お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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お義母さま その4

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「……ルカについては、あの子にも問題がありますし、お前達の関係になりますから、助言は出来ません。……ただし、向き合うのは苦労するでしょう」
 
 リノも言っていた、ルカと結婚するのは苦労すると、あの性格のせいなのか、それとも私が知らない何かがあるのだろうか。
 でも、ルカを拒否してクルスと結婚すると言う選択肢は、形式上は二人と婚約しているので、出来ないことは無いけれど、あって無いような選択肢だ。
 
「ユスティネ様、けれど私、クルスと婚姻するつもりはありません。彼には、想い人がいると聞きました」
「それは本人から聞いたのですか?」
「はい、そうです」
「……ふぅ。だからなんだと言うのですか」
 
 ユスティネ様は、私を仕方のない子を見るような目をして、眉尻を落とす。
 
 だからなんだって、言われても、私の中では大問題だ。意中の相手がいるのに、クルスを選ぶ事は出来ないと思っている。
 
「私が彼を選んだら、彼の願いは潰えるのです。だから、そんなことは、できません」
「クルスの心象が悪くなるのを恐れているのなら、わたくし達から、命令する事も可能です。お前は、対等に二人を選べる立場にあります」
「それは……」
「婚約者が二人……どちらかをお前が選んで、決めるなどと言う重役を人間に背負わせたのは、わたくしの息子です。予め決まっていれば、お前はこのような苦労をする必要はなかった」
 
 ユスティネ様は、私の膝に手を置いた。
 大きくて、暖かい手のひらだ。
 
「人間と言うだけで奇異の目で見られ、立場も安定しない状態で、放っておけるほど、わたくし、無情ではありませんよ」
 
 ユスティネ様を見れば、やはり鋭い瞳だが、怖いとは思わない。遠回しに、不安定な立場の私を心配してくれていたのだ。
 
「お前の提示した、成人までの一年の期間、それはロイネにとって必要な物かも知れません。婚姻を結んでしまえば帰郷は叶わず、獣人と夫婦になる……覚悟が必要でしょう。ですが、それは安全より、優先すべき事ではありません」
 
 ちゃんと私の心も、加味してくれた上での助言に、きっと沢山考えてくれたのだと思う。
 私の気持ちに、寄り添ってくれた優しさが、じんわりと嬉しくて、膝に置かれた手に手を重ねた。
 
「もう一度問います、貴方はいつまで婚約者の身でいるつもりですか?……クルスの事は、結婚さえしてしまえばどうとでもなります。そもそも、アレは王子です。国のために身を捧げて当然でしょう」
 
 そう、なのだろうか、ユスティネ様の話を聞いて、私が決めると言うのは、荷が重すぎるというのもうなずける。
 
 クルスと結婚すると言ってしまえば、きっと、前向きになれる。
 結婚してもクルスなら、あからさまに態度を変えるようなことも無いのだろう。パーティの時には、諦める素振りもあった。
 
 仕方ない状況になれば……気持ちもこちらに傾くのかな……。
 
「ルカはどうなるのですか」
「好きに妃を選ばせます、その妃が獣人であろうと、お前が蔑ろにされるような事はありません。わたくしが保証します」
 
 ……そうか、ルカは、獣人と結婚できるのか。
 その方がいいのかもしれない。人間に対してだけ、敵意のある言葉を向けるのだから、無理に人間と結婚する必要など無いのかもしれない。
 
 それでも……決め切れないのは何故だろう。
 
「ルカを選んだら?」
「……エグバート」
 
 私の疑問に、ユスティネ様はエグバート様のほうを振り返る。
 なんだろう、と私は首を傾げた。
 
「よい、教えてやりなさい」
「マナンルークへと婿に出します」
「……どうして」
「我々は、人間と共存しなければならない。ルカは人間と友好を築く事は不可能でしょう。けれど、クルスであれば、問題は無いはずです」
「……相手は、決まっているのですか」
「あの子の想い人を予定してします」
 
 私が、ルカを選べば、クルスは結ばれる?
 
 ……聞かなければ、良かったかもしれない。けれど、知らなければいけなかった事だとも思う。
 
 ……タリスビアは一方的に、姫を要求していたと思っていたが、婚姻によって対等な関係の構築も目的にしていたらしい。まぁ、政治的な話はあまり分からないが、クルスが婿入りすれば、きっと人間の常識も獣人の常識も、変わって行くのだろうと思う。
 きっとクルスを選んだ場合でも、位の高い貴族を婿や嫁に出すのだろう。
 
 いつか、人と獣人が仲良く暮らす町が見られるのだろうか……と、そんなことを夢想したが、全くもって判断材料には、ならなさそうであった。
 
「……」
 
 思考は止まり、何も言えなくなる。
 
 ふと、エグバート様もこちらへ歩いてくる。
 
「やはり、決まらぬか」
 
 ぽんぽんと私の頭を撫でた。
 ここまで、真摯に説得されて、それでも、何も言えない私に呆れるでもなく優しく、笑いかけた。
 
「ユスティネ、焦らずとも良い、私達が守ってやればよいだろう」
「貴方は、いつもそうです。……ロイネ、自分のことだけ考えれば良いのです、どちらでもわたくしは、必ずお前の義母として、支えます」
 
 私の手をぎゅうと握って、安心させるためか、ユスティネ様は軽く口角をあげた。
 
 自分のことだけ考えて選ぶ、そう言われても……難しい。
 それならばいっそ、この二人に選択をお願いしたらどうだろう。きっと、私なんかが考えるより、いい答えを出してくれるんじゃないだろうか。
 
 ……それで、決められた相手と分かり合おうと努力をすればいいのだ。
 
 きっとそれがいちばん簡単。
 私の心も、荒れずに済むだろう。
 
 そうだそうしよう。それがいい。一言、任せますと言えば。
 
「……」
 
 言おうと思って口を開くが、声を出さずに口を噤んだ。
 
 私は……。





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