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お義母さま その3
しおりを挟む棘のある言葉がグサリと刺さる。
でも当たり前の言葉だ、だって今すぐに、婚姻して、子を成した方が私の立場も安定するし、タリスビアへと貢献していることになるはずだ。それを、成人まで、十六歳になるまで待ってもらうのだ。
両陛下にも、人口減少を改善する思惑があって人間の姫を王室に迎え入れたのだ。
私は今、十五歳なので、一年後までそれが先延ばしになる、嫌味のひとつも言われて当然だ。
「しかし、問題はあの子達にもありますね」
ユスティネ様は、私だけを責めるつもりは無いようで、ふと視線を逸らす。
「騒動があったとは言え、すべき対応は他にあったように思いますから」
「……そうなのですか?」
「えぇ、お前も一人残されて、不安でしょう。本来なら、姫は二人居たはずです」
「……」
それはどうだろう。もう一人マナンルークの姫がいたとして、私は、上手くやれていた気はしないけれど、とりあえず笑っておく。
「クルスにも困ったものだな」
「まったくです。……エグバート、貴方が甘やかすからでしょう?」
「身に覚えがないな」
「都合のいい頭だこと」
エグバート様は、本を読みつつも私達の話を聞いていたらしく、会話に入ってくる。
器用な事をするものだ。私だったら本の内容と話がこんがらがって変なことを言ってしまいそうだ。
しかし、なぜクルスが話題に上がっているのだろうか?
仮にもお嫁さん候補である私に、暴言や、横暴があるルカの方では無くクルスの話になっている。
「……あの、クルスは、良くしてくれていますよ」
「あら、人間は能天気ですね。あの頑固者に、利用されているのは貴方でしょう?そのちっぽけな脳みそで、考えてご覧なさい」
「は、はい……?」
細々とした嫌味がチクチクと刺さる。
クルスが私を利用?……もしかして、クルスの想い人の事をユスティネ様は知っているのかな?
自分の思惑のために私を選んだとクルスは言っていたが、私にも、結婚までに猶予が出来たので利用されたとは思っていない。首を捻る私にユスティネ様はあきれたように言う。
「……はぁ、貴方は、ルカに選ばれたのでしょう?本来なら、順当にルカと交流を深め、婚姻し、この国の姫として、実家への支援や、この国での権力を少なからず持っていたはずです」
「はい」
「公務への参加や、自身で従者を選ぶ事も出来る。城の従者や国民へ、早い段階で周知させることが出来れば、人間というか弱い種族のお前を守ることになるのです」
言われて見ればその通りだ。城下町に降りて感じた事ではあるが、獣人は人間を、知らなすぎる。
まるで、異形の者でも見つけたように、私を見るとパッと振り返る。
獣人も人間も、知らない者が居れば、驚くし、それはトラブルにも繋がるだろう。マナンルーク国の姫と言うだけでは、この国では後ろ盾不足なのだ。
早く王子の妃になるべきだという、ユスティネ様の主張は、私の身の安全にも繋がるのか。
それでも、ルカに選ばれたから、結婚しろと言われても、それはそれで……困る。
「……それでも、私は……ルカとその。あまり」
「はぁ……あの子はまだ、人間嫌いを主張しているのですね」
「困ったものだな」
エグバート様は先程と似たような事を言った。なんだか、面白い。
ユスティネ様はお茶に口をつけて、憂鬱そうに頬杖をついた。憂いを帯びた表情は、大人の女性らしく、女の私でも惚れ惚れしてしまう。
「エグバート、貴方が、子育てについて解決策を出した事ありますか?……口先だけで問題視するのはよしてくださいな」
「……ロイネよ、お主は優しき妃となるのだぞ」
「ロイネ、男には子育ての苦労が分からないのですよ、将来、子育てで困り事があってもエグバートには相談してはなりません」
真剣な話だったのが、いつの間にか夫婦の会話になっていた。なんだか、仲睦まじい姿に、曖昧に笑って二人ともに頷いておく。
人間でも、獣人でも、男性は子育てであまり頼りにならないらしい。
屋敷では、使用人の話を聞いているだけだったが、今は、これから家族になる人達の話だ、家族に混ぜて貰えたようで嬉しい。
「……ふふ」
「何が面白いのですか」
「いえ、お二人の関係が素敵だなと、思いまして」
「妙な人間だこと、どんな風に見えているのか知りませんが、お前も近いうち、息子のどちらかと夫婦になるのです、他人事ではありませんよ」
「はい……そう、ですね」
自分が痴話喧嘩している姿など想像もできないけれど、考えてみる。
痴話喧嘩は、私の中で夫婦の象徴みたいなものだ、仲がいいからお互いに、軽口を言えるし、本音で話せる。ちょっとだけ、楽しみだ。
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