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ダンスレッスン その1
しおりを挟む「母上よ」
「なんですか」
「なぜ、ダンス練習の相手が母上なのだ」
音楽を流す魔法道具から、テンポの早い曲が流れる。マナンルークでもたまに見かける、箱にラッパが着いているようなデザインの魔法道具だ。
お義母さまがリズムを取って、私をリードする。
身長差もあるし足の長さも違うので、彼女が一歩踏み出すと、私は慌てて、二三歩かけてついて行く。
ありえない速度のターンに、ダンスと言うより演武を連想させる。キレッキレな動きも美しいお義母さまに、何とかついて行こうと、足を動かす。
息が上がってしまい、私は一言も言葉を発せないのに、お義母さまは余裕そうに、側で見ている、クルスと会話をしていた。
「俺が相手をする約束だった」
「バカを言うものではありませんよ、お前が相手をしたら、ロイネの手足がもげてしまうでしょう、いち、に、さんっ!ターン!」
「はうっ」
遠心力に、平衡感覚を奪われる。
お義母さまでもクルスでも、正直、四肢の一本ぐらいは、取れてもおかしくないと思う。
「首きりをしなければ、目が回りますよ。ロイネ!しゃんとなさい」
「は、はいっ」
く、首きりってなんだっけ?昔、習ったような気がするが通常の社交ダンスでは、使わないと言われたので、記憶が薄い。
確か、ターンする時に、一点を見たまま回転する技術だったような気がっ!
考えながらもステップをふむ、お義母さまの素早く、そして綺麗な足捌きに、私はうる覚えのステップを少し間違えつつも、何とかついて行く。
どう考えても致命的なステップミスでも、お義母さまの足をふむことは無い。どうなっているのか分からないが素早く避けているの、かな!多分!
「間違えても堂々となさい!ミスを修正するのは男の仕事っです!はい、ワン、ツーっ、フィニッシュ!」
そうなのか、獣人の男性は、器用なことが出来るのだな。
ピタっと止まって、ポーズを決める。
音楽が止んで、やっと一曲終わったと思い気を抜くと、ピシャリとお義母さまの叱責が飛んでくる。
「最後は笑顔、忘れてはなりません」
「え、えへへ」
「声は出さなくてよろしい」
私はぐーと口角を上げて、にまぁ~と笑う、疲れきって、変な顔になっているだろうが、どうでもいい。
パッと手を離されると同時に、呼吸を深くして、その場に座り込む。
短距離走を永遠走らされたような気分だ、まさか獣人式の社交ダンスがこれ程のものとは、思いもしなかった。
「お疲れ様でした。姫様、お水をどうぞ」
「あ、ありがとっ、マティ」
すぐにマティがお水とタオルを持ってきてくれる。
獣人相手だと、社交をするにも体力が必要そうだ。筋トレでも始めようかな。
お義母さまは、ダンス解説のために作ってきた書類に、追記事項を書き足している。
ここは、小規模だがダンスホールなのでテーブルが無い、出窓になっている部分をテーブルの代わりにして、ペンを走らせる。昼下がりの暖かい陽光が差し込んでおり、お義母さまに後光が刺しているかのように見える。
あんな激しい運動をした後なのに、まったく息が切れていない。人間の私でも修練すればそうなれるのか微妙なところだ。
「ロイネ、お前は体が小さい分小回りが聞きます、お前を軸にして相手が動きをカバーしつつ、リードすれば様になるでしょう」
「あ、ありがとう、ございます」
褒められているのか分からないが、とりあえずお礼を言っておく。
けれど、お義母さまの提案通りのダンスをするとなれば、さっきよりも、多めにターンをする事になるのでは無いだろうか。さながらコマのようにクルクル回り、ついでに目も回っている自分が想像できた。
「問題は体格差ですね。クルス出番ですよ、そばに並びなさい」
「母上、俺は暇では無いのだが」
「何を言っているのですか、お前の予定など把握しています」
クルスは、母に良いように使われるのが嫌だったのか、また仏頂面を極めて私の手を取る。
呼吸が落ち着いてきた私は、立ち上がってクルスの傍によった。
「まるで親子ですね。人間は、これ以上大きくならないのですか?」
「ど、どうでしょう、個人差ありますけど、伸びて10センチが限界かと」
160センチあれば女性の中でも高い方なのだ。そこまで伸びればいいけれど、今の身長だと、180センチはありそうなクルスと並ぶと、親子に間違えられても文句は言えない。
クルスは身長自体が、180センチほどでも、お耳を含めると何センチになるか分からない。私も髪が長ければ、それをもりもりと結い上げ、かさ増し出来ただろうが、無いものは仕方がない。
「ロイネには、高さのある靴で、踊る技術も必要でしょうね」
「お義母さま、私、ヒールが高いと転ぶ確率が上がります!」
「そんなものは男性に任せない。お前を無様に転がしたら、それは男の力量不足です」
「な、なるほど!」
これは獣人の価値観なのか、それとも社交ダンスの常識なのか分からないので、そういうものだと納得しておくこととした。
「ただし、慣れない靴を履いて怪我をしては困ります。普段から、ヒールの高い靴を履いておきなさい」
「わかりましたっ」
些細な気遣いに、感謝しつつ、しっかりと返事をする。
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