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お義母さま その2

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 髪を綺麗に結い上げて、鋭い瞳は、クルスによく似ていた。毛色も同系色だ、それから遺伝なのか、ちょんと先の折れた耳。
 深いグリーンのドレスを身につけている。
 
「王妃様……?あ、え、……お初にお目にかかります!わたっわたくし。は」
「よい、お前が城に入り、しばらく経つが、謁見のひとつもなかったのです。わたくしに礼儀を尽くそうという気などないのでしょう」
「……そ、そのような事は」
 
 王妃様は、鋭い瞳でギロリと私を睨んだ。
 確かに、王城に住まわせて貰っている時点で、両陛下への挨拶は欠かせない、はずだ。エグバート様にお目通りは済んでいたので、すっかり忘れていたが、王妃様への挨拶を忘れて良いわけが無い!
 
 冷たい空気が部屋を包む。
 エグバート様に会いに来たつもりだったので、気軽に構えていたが、エグバート様の名前で呼び出されて王妃様が出てくるなんて!せめて一言、言って欲しかった。
 いや、元をたどれば私が悪いんだけどね!
 
 すると、研究室の奥の方にある扉から、エグバート様が出てくる。手には本を沢山持っており、私を見て少し微笑んだ。
 
「そう言ってやるな、ユスティネ」
「エグバート……わたくし、何も虐めているわけでは無いのよ」
「ロイネ、よく来た。礼儀は無用だ、ゆるりとすごすがいい」
 
 エグバート様は、そのままごちゃごちゃと実験道具が置いてある作業台へと向かい、本を広げる。
 居てくれて安心したが、ゆるりとは過ごせないだろう。だって王子のどちらと結婚するにしろ、お義母さまになるお方だ、ここで印象が悪ければ、嫁姑問題が勃発する可能性だってある。
 
 まぁ、既に印象は最悪な気がするけど!
 
 私が顔色を青く染めて、その場から動けずにいると、王妃様もとい、ユスティネ様は、私に、鋭い視線を向けた。
 
「こちらにおすわり」
「っ、はい」
 
 作業机は大きいので、対面ではなく、斜め向かいの位置に椅子が用意されていた。テーブルには既に、タリスビアで主流の少しだけ甘い、香りの薄いお茶が並んでいる。
 
 メイド達との異文化交流にて、知った事だが、マナンルークで親しまれている紅茶は、こちらではマイナーな物であり、このお茶がメジャーなのだという。
 香りの薄いことから、理由は何となく察せられるし、飲み慣れれば、意外と美味しい。
 
「お前達は、下がってよい」
 
 二人のメイドは、頭を下げて、部屋から出ていく。
 
 心強い見方がいなくなり、さらに肩身が狭くなる思いで、椅子に腰掛ける。
 
 目の前のユスティネ様に何とか視線を合わせて、ぎこちなく微笑むが、眼力が強すぎて、縫いとめられたように動けない。
 カジュアルな服装をしていようとも、王妃らしい佇まいに息を飲む。エグバート様もそうだが、お年を召して居るはずなのに、指の先まで洗練された美しさだ。
 きっとユスティネ様の獣化した姿は、さぞかしカッコイイのだろう。
 
「して、ロイネ」
「はっ、はいっ」
「人間は、この茶葉は好まないのか」
「え」
「もしくは、わたくしのいれたお茶は、口にしたくないと言うのですか」
「め、滅相もない!」
 
 ユスティネ様が淹れたの?!
 
 驚きとともに、思い切り、ティーカップを引っ掴んで、少しぬるいお茶を勢いよく流し込む。
 
 慌てて喉に流し込んだので、器官に入って、ごふっとむせたが、一気に飲み干した。
 苦しかったけれど、咳き込むことも出来ずに、息を止めて我慢する。
 
「そうか、それほど好きですか、沢山飲みなさい」
 
 また、たっぷりと注がれる。
 
「ふ、ふぇい」
 
 飲み干すと、ユスティネ様はほんの少し嬉しそうにしつつ、私のティーカップをいっぱいにする。
 
 い、虐めかな?

 挨拶を忘れたのが良くなかったのか、もしくは、ルカのように人間嫌いなのか。わからないが、せっかくなので仲良くなりたいんだけれど……。
 
 夕食後なので、あまり沢山飲むことは出来ない。飲み干してテーブルに置いたらまた注がれてしまう。苦肉の策として、私はティーカップを持ったままちみちみと飲んでいく。
 
 頑張れ私のお腹……。
 
「さて……ロイネ、お前はいつまで、婚約者の身でいるつもりですか」
 
 こくこくとお茶を飲んでいたが、突然の問いかけに、私は口を噤む。
 それは……分からない。どちらと結婚するかもわからなければ、何時になるのかなど、あまり前向きに考えていなかったので、放置していた問題だ。
 
 というか少し前にも、エグバート様にも同じようなことを聞かれた気がする。
 
「……分かりません」
 
 そうだ、月光浴の時、エグバート様に私じゃなくてもいいんじゃないという事を言った気がする。それは帰りたいという気持ちからの言葉だ。今はどうだろう?婚約者二人との関係性は、あまり変わっていないが、いい加減、ルカの暴言には慣れつつある。

 あの人は感情の伴っていない言葉しか、言わないので、言ってないのと一緒だ。
 
 クルスは、ずっと良い奴だ。人間には詳しくないので、多少の困り事はあるけれど、それを差し引きしても、好意的に思っている。
 人間の姿でも好きだが、ワンコになるとさらに魅力的である。
  
 それにこの場所での生活は毎日、新しい文化に触れることができて知ることができる。それは、意外と楽しいものである。
 心配してくれる、メイドが二人もいて、ルカもクルスも人間の私に危険だけは無いように気をつけてくれているみたいだし。
 
 寂しさはあるが、苦痛はない。
 これだけ、大切にしてもらって、それを知って居るのだから、もう……駄々を捏ねてばかりは居られない。
 
「けれど、成人までには必ず、婚姻を結びたいと思っています」
「……そうですか、人間の寿命は短いと言うのに悠長な事ですね」
 


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