31 / 139
お義母さま その2
しおりを挟む髪を綺麗に結い上げて、鋭い瞳は、クルスによく似ていた。毛色も同系色だ、それから遺伝なのか、ちょんと先の折れた耳。
深いグリーンのドレスを身につけている。
「王妃様……?あ、え、……お初にお目にかかります!わたっわたくし。は」
「よい、お前が城に入り、しばらく経つが、謁見のひとつもなかったのです。わたくしに礼儀を尽くそうという気などないのでしょう」
「……そ、そのような事は」
王妃様は、鋭い瞳でギロリと私を睨んだ。
確かに、王城に住まわせて貰っている時点で、両陛下への挨拶は欠かせない、はずだ。エグバート様にお目通りは済んでいたので、すっかり忘れていたが、王妃様への挨拶を忘れて良いわけが無い!
冷たい空気が部屋を包む。
エグバート様に会いに来たつもりだったので、気軽に構えていたが、エグバート様の名前で呼び出されて王妃様が出てくるなんて!せめて一言、言って欲しかった。
いや、元をたどれば私が悪いんだけどね!
すると、研究室の奥の方にある扉から、エグバート様が出てくる。手には本を沢山持っており、私を見て少し微笑んだ。
「そう言ってやるな、ユスティネ」
「エグバート……わたくし、何も虐めているわけでは無いのよ」
「ロイネ、よく来た。礼儀は無用だ、ゆるりとすごすがいい」
エグバート様は、そのままごちゃごちゃと実験道具が置いてある作業台へと向かい、本を広げる。
居てくれて安心したが、ゆるりとは過ごせないだろう。だって王子のどちらと結婚するにしろ、お義母さまになるお方だ、ここで印象が悪ければ、嫁姑問題が勃発する可能性だってある。
まぁ、既に印象は最悪な気がするけど!
私が顔色を青く染めて、その場から動けずにいると、王妃様もとい、ユスティネ様は、私に、鋭い視線を向けた。
「こちらにおすわり」
「っ、はい」
作業机は大きいので、対面ではなく、斜め向かいの位置に椅子が用意されていた。テーブルには既に、タリスビアで主流の少しだけ甘い、香りの薄いお茶が並んでいる。
メイド達との異文化交流にて、知った事だが、マナンルークで親しまれている紅茶は、こちらではマイナーな物であり、このお茶がメジャーなのだという。
香りの薄いことから、理由は何となく察せられるし、飲み慣れれば、意外と美味しい。
「お前達は、下がってよい」
二人のメイドは、頭を下げて、部屋から出ていく。
心強い見方がいなくなり、さらに肩身が狭くなる思いで、椅子に腰掛ける。
目の前のユスティネ様に何とか視線を合わせて、ぎこちなく微笑むが、眼力が強すぎて、縫いとめられたように動けない。
カジュアルな服装をしていようとも、王妃らしい佇まいに息を飲む。エグバート様もそうだが、お年を召して居るはずなのに、指の先まで洗練された美しさだ。
きっとユスティネ様の獣化した姿は、さぞかしカッコイイのだろう。
「して、ロイネ」
「はっ、はいっ」
「人間は、この茶葉は好まないのか」
「え」
「もしくは、わたくしのいれたお茶は、口にしたくないと言うのですか」
「め、滅相もない!」
ユスティネ様が淹れたの?!
驚きとともに、思い切り、ティーカップを引っ掴んで、少しぬるいお茶を勢いよく流し込む。
慌てて喉に流し込んだので、器官に入って、ごふっとむせたが、一気に飲み干した。
苦しかったけれど、咳き込むことも出来ずに、息を止めて我慢する。
「そうか、それほど好きですか、沢山飲みなさい」
また、たっぷりと注がれる。
「ふ、ふぇい」
飲み干すと、ユスティネ様はほんの少し嬉しそうにしつつ、私のティーカップをいっぱいにする。
い、虐めかな?
挨拶を忘れたのが良くなかったのか、もしくは、ルカのように人間嫌いなのか。わからないが、せっかくなので仲良くなりたいんだけれど……。
夕食後なので、あまり沢山飲むことは出来ない。飲み干してテーブルに置いたらまた注がれてしまう。苦肉の策として、私はティーカップを持ったままちみちみと飲んでいく。
頑張れ私のお腹……。
「さて……ロイネ、お前はいつまで、婚約者の身でいるつもりですか」
こくこくとお茶を飲んでいたが、突然の問いかけに、私は口を噤む。
それは……分からない。どちらと結婚するかもわからなければ、何時になるのかなど、あまり前向きに考えていなかったので、放置していた問題だ。
というか少し前にも、エグバート様にも同じようなことを聞かれた気がする。
「……分かりません」
そうだ、月光浴の時、エグバート様に私じゃなくてもいいんじゃないという事を言った気がする。それは帰りたいという気持ちからの言葉だ。今はどうだろう?婚約者二人との関係性は、あまり変わっていないが、いい加減、ルカの暴言には慣れつつある。
あの人は感情の伴っていない言葉しか、言わないので、言ってないのと一緒だ。
クルスは、ずっと良い奴だ。人間には詳しくないので、多少の困り事はあるけれど、それを差し引きしても、好意的に思っている。
人間の姿でも好きだが、ワンコになるとさらに魅力的である。
それにこの場所での生活は毎日、新しい文化に触れることができて知ることができる。それは、意外と楽しいものである。
心配してくれる、メイドが二人もいて、ルカもクルスも人間の私に危険だけは無いように気をつけてくれているみたいだし。
寂しさはあるが、苦痛はない。
これだけ、大切にしてもらって、それを知って居るのだから、もう……駄々を捏ねてばかりは居られない。
「けれど、成人までには必ず、婚姻を結びたいと思っています」
「……そうですか、人間の寿命は短いと言うのに悠長な事ですね」
1
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる