 すぐに人間の姿になってマティは答えた。
 
「僕、それで骨折れたことあるよ」
「そ、そんなこと……も、ありましたね」
 
 あったの?!

 マティのような巨大だと、確かに噛まれたらひとたまりも無さそうなのでリノには感謝だ。
 
 ふうとマティは一息ついて、私を見やった。
 
「……教えて、くださいますか」
「……?」
「人の暮らし、看病の仕方、私たちとの違い。姫様に仕えるために必要な事。同じ失敗は、繰り返しません。きっとお役にたってみせます」
「ぼ、僕も!」
 
 真摯な言葉に、私は心底、仕えてくれる使用人が二人でよかったと思う。
 
「はい。もちろん!」
 
 



 
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