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遊猟会 その4
しおりを挟む圧力が見えないから、私だけこれほど能天気でいられるのだろうか。
他の人が、怯えたり危険を感じたり、する物なのに、感じられないのは、少し怖いと思う。でも私は獣人を知っていくと決めている。
大丈夫、お義母さまの事、私は結構信じているのだ。
「ノーラ、教えて?」
「っ、なっ何を!ノーラはっ!ロイネ様がノーラをバカにするからっ」
「ごめんね、ノーラ、馬鹿にした態度を取った記憶が無い。私、ここに来て、皆と本当に仲良くなりたいと思って接してるよ」
「う、嘘よ!」
「嘘じゃないよ」
ノーラの目を見て、訴えかけたが、どうにも通じそうに無かったので、私は交友的に接していると信じて欲しくて、とりあえず、席を立って、彼女の手を取った。
柔らかくて小さな手は、女の子らしいと感じた。
握手とハグでもしておこうかと思ったが、手を取った時点で、その手がガタガタと震えていた。
「え。え?、え?」
「どうかした?」
「ロイネ様、ノーラが好き、な、の」
「えぇ?か、可愛らしいとは思うよ」
「こ、困るよ、カミーユがいるもの」
「あら、恋人なの?」
「婚約者よ」
「いいね、ステキ」
えへへと笑って私は席に戻る。どうやらもう、ノーラは怒っていないようで、ぽかんとしたまま、私を目で追っている。
カミーユとノーラは婚約関係だったようだ。ままあることだろう。二人共貴族の中でも、地位の高い家柄同士だ婚姻関係があれば国内の結束力を高まる、是非とも仲むつまじくやっていってほしいものである。
カミーユに頑張れという意味で視線を送ると、彼は瞳を瞬きながら呆然としている。
さて、ノーラはさっきまで怒っていたのだ。私の友好的握手!で何とか収まったが、あのままだったら修羅場まっしぐらだっただろう。理由を確認しなければ。
「それでノーラ、なんで怒っていたの?」
「え……ええと、ロイネ様が圧力を纏わないまま、ノーラ達と接してるから」
「うーん……それってダメなことなの?」
「ダメ、ダメに決まってるです。お前相手に圧力を出す必要も無いって侮辱です!だからノーラは怒って」
なるほど、言われて見れば、納得の理由だ。獣人同士の社交だとそれがスタンダードなのだろう。
だからと言って圧力を出せるわけでは無い、どうにか、理解してもらうしかない。
「そっか、ほかの三人が怒らなかったのは、なんで?」
「私は、遊猟会が決定した時に、少々話を伺がっておりました」
ふと気になって、振り返ると、カミーユは気まずそうに笑いながら言った。
次にディーテに視線を向けると、椅子に戻ってきたらしく、身をかがめて、ボソリと呟く。
「僕は、少し事情があって知ってました……」
「わたくしは、エクトルお兄様から、人間は圧力を出さないと伺ってました!」
それぞれ、下調べから事前情報、色々、加味していたらしい。
そして、人間にあまり馴染みの無い、ノーラがキレたと。
「申し訳ございません、ロイネ様、私が説明しておくべきでした」
「いいえ、大丈夫です。カミーユ」
今度からは、知らない人と社交をする時は、根回しをして置くか一言添えた方がいいだろう。
周りの意見を聞いてノーラは、皆を一周見回して、それから、私を見る。
「ノーラ、不快な思いをさせてしまってごめんなさい」
「っ、あ、……いえ、こ、こっちこそ、ノーラこそ……ごめんなさい」
「はいっ」
そう言って謝る姿は、先程の気迫はまるで無く、彼女は失敗としてしまったと、へたっと耳を提げて、うるっと瞳に涙を浮かべる。
あぁー……可愛い。いや、その。耳の動きというか、うん。
……そう言えば、もうひとつ気になったことがあった。
「あのそれと、どうして私が触れた時、ノーラのことが好きなのかと聞いたの?」
「あ、っ……いっ言えません!」
些細な疑問だったので口にしたのだが、ノーラは追い打ちをかけられたとばかりにビクッと反応して、プルプルと震える。
その奥にいるアンジュに視線を向けると、彼女も目が合ってビクッとしてから、困ったように口を開いた。
「他人といる時に、わざと圧力を出さないのは、侮辱……ですが。その、……っ、獣人同士で圧力を一切出さないまま触れ合うのは、夜伽のときだけで、ですの」
「……へ、夜伽」
よとぎ、と言うのは、あれだろうか、成熟した男女が行う……っ……。
そんな意味だとは知らずに、ノーラに触れて勘違いさせたのか私っ!人間の社交ではただの握手なので全然セーフだが、獣人の方では完全にアウトだったらしい。
き、気をつけよう。
今、男性がいる方へ顔が向けられないっ。
「ご、ごめんね!ノーラっ」
羞恥で、いても経ってもいられずに、顔をおおった。
「……」
気まずい……こんな素敵な、秋晴れの気持ちいい昼時に話すことじゃないよ!
な、何か空気を変えられるものはないだろうか。
ちらっと、カミーユの方を盗み見ると、彼も、なんと反応したらいいか分からないようで、斜め下に目線を逸らして、私の羞恥心が伝染したのか頬を染めていた。
そ、そうだよねぇ!誰だってはずかしいよね!大人っぽい人だと思っていたが、年相応な感性もあるらしい。
うん、そうだっ。ここは身分の一番高い私が進行しなければ!
幸いもうこれ以上の失敗は無いと思えて緊張がほぐれてきた。
よ、よしっ。やるぞー!
「ま、まぁ、私っ、見ての通り、とても常識に疎いのよ。だから……その、今日共に過ごして、非常識だと思うことがあったら、遠慮なく教えてくださいね!みんなっ」
「は、はいっ」
「わ、わかりました!」
口々に返事が返ってくる。
導入はこんなものでいいだろう、いよいよ、遊猟会を始めるべきだ。お腹も空いてきたしね。
「それでは、遊猟会!始めましょ!楽しんでいきましょう!」
にっこりと微笑む、まだまだ、会は始まったばかりだ。こんなところでつまずいて居られない。
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