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お義母さま その5
しおりを挟む「……ユスティネ様、エグバート様、私、今は決められません」
どちらかを選ぶ事は、ルカとクルス、両方の人生に大きく関わることだ。私のせいで不幸になる事だってあるのだろう。
私は嫌われるかもしれないし、恨まれるかもしれない。けれど、それから逃げたいとは思わない。
それに、私自身も、不幸にも幸福にもなるかもしれない。
その選択の責任を他人に押し付けて、言い訳をするのは、嫌だ。
「けれど、必ず、決めます。……一年では長すぎるというのでしたら、半年後、春の終わりまでに」
「……お前は、苦労する道を選ぶと言うのですか」
「はい。……自分で選んだのならきっと、それが一番頑張れると思うので」
タリスビアには、他人に決められて来た。
婚約者になったのも人に決められた事だ。
私のちっぽけな人生を振り返ってみれば、私自身が自分の身の振り方を選択出来る事など、一度も無かった。
考えるのは難しい事だ、けれど、初めて与えられた生き方の選択肢。
私の夢に近づくために、幸せになるために、悩もうと思う。
大人から見れば、馬鹿な事かもしれないけれど、どうかわかって欲しい。
ユスティネ様を伺うと、少し悲しそうに、呟く。
「……半年後ですよ、わたくしとの約束です」
「はいっ」
私がえへへと口を開けて笑うと、ユスティネ様もつられたように、軽く微笑んだ。
それをエグバート様は私の頭を撫でながら、微笑ましく見ている。
「では、これからはわたくしの事はお義母さまと呼ぶのですよ」
「私の事はお義父さまと呼びなさい」
当たり前のようにそう言われて、ぱちぱちと瞬きをする。
どこから繋がって、そうなったのだろう。
お義母さまって……私、初めて人をそう呼ぶかもしれない。結婚するのだから、当たり前の事のはずだが、そう呼ぶ事を許されるとは、思っていなかったので、驚きから、固まってしまう。
「あら、わたくしの事は母と認めないつもりですか?そのような事は許しませんよ」
「ユスティネよ、そのような事を言うものでは無い」
お義母さまと呼べと、私に迫るユスティネ様をエグバート様が宥める。
妙な感じだ、母と呼ぶなと言われることはあっても、読んでくれと言われるだなんて思ってもいなかった。
「……無礼では、ありませんか?そう呼んだら後で捕えられたりしませんか?」
家族に飢えている私に、母と呼んでいいなど罠か何かだろうか。旦那より先に両親が出来てしまった。それも凛々しくてかっこいい人達だ。
ものすごく……素敵だ。
「何を言っているのですか、もう娘も同然です。人間は、娘が母と呼んで咎められるのですか」
「いえ、そんな事、ない、です」
「ならば呼べば、よかろう」
娘っ。こんな高貴な人の?やっぱり恐れおいよ!お義母さまと呼べることは嬉しいけれど、心の準備に時間がかかりそう。
焦る私に、ユスティネ様は耳をへたりと下げた。
……うぇ?!ま、まさか、しょんぼりしてる!?嘘でしょ?私に母って呼んで貰えなくて悲しんでるの?!……っ恥ずかしいけれど、呼ぶしかない!わ、私だって、義両親と仲良くなりたい!
「お義母さま、お、お義父さま、その、これからよ、ろしくお願いっします……」
「ふふ……こちらこそ、さぁ、明日からは娘としてビシバシ教育しますからね」
「お、お手柔らかにお願いします!」
座ったままぶんと頭を下げる。
ひゃー、明日からがちょっと怖いけれど楽しみだっ。
「お義父さま……お義父さまか、良い響きであるな」
エグバート様はしっぽを揺らして、物思いにふけっている。そういえば、二人には息子しかいないのだ。男児の両親は娘に憧れるのだと、屋敷のフットマンが言っていた。
理想の娘になれるか分からないが、暖かく歓迎されている事を嬉しく思った。
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